尋常ならざるモノ達の思惑
「俺は……どっちに殺されるんだ?」
答えを求めない問いに応えるべく、不可視の化物が放った攻撃が迫る。
もう音で分かる…。
鞭に似た何かが、高速で空気を切り裂く音。
狙いは俺の首か頭なのだろうが……どちらでも結果として死ぬので大差はない。
諦めの境地は人を無関心にさせ、死の恐怖であっても俯瞰的に受け入れてしまう。
繰り出された最後の攻撃が眼前で爆ぜた時、俺はとうとう死んだと思った。
確かに――そう思われた……はずだった。
「な……これは……俺……どうして…?」
見えないガラス…としか言い様がない。
何が起きているのか理解が追いつかないが、確かな事は不思議な空気の膜が俺を包み、致命的な攻撃を幾度となく防いでいた。
これは初音のチカラなのかと視線を向けたが、彼女も驚愕の顔つきで俺を…いや、女媧を見つめている。
周囲に張り巡らせた注連縄の結界が一斉に燃え広がり、塵となって月夜の闇へ解けていく。
なんと神秘的で――美しい……。
本当に理解が……意味が分からない。
敵であるはずの女媧は結界を難なく破ると進んで前に立ち、恐るべき脅威から俺を守っていた。
「女媧様……貴女様は一体……」
もはや一切の行動も、理由を考える思考すらも停滞し、ただ傍観するしかなかった。
女媧は暗闇から飛来する脅威を尽く退け、滝壺に流れ落ちる瀑布の轟音を覆ってしまう程の反響を響かせる。
やがて空気の膜が振動を収める頃、見えない襲撃者はようやく諦めて立ち去った事実を知る。
それと同時に、女媧の姿も夜の静寂に沈むようにして消えていった。
「な、にが……起きてたんだ…?
俺は……助けられたのか?」
答えは誰にも分からない。
途中から仲間割れを起こしたのかもしれないし、最初から協力する気などなかったのかもしれない。
ただひとつだけ言えるのは、不可視の化物と女媧は目的をそれぞれ別として、俺をつけ狙っているという事。
そして、全ての元凶と思われていた女媧のお陰で、絶対絶命の危機を救われたのだという認め難い事実が、俺の肩に重くのし掛かるのだった。
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