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渾身の一撃! (八兵衛視点)

 入口を被う粘液を一閃してぎ払う。

 それにしても、先程の生物は一体?

 地中から襲ってくるなど、見聞きした事もない!

 身体の特徴としてはなまずのように思えたのだが、あれ程の個体が日ノ本に居たとは思わなんだ。


「食った犬を消化するには時間が掛かるはず。

 食料調達の()()()に腹をばさばいてくれるわ!」


 食生活を指摘した手前、魚を持っていくのは気が引けるが仕方あるまい。

 穴の奥へ進んでいくと大量の残骸が転がっており、人も獣も関係なしに襲われているようだ。


「修験者達の成れ果てに…こちらは盗賊か?

 襲い、喰らい、吐き捨てるとは…なんたる醜悪な所業! 奴は何処いずこに消えた?」


 長年の風雨によって巣穴を構成する石貝岩が侵食され、内部は迷路のように入り組んでいた。

 不退転の覚悟で飛び込んだものの、かなり厄介だと言わざるを得ない。

 奥に行けば殆ど日光が届かず、当方の夜目をもってしても僅かに輪郭りんかくを捉えるのが精一杯。

 しかし、戻ったところで馬骨ばこつでは役に立たず、姫様を危険にさらすなど論外!

 ここは当方の独力で切り抜けるしかないのだ。


「犬よ! 貴様もタテガミギンロウの端くれならば、腹の底で一矢報いてみせい!」


 静寂に耳を澄ませる。

 しかし、返ってくるのは水の滴る音ばかり。

 やはり徒労とろうに終わるのか…。

 諦めかけたその時、前方奥の暗闇から確かに聞こえたのは――。


「くぐもった犬の鳴き声と鈴の音!」


 即座に落ちていた骨を拾い、毛皮や衣服の断片を巻き付けて燧石ひうちいしで火を灯す。

 即席の松明たいまつを得た事で段違いに捜索がはかどり、声のした方向へ進むと――。


「これは…なんと見事な…!」


 そこは20畳を超える洞窟の大広間!

 更に、身のたけ5尺8寸(約176cm)に届く当方が不自由なく歩ける程の高さ。

 このような巨大な穴だったとは思いもよらず、自然の造形に感嘆の息を漏らす。

 だが、肝心要かんじんかなめの鳴き声は何処いずこから聞こえてはいるが、次第に弱まりつつあった。

 急がなければならない!


なまずの化物め、堂々と姿をみせよ!」


 道中の膨大な吐き溜めに加え、あれだけの巨体を維持するのであれば、犬一匹で事足りるとは到底思えぬ。

 敵が姿を現さぬならば、我が身をえさにしておびき寄せるのみ!

 岩壁にあった手頃なくぼみに松明たいまつを置き、自身は広間の中央へと進む。


「さあ、何処どこからでも打ち込んで参れ!」


 あの巨体から繰り出される攻撃は確かに脅威である一方、所詮しょせんは泥をうだけの魚に過ぎない。

 奴が地中から襲ってくると分かった以上、もはや当方に不意討ちは通用せぬ。

 こうして全神経を足元に集中すれば、必ずや先手を打つは必定なり!


 15歩…12歩…10歩…8歩…5歩…3歩…2歩…1歩…そこだ!

 なまずが地中から姿を現したと同時に一刀が放たれ、交錯した刹那せつなに深手を与えた――はずだった。


「むぅ、ここにきて限界を迎えたか!」


 ……無念なり。

 衝突の際に受けた重さは想定を遥かに超え、遂に我が愛刀は柄だけを残して折れてしまった。

 殆どの力が分散してしまった結果、致命傷を与えるには至らなかったのだろう。

 手傷を負ったなまず体躯たいくひるがえし、こちらに向かってきている。


「済まぬ、ギンレイ……。

 務めを果たせず申し訳も御座ございませぬ、姫様…」


 万策が尽き、死を待つだけとなった身にすべなどあるはずもない――。

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