まさかの事態!?
「ふぅ、爺のお節介にも困ったものじゃ。
洗濯にまで言及するとは細かいのう!」
昨日のドタバタですっかり忘れていた。
泥沼に胸までハマった初音の服は丸々一晩、小川に浸け置きにしておいたままだ。
こんな繊細な所にまで気を配って伝えておく辺り、ジャジャ馬娘の守役を任されているのも納得してしまう。
ポリタンクに水を汲み入れ、服を回収して戻ると初音がギンレイを探し回っていた。
「んん~、どこへ行ってしもうたんかのう」
「あぁ、ギンレイなら八兵衛さんの後を追って森に入っていったぞ?」
途端に退屈&不機嫌モードに移行する初音。
犬は落ち着きがあって、構い過ぎない人に懐く傾向にある。
つまり何が言いたいのかというと、ギンレイもたまには騒がしい鬼っ娘から解放されて、物静かな老人と散歩を楽しみたかったのだろう。
俺は暇そうにしている姫サマに洗濯物を渡すと、バケツに入れておいたツチナマズの様子を見にいく。
「さてさて、どうかな~?」
昨夜釣った三匹は狭いバケツの中で揉みくちゃになりながらも元気にしており、これなら今日の食料には困らないと一安心した。
お陰で計画を遂行する為の時間が得られるからな。
「決戦は今夜!
次のターゲットは不可視の化物だ!」
そう、これまで延々とストーキングを行ってきた相手へ、遂に反旗を翻す時がきたのだ。
その第一歩として『発酵石』の入手は絶対条件であり、計画の要を担っていると言っても過言ではない。
問題は、ここに揃えたツチナマズの体内に発酵石が存在しているのかに懸かっているのだが…。
「まずは体長40cmクラスから調べよう。
『異世界の歩き方』には体内のどこかに石があると記載されていたけど、胃の中かなぁ?」
後で食べる事を考えて体表面のヌメリを取り除き、ハラワタを引き出して丹念に調べるが、それらしい物は見つからない。
念の為に筋肉や口内、果ては目玉まで調べ尽くしたのだが見つからなかった。
「本には長い時間を掛けて体内で作られるとしか書いてないぞ。そうなるとマズい…。
ナマズは種類によっては10年以上生きるし、体長が1mを超えるモンスタークラスだっているんだ。
もしかしたら……」
最悪の事態が脳裏を掠める。
手元にあるツチナマズは50cmと60cmが一匹ずつ。
運良く発酵石が生成されている事を祈り、順に捌いていく。
しかし……。
「ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!
60cmクラスでも無い……見つからない!
ど、どうする!? このままだと計画が…!」
考えが甘かった。
最も大きいツチナマズにも発酵石が出来ておらず、完全に手詰まり状態に陥ってしまう。
俺は心底心配だったが、ツチナマズの調理を初音に任せ、急いで釣竿を手に昨夜のポイントへ向けて走った。
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