忠義の古強者、矢旗 八兵衛
「キィィィィエエエエアアアア!!」
「ちょろまこまけろばば!!」
問答無用とばかりに、鬼の形相で襲ってくる謎の武士。
……怖いなんてもんじゃねェ!
マジに腰が砕けて言葉も出ない。
口から意味不明な音だけが独り歩きした挙げ句、いよいよ死を覚悟した矢先――。
「爺!? 矢旗の爺ではないか!
何故このような場所に居る! まさか…」
初音が誰かの名を口にする。
どこかで聞いた事がある気がするが……G?
矢旗の爺? それって…。
「姫様! 湯浴みのところ失礼致しました。
ですが、すぐに済みます故お待ちください。
すぐに賊の首をば打ち落として御覧に――」
「待て、其奴は葦拿という名の所有物じゃ。
ワシの物を勝手に手打ちにするは許さぬぞ」
どこからツッコミ入れればいいのやら…。
人の首を落とすだの、所有物だのと不穏極まりない話が進む中、少しだけ落ち着きを取り戻す時間を得た俺は、件の武士について可能な限りの観察を行う。
年齢はおよそ60代後半。
彼も初音と同じ鬼属かと思っていたのだが、額には角が生えておらず、俺と同じ普通の人間みたいだ。
だが、刀傷と思われる無数の痕が目を引く顔立ちは雄壮な顎髭を貯え、溌剌として精悍そのもの。
更には老齢を感じさせない屈強な肉体と、初音に注がれた忠義の眼差しから、相当な覚悟をもって家出娘を探し続けたのであろう。
頭部を守る兜の類いはなく、身に着けていたと思われる鎧は殆どがボロボロで、僅かな金属片を残すのみ。
どれだけの労苦をもってここまで来たのか、それは武士の魂である太刀は中程で折れ、脇差は鞘しか残されていない事からも明白だった。
「所有……とは御冗談を。
いくら寛大な御心を持つ姫様でも、斯様な馬の骨を求めるは余りに酔狂が過ぎまするぞ!」
「あーもー! 久方ぶりというに説教か。
爺も父上も、ワシの気持ちを分かっておらん!
いつまで子供扱いするつもりじゃ!」
なんか話が妙な方向に進んでる気がする…。
あれだけ気力に満ちた古強者が腰を屈め、まるで手のかかる孫の機嫌を必死に取っているように見える。
時々俺に向けられる殺意は相変わらずだが…。
「子供扱いとは心外で御座る!
当方も御殿も初音姫様の幸せを願うからこその縁談! それを嫌って熊野を出奔するとは――」
「そ・れ・が・イヤじゃと言うにぃぃいい!!」
とうとう癇癪を起こして方々に湯を撒き散らす初音。
こうなると手がつけられず、俺達は揃って現場を離れるしかなかった。
新キャラは可愛い女の子が登場すると思った?
んなワケねぇやろがい!