老侍、主君との馴れ初め
「そんなある日、当方の噂を聞きつけた御方が現れたのです。それが……姫様の御父上であらせられる伊勢國を統べる鬼属、九鬼 澄隆様との出会いでした」
「ワシの父上と?
そうか、そういえば仰っていたのう。
町で金脈にも等しい若者を見つけた――とな」
この時の八兵衛さんは珍しく落ち着かない様子で視線を背け、酒を口にしては結わえた髪をしきりに気にしている。
理由は分からないが、酷く焦っているような印象を受けた。
「それで澄隆公の元で奉公するようになったんですね」
「う、うむ……まぁ、その時は……その…」
明らかに彼らしくない態度。
そこで初音の奴はピンときたのだろう。
『何かあったな』――と。
「ほうほう、それでそれで?
その先を申してみよ。遠慮するでないぞ」
「その……御食事が冷めてしまいまする。
当方の話はここまでに…」
「いやいや、冷めたら温めるんで!
話の続きを聞かせてくださいよ」
メッチャいいところで話を反らすやん!
だけど、ここまできたら俺も続きが気になって仕方がない。
ギンレイにも負けない爛々とした二人の瞳に圧され、彼が初めて見せた逡巡をたっぷりと観察させてもらう。
ようやく観念した八兵衛さんは、遂に回想の続きを口にした。
「あの頃は…若気の至りと申しますか……。
澄隆様から直々に頂いた仕官の話を乗り気になれず、御断り申し上げたのですが……それでも諦めてくださらなかったので…」
次第に酒を口にする機会が増え、会話が途切れるたびに俺と初音が交互に酒をつぐ。
そして、語られるラスト。
「腕に自信のあった当方はあろう事か……『俺に勝ったら家来になってやる』などと大言を吐き、勝負した末に――それはそれは…完膚なきまでに敗北を喫し、今に至る……という訳に御座いまする」
顔が赤いのは決して酒に酔ったからではない。
これまで誰にも語ってこなかった昔話を告げた彼の顔は、耳から首元に至るまで真っ赤に染まっていた。
初音はそんな彼の意外な一面と、思いもよらず聞けた父の武勇伝に喜びを爆発させ、ギンレイを抱えて踊りだす。
鬼巫女とタテガミギンロウが織り成すのは自由奔放にして笑顔の円舞曲。
これほど嬉しそうな初音を見るのは初めての事で、俺の方まで不思議と喜ばしい気持ちが沸き起こる。
「それでそれでそれで!
例の渾名は誰がつけたのじゃ? 教えて~♪」
御機嫌この上ない初音は、20年来の忠臣へ最後の質問を投げ掛ける。
観念した八兵衛さんは幼い姫君からの問いに、真っ赤な顔を向けて答えた。
「己の未熟を悟った当方は心を入れ替え、熊野灘の荒波を相手取り武芸百般を磨いたのです。やがて澄隆様より矢旗の名字を賜り、その折りに『波切り八兵衛』の二つ名まで頂戴した次第に御座いまする」
撫斬りから波切りか。
初音のお父さんも粋なことをする人だな。
八兵衛さんは汗を拭う素振りをしているけど、耐え難い恥ずかしさによって顔を隠したがっているのが手に取るように伝わってくる。
なんとも奇妙な縁にまつわる話を耳にできた。
これにより、宴の席は幕を閉じる事となったが、本当の長い夜はここからが始まりであった。
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