猪肉リエットの豆乳チーズピザ
徒歩を移動手段としているにも関わらず、何故クッソ重いダッチオーブンなど持ち運ぶのか?
その答えは、ダッチオーブンで作る飯が旨いからに他ならない。
黒鉄の楯を思わせる鋳鉄製のフタが圧力を閉じ込め、高温を保ったまま焼き上げた事で、ピザ生地はふっくらと柔らかいのに、表面はパリッとした二律背反を見事に実現していた。
「小ぶりなのが残念じゃのう。
これでは到底足りぬぞ?」
ダッチオーブンの弱点は重量に加えて、容量はあるけど表面積は大きくないという点が挙げられる。
そこはスキレットに分があるが、今回は食べきりサイズのピザを次々と焼いて対応する。
「まぁ、心配すんなって。
記念すべき一枚目を食べてみなよ」
「ふむ、これは…焼き煎餅か?
ん~~……おぉ!? なんたる豊かな味わい!
う、旨い……否、旨すぎじゃぁああ!!」
無事に課せられたハードルは超えたらしい。
焼き立てのピザからはハーブとサンシュウショウの香りが食を誘い、絶妙な色合いを浮かべる豆乳チーズはうっとりとした食感を予感させる。
主役を勤めるリエットは世にも珍しい純白のケチャップソースを伴い、装いを新たに芳醇な肉の旨味を存分に醸す。
分かるか?
この面子を揃えて出来上がった料理がマズいなんて有り得ない!
「口に合ったのなら幸いだね。ほら、ギンレイにはケチャップとハーブ抜きを焼いてあげたぞ~」
十分に冷ましてから与えると、未知の食べ物に対して特に拒絶反応もなく、喜んで食べてくれた。
この子は本当に好き嫌いがないので助かる。
……まぁ、野生の狼だしな。
「俺も一枚もらうとするか。
うん、思った以上のクオリティ!
異世界で長く生活してると、元の世界の食べ物が無性に恋しくなるんだよなぁ」
この感覚は海外暮らしが長くなると、日本食を食べたくなるって話と似ている。
食べ慣れた物が急に食べられなくなると、体が細胞レベルで求めるような感覚に陥るんだよ。
もっとも今までは考えた事も、考える必要もなかったんだけどさ。
「あしなよ、どんどん焼いてくれ!
これなら無限に喰らってみせようぞ!」
穀潰しの覚悟完了を宣言したダメ鬼は置いとくとして、確かに何枚でも食べれてしまいそうな口当たりの良さだ。
程よい酸味のケチャップソースは目も覚める刺激を脳に送り込み、もっちり食感のチーズは豆乳から作ったと言わなければ気づかないだろう。
「はいよ、お代わりお待ち~!」
本来は常温で食べるリエットも焼き色をつけると風味が一層深まり、相思相愛とも言えるパン生地を得て、極上の御馳走へ到達した。
口に含めると、パリッとしたファーストコンタクトの直後に訪れるモッチリとした食感。
個人的意見で恐縮なのだが、ピザはキャンプで食べたくなるランキングの堂々たる上位ランカーの一角だ。
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