アングラーとしての矜持
ベースに戻ると急いで風呂の準備を整える。
ドラム缶を空にしてバケツリレーで近くの沢から水を汲み出し、最速で湯を沸かす。
懸念していたギンレイは思ったより濡れておらず、これなら風呂に入れる必要はないだろう。
後は暴走娘を風呂に突っ込んで任務完了だ。
「あの~……ワシ、一人で留守番かのう?
こんな夜中に? あ、あしなも一緒に……」
やっぱギンレイも風呂に入れてあげよう。
俺は怖がりの鼻先に愛犬を押しつけ、ランタンと着替えを置いて夜釣りを再開するのだった。
「は、薄情者め~!
絶世の美女が湯浴みを許しておるというに――」
あーあー、聞こえない聞こえない。
俺としても夜の森に子供一人で留守番させるのは心苦しい。
けど、これ以上時間をかけるワケにはいかないんだよ。
先程のポイントは初音を沼から引っ張り出す時に騒いだので、魚に警戒されて釣れるとは思えない。
「なら逆方向を攻めるのみ。
こっちの方はどうなって……おぉ!」
たどり着いた先は岩壁と沼が繋がったエリアで、ゴツゴツとした岩肌には無数の穴が開いている。
不思議な事に沼から離れた所にも穴が開いており、中はヘッドライトを照らしても真っ暗で何も見えない。
穴の直径はどれも20~50cm程だろうか。
この大きさなら熊ではないと思うが…。
しかし、ここなら『異世界の歩き方』に書いてあった通り、水の流れが殆どない上に、昼間も日陰となるので涼しいはず。
ターゲットのツチナマズが好む立地を見つけ、痺れる緊張感を手に第一投を放つ。
「まずは穴の手前20cmを狙う。
さぁ……姿を見せろ!」
ヘッドライトの明かりを消し、月明かりを頼りにキャストしたフロッグルアーは漆黒の闇が広がる泥沼に着地した。
大自然の真っ只中に小さな鈴の音が響き、ぽっかりと口を開けた虚ろな住居に潜む住人を誘う。
夜釣りは昼間とは違って視覚的に得られる情報が少なく、竿を通して伝わる微妙な振動を元に、地形や状況を脳内でイメージしながら行う。
ぶっちゃけ地味――なのだが、無音と闇の世界から届けられる僅かな情報だけを頼りに繰り広げる魚との知恵比べは、それこそが夜釣りの醍醐味であり、楽しい部分なのだと俺は思う。
「ここと決めたらとことん攻める。
ルアーフィッシングの鉄則だ」
じっくり辛抱強くキャスティングに集中していると、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを実感する。
夜の闇によって心の奥底が刺激され、より繊細な反応を感じられるのは幻想でも勘違いでも何でもない。
深夜にデスクライトだけを光源にして勉強したり、映画館の上映中に全ての証明を消すのも没入感を深める為であり、他の視覚情報を制限する事で、より集中力を高めるという効果を狙っているのだ。
「…………動き出したな。
もっと穴の奥まで……もっと……もっとだ…」
極限まで高めた集中力がキャストの精度を向上させ、完璧な一投を実現させる原動力となり得る。
やがて会心のキャストが決まると、吸い込まれるように穴の奥までフロッグルアーが到達し、ラインを通じて確かな手応えを掴む!
「ヒット!」
闇夜に轟く一声。
張り詰めたラインが震え、一心に巻き取られていくライン。
長期戦になれば奥に逃げられてラインを切られる恐れがあり、短期決戦は必須!
次第に姿を現したのは――……。
「やったぞ! ついにツチナマズを釣り上げた!」
体長約60cm、見た目は巨大なオタマジャクシに髭を生やしたような顔つき。
その名が示す通り、体表面は土色で泥沼と見分けのつかない保護色となっていた。
狙った魚を苦心の末に仕留める。
これこそが釣り人が歓喜する瞬間であり、抑えていた感情を一気に開放する時でもある。
得意満面でスカリにツチナマズを入れ、その後も2匹を釣り上げて納竿とした。
「さて、ワガママ娘の所へ戻ってやるか」
発酵石を取り出すのは明日にしよう。
この時の俺は設定した時間までに目的を達成した事で気が緩み、その後に続くドタバタ劇など予想もしていなかった。
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ここまでのAwazonポイント収支
『ヌマギンチャクガメを釣り上げた――3000P』
『ツチナマズを釣り上げた――3000P』
以下を購入
『ビッグベイトロッド――16000ポイント』
『リール――26000ポイント』
『道糸PF3号――1000ポイント』
『各種ルアー(10個合計)――20000ポイント』
『ウォーターバルーン――16000ポイント』
現在のAwazonポイント――291,400P