表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お師匠さまっ!  作者:
1/5

試練1.お師匠、朝寝坊です




お師匠さま


きっと強くなります


強くなって


うんと強くなって


誰かを守れる力がほしいです







◇◇◇


昔聞いた話では、遥か西に三十三の神々がつかさどる天下の宝玉があったという。


「兄貴、少し休んでいこうよ!」


「駄目だ」


その玉を手に入れた者は天下統一を制す。

かの織田信長も宝玉の力を得てしていたと言われている。


「もうこれ以上走れないよ!兄貴だって無理してるんだろ?ねえっ…」


「ここを越えれば里に出る。そこまでは奴らも追ってこれないはずだ」


「じゃ…じゃあせめて止血してくれよ!痛いんだろっ?兄貴!さっきの矢……当たったんじゃないのか?」


この地で天下統一を成功させたのは唯一ただ一人、彼だけだ。

つまり私は考えた。

宝玉の力は天下統一を叶えたのではなく、織田公の願いを叶えたのではないかと。


「兄貴!ねえ、聞いてるの?あーーにーーきーーーーー!」


「ええいうっとうしい!無駄口をたたく暇があったら走れ!死にたいか!」


「でもっ」


「人のことをとやかく言う余裕があったら自分の身を案じろ!お前のような奴がいつか足下をすくわれるんだ!」


「なんだよ!兄貴の見栄っぱり!心配してるのに!」


バキッ


「ぐえっ」


「悪かったな見栄っぱりで!」


竹林に足を取られ、夜道に視界を奪われ、それでも走る。

走らねばならなかった。

私達は罪人だ。


「そ、そうだ、兄貴、血の跡でばれちまうよ!兄貴の血の跡と、臭いで!だから止血しようよ!!」


ああ、五月蠅い。

この馬鹿な弟はよほど休みたいのか。

それとも本気で私の心配をしているのか。


「私達が相手にしているのは野犬か何かか?」


「あにき~~~」


「分かったよ、少し休もう」










「ど、どう?兄貴」


「大丈夫だと言ってるだろう。しつこいぞ」


「よかった~」


「お前こそどうなんだ」


「俺は平気だよ。ほら、どこも怪我してない。兄貴、手当てが終わったら向こうに泉があったから、顔でも洗っておいでよ」


村を出て何刻になるだろうか。

この選択が吉とでるか凶とでるか。

答えは神のみぞ知る。










◇◇◇


補陀洛山、円通寺。


「おししょうさまー!朝ですよー!」


我が家の朝は早い。


「起きてくださーい!もうお外は明るいですよ!おいのりの時間、すぎてますよー」


どたどたどた


ばしん。


勢いよく襖を開ける。

いくらせわしなく登場しても、あまり意味はないけれど。

要は心持ちなのです。


「んー?」


「おはようございます。お師匠さま。朝ごはんできてますよ」


「んー」


「今日はお師匠の大好きな目玉焼きを作りましたよ。干し肉もありますよ。豪華絢爛なのですよ。起きてください」


「んー」


「とれたてレタスの、サラダもありますよ。きのう食べごろだなって思って、朝とってきたんですけど…」


「んー」


「……………」










「殴りますか、普通」


我が家のお師匠は朝に弱い。


冷めた目玉焼きをつつくお師匠の顔は、ぶすーっと不機嫌。


「お師匠さまが悪いんです。あたしいっぱい起こしたのに、んーしか言わないですもん」


「都がもっと優しく呼んでくれれば起きますよ」


「そんなのぜったい起きないです」


「甘いですね。優しくというのはもっとこう…」


「…!?」


お師匠様がゆらりと近づいてきて、あたしの体をやわやわと触り出した。


「こうです。分かりますか?」


バキーッ


「痛…」


「な、な、な、なにするんですかっ!!」


「教えて差し上げてるんじゃないですか。“優しい”ご奉仕の仕方を」


「……!!ま…っ真面目に聞いたあたしが間違ってたです!!」


あたしは顔を真っ赤にして、ガチャガチャとお皿を片す。


「そんなことだから、いつまで経ってもお嫁さんが来てくれないですよ!!へんたいお師匠っ!」


「都はあまり男慣れしていないと嫁のもらい手がありませんよ。」


「大きなお世話ですっ!!」







ガタン。ガタガタ


向こうの部屋から微かに窓が開く音がした。

建て付けが良くないので、ずいぶん離れたこの部屋にまで響くのだ。

こんなに朝早くから人が来るなんて、めったにない。


「お客さんでしょうかね?」


「前みたく、タヌキさんかもしれませんね。見てくるです」


「はいよろしく」


廊下へ出て薄暗い木造の床をぺたぺたと歩く。

スラッと襖を開けると、窓が開いていた。


「誰かいらっしゃるですか~?」


耳を澄ますと、(うぐいす)とひぐらしの静かな鳴き声が聞こえた。

冷たい朝の香りのする窓から顔をのぞかせて、外を見渡す。

とくに異常はないので、ガタガタと無理やり閉めた。


おかしいです…。


そして、狸に荒らされた様子もなく、不審に思っていたとき。


「…………動くな。騒いだら殺す」


首筋にヒヤリと冷たいものが当たった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ