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万策講じて尽き得ぬ輩 (八兵衛視点)

 泥沼が足元で盛り上がり、最後の時を静かに待っていた最中さなか、耳元でけたたましい音が鳴り響く!


「な……鉄砲か!?」


「いやいや、ただの爆竹っすよ。

 あれから散々ポイントを探したんですけど全然釣れなくて…。あ、それより怪我とかしてないですか?」


 ――想定外だ。

 誰よりも先に姿を現し、当方を救ったのが馬骨ばこつだとは…矢旗やはた 八兵衛、一生の不覚!

 しかし、事態は一刻を争うのだ。

 機先を潰された化物の気配が遠ざかり、その隙に状況説明を手早く行う。


「ギンレイは地中に潜むなまずの腹に居る。

 うまくすれば助かるやもしれぬが……匕首ひしゅなど持っておるか? 当方はいくさのぞむ刀も尽きたところだ」


「流石にAwazonでも刀は置いてませんね。

 ナイフならありますけど、それだったらコレを使ってください」


 黒い板を触っただけで宙から武具を呼び出し、こちらに手渡してきおった!

 当方は夢か幻でも見ているというのか!?

 長さは小太刀ほどしかないなただが、間違いなく本物!

 この男、本当に何者だ…?

 しかしながら、今はいくさの真っ最中。

 目まいのする頭にかつを入れ、再び相対するが奴は思っていたよりも用心深く、そして狡猾こうかつであった。


「貴様は下がっておれ!

 今度こそ三枚におろして――」


「八兵衛さん! 後ろだ!」


 地面からではない!

 ()()()()()()巨体が突き破り、鋭い牙でももを深く切り裂く。

 鮮血が泥水に沈み、互いを求めて混じり合う。

 機動力を奪われ、動きが鈍る最中さなかにおいても、我が心に一点の曇りなし。

 ……天は未だ我を見捨てておらず!

 僅かに身をひるがえすのが遅れたなら、片足をもっていかれるところであった。

 この程度なら負傷の内にも入らぬが、問題は当方らが身を置く穴そのものである。


「ここの壁は……岩ではない!

 ()だ。気づかなかった…。

 侵食した穴を泥で塞ぐ知恵があったとはな」


 取るに足らない畜生だと甘く見ていた。

 まさか、このような小賢しい手段を講じるとは思わなかったのだ。

 二度三度と続けて遅れを取るとは……そうか、歳か――熊野に帰ったら大殿に隠居を願い出るとするか。


「……生きて…帰れたならな」


「あの……もし、ナマズが出てくる場所が特定できたら…勝てますか…?」


 このうつけめ、何を言っておるのか。

 それが分からぬから苦労しておるというに!

 しかし、当方の返答を待たず、再び妙な物を取り出して方々に突き立てていく。

 これは――。


「相手が地面の中に居るんならモグラ撃退器で追い詰めましょう!」


「な……なんと面妖な…!」


 10を超える数の杭を取り出し、次々と地面や壁、果ては天井にまで打ち込んでいく。

 途端に広間に響く奇妙な音は――理解できぬ!

 しかも、杭頭くいとうは不気味な光を放ち、明滅を繰り返しているではないか!


「貴様は術士だったのか!?

 姫様に近づくとは……何が目的だ!!」


「そんな事より、あの光ってる所にナマズが居ます! ほら、こっちに来てる!」


 なまずの動きが明らかに鈍っている。

 これも杭の……いや、術の効果だと言うのか?

 地面から壁を行き来する動きは視覚的に見れば単純だが、何も知らなければ容易に首を取られていただろう。

 次第に奴は奥の手と思われる天井へ移動し、最後の時を見計らう。

 何が何やら皆目かいもく見当がつかぬ。

 つかぬが――お陰でいくさには勝てたようだ。


「あまり年長者を待たせるな。

 その首、素直に渡すがよい」


 巨体の落下と同時に波切りの閃光が走る。

 濁りに満ちた泥沼を映した瞳は着地を待つ事なく、無言のまま打ち払われた首が天を見上げていた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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