表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/300

忠義の古強者、矢旗 八兵衛

「キィィィィエエエエアアアア!!」


「ちょろまこまけろばば!!」


 問答無用とばかりに、鬼の形相で襲ってくる謎の武士。

 ……怖いなんてもんじゃねェ!

 マジに腰が砕けて言葉も出ない。

 口から意味不明な音だけが独り歩きした挙げ句、いよいよ死を覚悟した矢先――。


じい!? 矢旗やはたじいではないか!

 何故なぜこのような場所にる! まさか…」


 初音が誰かの名を口にする。

 どこかで聞いた事がある気がするが……G?

 矢旗やはたじい? それって…。


「姫様! 湯浴みのところ失礼致しました。

 ですが、すぐに済みますゆえお待ちください。

 すぐに賊の首をば打ち落として御覧に――」


「待て、其奴そやつ葦拿あしなという名の所有物じゃ。

 ワシの物を勝手に手打ちにするは許さぬぞ」


 どこからツッコミ入れればいいのやら…。

 人の首を落とすだの、所有物だのと不穏極まりない話が進む中、少しだけ落ち着きを取り戻す時間を得た俺は、くだんの武士について可能な限りの観察を行う。


 年齢はおよそ60代後半。

 彼も初音と同じ鬼属きぞくかと思っていたのだが、額には角が生えておらず、俺と同じ普通の人間みたいだ。

 だが、刀傷と思われる無数のあとが目を引く顔立ちは雄壮な顎髭あごひげを貯え、溌剌はつらつとして精悍せいかんそのもの。

 更には老齢を感じさせない屈強な肉体と、初音に注がれた忠義の眼差しから、相当な覚悟をもって家出娘を探し続けたのであろう。

 頭部を守るかぶとの類いはなく、身に着けていたと思われる鎧は殆どがボロボロで、僅かな金属片を残すのみ。

 どれだけの労苦をもってここまで来たのか、それは武士の魂である太刀は中程で折れ、脇差わきざしさやしか残されていない事からも明白だった。


「所有……とは御冗談を。

 いくら寛大な御心を持つ姫様でも、斯様かような馬の骨を求めるは余りに酔狂が過ぎまするぞ!」


「あーもー! 久方ぶりというに説教か。

 じいも父上も、ワシの気持ちを分かっておらん!

 いつまで子供扱いするつもりじゃ!」


 なんか話が妙な方向に進んでる気がする…。

 あれだけ気力に満ちた古強者ふるつわものが腰を屈め、まるで手のかかる孫の機嫌を必死に取っているように見える。

 時々俺に向けられる殺意は相変わらずだが…。


「子供扱いとは心外で御座ござる!

 当方も御殿おんとのも初音姫様の幸せを願うからこその縁談! それを嫌って熊野を出奔しゅっぽんするとは――」


「そ・れ・が・イヤじゃと言うにぃぃいい!!」


 とうとう癇癪かんしゃくを起こして方々に湯をき散らす初音。

 こうなると手がつけられず、俺達は揃って現場を離れるしかなかった。

 新キャラは可愛い女の子が登場すると思った?

 んなワケねぇやろがい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ