新たなるフィールド 泥沼地
食事休憩によって気力体力を回復させた俺達は旅を再開し、渓流沿いに続く険しい道を遡上していく。
もう気づいていると思うが神奈備の杜は奥に進めば進む程、そこに住む生き物の生態系は独自性を強め、俺の居た世界とは似ても似つかない世界となっていた。
恐らく、ココもそうなのだろう。
「川の流れがゆるりと思うたらば、この様な場所に出るとはのう」
目の前に広がるのは広大な泥地。
沼よりも遥かに水気が少なく、突き立てた棒が際限なく飲み込まれる底無しの泥。
しかも先程まで晴れ渡る青空だったのに、沼に近づいた途端、濃密な霧が立ち込めて5m先も見通す事ができない。
神奈備の杜の奥地は生態系だけでなく、自然環境まで独自の形態を保っているようだ。
「だけど…いや、もしかしたら…居るかもしれん」
「居るとな?
ここは人の住めるような土地ではなかろう。
ん、どこへ行こうというのじゃ?」
俺は水辺へ近づくと『異世界の歩き方』を取り出し、何度も見比べて確信を得る。
「この環境なら…俺がずっと探し求めていた生物がみつかるかもしれない。初音、今日はここで野営するぞ」
「それは構わぬが…よいのか?
急がねば再び魑魅魍魎に襲われるやもしれぬぞ」
不可視のバケモノの事か。
確かに襲撃される恐れはあるだろうが、それ以上に狙っている物を手に入れておきたいのだ。
ターゲットとなるのは『ツチナマズ』と呼ばれる魚で、水の流れが完全に止まった場所を好み、日中は涼しい場所に潜んで獲物を補食するという習性を持つ。
性格はかなり獰猛な上に成長につれて大型化する魚類らしく、お手製の竹竿で運良く釣れる相手ではないだろう。
「そうなると、こっちも装備をグレードアップするまでだ。このAwazonでな!」
ビッグベイト専用のロッドとリール、更に道糸はPE3号という極太のラインを選択した。
これなら大型のバスや雷魚のみならず、カツオですら釣り上げられる程の強度を持つ。
他にも様々なルアーを揃えてみたが、これらが有効かどうかは釣場の環境や季節、投げ込むポイントやアングラーとしての腕前に加え、どうにもならない運の要素まで複雑に絡む。
「だからこそ、釣りは面白いんだよ」
現実には本当に難しくて中々釣れない。
けど--そこで色々と試行錯誤するのが楽しくて仕方がないんだ。
俺の目の前に広がるのは泥沼という全く未知のエリア。
そして、制限時間という制約まである中、ターゲットのツチナマズを釣り上げる事ができるのだろうか。