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お師匠さまっ!  作者:
2/5

試練2.お師匠、泥棒さんです


いつもと変わらない朝。

変わるのは首元の冷たい感触と、朝早くからのお客さん。


「娘。質問に答えろ。ここはどこだ?」


お客さんはお客さんでも、招かざるお客さんです…


「こ…ここはしがないお寺ですよっ!むぐっ」


「うるさい。声を抑えろ。そんなの分かってる。寺の名前だ」


突きつけられた細い日本刀が首筋にグイと食い込む。

おおおお師匠様ーーーっ!!


「えっ、えっえっ円通寺ですっ」


「えんつうじ?聞かない名だな。蓬莱山を降りてきたんだが、ここは里ではないのか?」


「………?」


ぽたりぽたりと落ちる真っ赤な血があたしの若草色の着物を汚す。


「早く答えろ。」


刀を押し当てられる力がさらに強くなって、あたしは痛みに顔をしかめた。


「こっ、ここは補陀洛山のふもとですっ…」


「ふだ…何?」


「ふだらくざんっ、里って、どの里だか知りませんけど、ここを越えたら甲賀ですよ」


胸を伝う血が生ぬるく着物の中に入ってくる。

喉が焼けるように熱い、気持ち悪い、

お師匠、早く助けにきて下さいよっ

怖いですよーーー


「何だと!?」


「……ゴメン。兄貴。間違えた」


バキャーッ


「ばかやろう!お前に逃走経路を任せたのは間違いだった!」


「ひぃぃあにきっごめんよおぉぉ!」


「あ、あ、あの、このお寺の金品は、たいていお師匠がお酒に変えちゃいますから、なにもありませんよ…」


泥棒さんが動くたびに喉がジクジク痛むので、とにかく会話をやめてほしかった。

あたしは後ろにのけぞって、泥棒さんを頭でぐいぐい押しているような状態になる。


「…………」


「~~~!!」


チキッと音を立てて再び首に刃が食い込む。

何も言わずに息を殺していればよかったです。


「顔を見られたな。生かしてはおけない」


「兄貴、ばかなこと考えるなよ。見られたといっても一瞬だし、まだ子供じゃないか」


「またそんな甘いことを。お前の浅はかな偽善行為で私に命を落とせというのか」


「駄目だ。兄貴。俺…俺は、兄貴にはもう」


「煩い。ならばお前が変わりに死ぬか」


なんだか口論してます。

やたらと私語の多い泥棒さんですが、そのおかげで今あたしは生きてると言っても過言ではないです。

この隙に逃げられないでしょうか。

何か、何か道具があれば。

あたしは視線だけ動かして、キョロキョロと周りを見渡す。


「……それで兄貴の気が収まるなら構わない!でも、兄ぃ、どっちにしたって同じだ。殺生はいけない…!!」


「もういい」


あたしの髪を掴む力が強くなった。頭の中が真っ白になる。


「そういう訳だ、娘。悪く思うな」


首から一瞬だけ刀が離されて、次に容赦なく刀が引かれた。


「あにきっ!」


ズパッという肉の裂ける音。

だけど条件反射で首と刀の間に手を入れて、刀をつかんだので切れたのは手のひらだけ。

痛みは横一線、両手の間からだくだくと温かいものが流れていく。

そのまま思いきり刀を握って、ぐいーと目の前の凶器を遠ざけ、男に掴みかかった。


「うわーーーーっしねーーーーー!」


どんと体ごとぶつかって男を押し倒し、一緒に床に倒れ込む。

恐怖は不思議と消えていた。


「っ!!」


喉の奥が気持ち悪い。

手のひらがバックリと開いていて、赤黒い血が湯水のように流れている。

最初の電撃が走ったような痛みのあとは、何も感じなくなっていた。

骨まで達している。

本来なら大の大人でも悲鳴をあげて失神しているくらいの大怪我だ。


それに気をとられているうちに、逃げ遅れた。


ハッと気付いて男に背を向けて走り出した瞬間、背中に一太刀くらってしまう。


「…っ!!」


あたしは床にばたんと倒れる。

受け身がとれなくて顔をしこたま打ちつけた。


「兄貴!!やめろよ、やめてくれよ!!」


「離せ!!もうお前は介入するな!!」


バシッ


母さん、くやしいです。

こんな面白い奴らに。

違った、こんなひどい奴らに。

都はとうとう殺されるみたいです。


「くっ、刀が手垢だらけだ…錆びたらどうしてくれるこのクソガキ」


ぐしゃりと頭を思いきり踏みにじられる。

男が無言で刀を振り上げる。


ししょう。お別れのようです。

洗濯物の乾きが悪いので、明日は今日の分と合わせて干して下さいね。




ザクッ


「ッ!」


「まだまだですねえ。暴れては、余計お前の体が傷つくだけですよ都。逃げるタイミングを7回も逃しています。相手が非情であれば、7回とも殺されていたでしょう」


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