滝見のドラム缶風呂、with混浴
「ふぁぁあ~~よく寝たのじゃ~」
夕刻が迫る頃、テントから起き出すなり眠気の取れない顔をした初音が、大きな欠伸を伴って姿を現す。
肌の色艶も随分と良くなっており、明日の出発も極端な無理をしなければ可能だろう。
けど、ちょっと間がが悪いというか――実は、初音が寝ている間にドラム缶風呂に入ろうとしていたのだが……。
「あー……起きちゃいました?
久しぶりに風呂に入るつもりなんスけど…」
ぶっちゃけコソッと済ませてしまおうと考えていた手前、見られてしまったのは都合が悪い。
なので、初音には病み上がりを理由に、やんわりと辞退を促したのが、それが逆にマズかった。
「なんじゃと!?
お主…まさか一人で風呂を堪能するつもりか?
いかんのう……こりゃあ~いかんわい。
まっこと、後ろ矢を射られた思いじゃ。
――そうであろ?」
ヤバい……いや、それどころか殺される!
般若の如き笑顔で迫る初音に気圧され、ドラム缶まで後退を余儀なくされた俺に、選択の余地など有ろうはずもなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ん~~! やはり風呂はよいのう~~♪」
「あ、そうっスか……。
そりゃ結構なことで……」
どうして?
どうしてこうなった……?
俺は今、数日ぶりのドラム缶風呂に入って連日の疲れを癒している――初音と二人で!
……まずは言い訳させて欲しい。
我が性的指向は成人女性のみであり、こんな低身長のチンチクリンなどでは断じてない。
しかしながら、圧倒的武力の前ではヒトの抵抗など意味を成さず、俺に出来るささやかな意思表示は視線を外に向け、無関心を装う事だけだった。
嗚呼、滝見のドラム缶風呂さいこ~……。
さっきから、ずーっと初音に足裏で背中や尻をまさぐられてるけど――気にしない!
「お主、いつまで外方を向いておる。
既に隅々までワシの裸体を見ておろう?
……熱に浮かされ、無抵抗のままに……のう?」
「あれは非常事態っつーか、不可抗力だし!
いや、待てよ……お前……起きてたのか!?
ナンデ!? 事前に声を掛けたよなぁ!?」
少し赤面しながらも、俺の反応を見てニヤニヤと悪どい顔で笑う初音。
病床で意識がないと思っていたのに、コイツ……なに考えてんだ!?
「それで、どうじゃった? 正直に言うてみよ。
昔の女子と比べ、ワシの『ぼでー』は美事であったか? 夜ごとに寝言を言うておったもんなぁ?」
元カノのことかーーーーっ!!
フラれた事を未だに引きずってるとは思ってもおらず、まさか夢にまで見ていたとは……。
しかもしかも、それをクソガキに煽られるだなんて――これ以上ない尊厳破壊だろ……。
もはや目前の滝ですら眼中になく、尋常ならざる頭痛を伴った目まいによって視界が歪む。
「うぅ……アァ……もういっそ殺してくれ……」
「散々に丸裸を見られたんじゃ。
これくらいは返しておかねばのう?」
煤けて縮こまる背中に高笑いが刺さる。
今だけはギンレイの無垢な瞳を正視する事もできず、ひたすらに耐え難い羞恥にさらされ、美しくも静寂の月夜を迎える。