表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/300

あしなの懸念と不可視のバケモノ

 翌朝、俺達はテントだった残骸の上で目を覚ました。

 俺は全身が泥々の血塗れのままだったが、九死に一生を得た事で安堵してしまい、殆ど気絶同然で眠ってしまったのだ。

 見えない化物に散々ブン殴られ、買ったばかりの衣服は見るも無惨なボロ雑巾にされちまった。

 加えて、体のあっちこっちに数えきれない程の痛みがあり、骨や内臓へのダメージを心配したのだが――不思議と歩けているのは何故なぜだ…?


「運が……良かったの……かな……」


 全身をさいなむ痛みは本物であり、気のせいとか思ったより軽傷でしたとかいうレベルの話ではない。

 ……自分でも既に理解していた――死ななくてラッキー? そんなワケあるかよ!

 ()()()()助かって重傷、悪けりゃ死んでてもおかしくない怪我を負い、運が良かったで済むハズがない。

 身体中に付着した血も自分の物ではなく、化物をナイフで切りつけた際の返り血だ。


 俺の体に何が起きているのか…。

 それを考えるのは昨夜の一件と同等の…いや、別種の言い知れぬ怖さがあり、とてもではないが考察などする気にはなれなかった。

 ましてや、それを初音に相談するなんて事は……絶対にしたくなかった。

 抱えきれない不安をどうにか押し込み、初音の方を見るとまだ寝起きでボーっとしている。

 全員が極度に疲労し、昨夜の忘れ難い出来事を無言のうちに思い返していた最中さなか、ギンレイが地面へ向かって吠えているのに気づく。


「どうしたんだよ。

 何か落ちてんのか?」


 重い体を引きずるようにしてギンレイが示す足元に目を向けると、いくつもの巨大な足跡が残されている。

 鹿や猪、狼や熊とも違う。

 水気を含んだ地面に刻まれた深い跡から、足跡の主は相当な巨体である事は疑う余地もなく、不吉な予感が胸中を漂う。

 だが、それはある種の希望を意味していた。


「……女媧ジョカの方は兎も角として、もう片方の奴は――魑魅魍魎バケモノでもなんでもない! 

 ここに残された血痕けっこんがそれを証明している!」


 至る所に見られる赤い血。

 朝陽によって照らし出された数々の手掛かりは地面だけでなく、俺の顔や手、衣服や靴にまでベッタリと付着しており、物理的手段が一切通用しなかった女媧ジョカとは別の、れっきとした生物だという証拠に他ならない。

 異星人と人間との激闘を描いたSF映画の傑作『プレデター』で、主人公のアラン・ダッチ・シェイファー少佐が口にした台詞せりふを思い出す。


「血が出るなら――殺せるはずだ…」


「お主が言うても締まらんのう」


 放っとけ。

 ようやく起き上がった初音に鋭いツッコミを入れ、出発の準備を整える。


「だけどな、俺にだって奥の手はあるんだぜ」


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ