核心への王手
メッチャクチャ苦労して運んできたまでは良かったものの、流石に食材として扱うにはデカ過ぎんだろ…。
とはいえ、『やる』と言ってしまったからにはやるしかないのだ。
「何を難しく考えておる。いつもの『あわじょん』で解決すればよいではないか」
「流石にこのサイズだとAwazonでも手に負えないよ。今回は別の手段で調理してみるさ」
そう、これだけ大きいと焚き火の火力では中まで火が通らず生焼けになってしまう。
さりとて、風呂として利用しているドラム缶を鍋代わりにするワケにもいかない。
だったら、取るべき手段は一つだけだ。
「あしなよ、急に穴など掘りだしよって何を考えておる? 夕餉の用意はどうしたのじゃ?」
「今やってるトコさ。
まぁ、みてなって!」
タープテントの周辺は水気のない砂利になっており、ここを折りたたみスコップ一本で掘り起こすのは予想よりも骨の折れる作業だった。
苦戦していた俺を見かねたギンレイが前足を使って手伝ってくれたのを皮切りに、皆で一心不乱に穴を掘っていく。
汗だくになって動いていると、不意に八兵衛さんが話し掛けてきた。
「杜の入口で生活の痕跡を見つけた際、どうしても分からぬ事がひとつだけあった」
急に言われたので驚いたというのが正直なところだが、表情は相変わらずおっかないのに、口調は随分と優しかったのが印象に残る。
「何が分からないんですか?
旅の途中で偶然見つけた岩の裂け目に住まわせてもらってた。それだけっすよ」
嘘はついてない。
しかし、老人はしゃがれた声で自嘲気味に笑い、伏せていた核心へ王手を掛けた。
「くくくっ、馬骨が老骨を侮るな。
この化け鯰ならいざ知らず、人間の足跡が急に湧いてくるものかよ。
お前は何か途轍もない秘密を隠している。
当方の勘がそう告げておるのだ。話せ」
参ったな。
こうもスマートに真正面から迫られると、はぐらかして話題を反らすなんて通用しない。
なにより、僅かな違和感を読み取って真実を見抜いた慧眼に対して、あまりに野暮ってもんだ。
俺は初音の方に目を向けて無言のアイコンタクトを送ると、伏せていた秘密を全て打ち明けた。
別世界の存在。
未だ解明されていない『異世界の歩き方』。
旅を支えるAwazonというアプリ。
そして女媧と不可視の化物。
信じるかどうかは彼次第。
だが、どんな反応を示したとしても彼を責める事はできない。
たとえ異世界に飛ばされる前の俺が聞いたとしたなら、それこそデキの悪い創作として全く取り合わなかっただろう。
ひとしきり話し終えた後、感想を聞けるまで手を動かして穴を広げていく。
さて、手打ちにすると言い出すのか、問答無用で初音を連れて帰ると言い出すのか…。
どちらにせよ老人は無言のまま手を休めず、ようやく作業が終わる頃、呟くようにして彼は告げた。
「葦拿……と言ったか。
話の全てが理解できた訳ではないが……お前を信じよう。姫様が信頼するお前を、当方も信じる」




