ウロボロスの物語(亡国の異邦人) 第1章ー3
今回が初投稿作品になります。読みづらい文章になっているかも知れませんが、誤字脱字等あればご指摘のほどお願いします。
本作品では人が亡くなる描写もあるため、苦手な方はご遠慮頂きますようお願いします。
第3検査室から出た俺は、再び自分の名前が呼ばれるのを待合室の椅子に座って待っていた。
「太宰 精様。太宰 精様。職業適応検査の評価が終わりましたので、第3検査室にお入り下さい」30分ほどでアナウンスが流れた。
待ち時間の間、検査結果を気にすることなく俺は過ごしていた。検査中も特に緊張すること無く、時折物思いに耽っていたくらいなので当然ではあるが…。要するに、この国で就きたい職業も無い俺には、自分に合った職業を斡旋してくれるこのシステムが向いていたのだろう。そんな心持ちだったからか、第3検査室に向かう俺の足取りは軽かった。
第3検査室に入ると、モニターや頭部に装着していた機械、それらを置いていた机が無くなっていた。その代わりに、机と椅子が部屋の中央に1組、部屋の隅に椅子が1脚置かれていた。また、第3検査室にはスーツ姿の女が机の前に立っていた。
「こちらにお座り下さい」
俺が部屋に入ると、スーツ姿の女は机の前に置かれた椅子に座るよう指示した。俺はスーツ姿の女の指示に従い座った。
俺が椅子に座るとスーツ姿の女は、「今から職業適応検査の評価基準と職業選択の方法について、ご説明を致します」と言った。
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<職業適応検査の評価基準>
【0〜500の点数でA〜Eの評価段階に分かれる】
(評価段階) (点数)
A評価 401〜500点
B評価 301〜400点
C評価 201〜300点
D評価 101〜200点
E評価 0〜100点
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<職業選択の方法>
【職業決定までの3ステップ】
(STEP1:職業の提示)
職業適応検査の評価に基づいて幾つかの職業を政府機関から
提示。
↓
(STEP2:職業の選択)
職業選択希望用紙に提示された職業から、希望の職業を第1
希望〜第3希望まで3つ選択。就業地区の希望は職業選択希
望用紙の就業地区希望欄から記入可能。
※職業により希望の就業場所に配属されない可能性あり。
↓
(STEP3:職業の決定)
希望の職業と職業適応検査の結果から、政府機関により職業
を決定。
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スーツ姿の女は説明を終えると、「何か質問はありますか?」と尋ねた。俺は「大丈夫です」と返した。
「それでは、今から職業適応検査の検査結果と推奨される職業、職業選択希望用紙をお渡しします。職業選択希望用紙の記入が終わりましたら、お声掛け下さい」スーツ姿の女はそう言い、3枚の用紙を机に置いた。俺は職業適応検査の結果が記入された用紙に目をやった。その用紙には、たった1行でこう記されていた。
『職業適応検査の結果、あなたの評価点数は471/500点でした』
471点ということはA評価、かなり良い結果だった。俺自身、学があるとはお世辞にも言えない。そんな俺でも良い結果が出たということは、この検査が単に学力のみを計るものでは無いという証拠だ。
そんなことを思いつつ顔を上げると、目の前にいたスーツ姿の女はいつの間にか部屋の隅の椅子に座っていた。スーツ姿の女は下を向き、俺が職業希望用紙を記入するのを待っていた。
俺は続けて、推薦される職業が記入された用紙に目をやった。
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<第1候補>
国家公安局…捜査課 対テロ制圧課 情報統制課 外務課
(上記の職業にいずれかを職業選択希望用紙に記入)
推定年収:300〜400万ルブラ(日本円で400〜50
0万円)
<第2候補>
医療従事職…看護師 薬剤師 理学療法士 作業療法士
(上記の職業にいずれかを職業選択希望用紙に記入)
推定年収:200〜300万ルブラ(日本円で300〜40
0万円)
<第3候補>
農業関連職…農耕管理員 農機具整備員 農作業員
(上記の職業にいずれかを職業選択希望用紙に記入)
推定年収:100〜200万ルブラ(日本円で200〜30
0万円)
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用紙には第1〜第3の職業候補と具体的な職種、推定年収が羅列されていた。俺は候補として挙がった職業を見て、どの職業に就くべきかを考えた。
第1候補は国家公安局、つまり国家のために働くということだ。自分の国から逃げた人間が、どんな顔をして他国のために働けばいいのだろう?。何より、政治的な面倒ごとに巻き込まれるのは御免だった。
第2候補の医療従事職に関しては論外だ。俺が日本で就いていた職業が医療従事職だった。あんな仕事をするのは、もう懲り懲りだ。それに、罪から逃れるためにこの国に来たというのに、同じ轍を踏む可能性を高める必要などどこにも無い。
残ったのは、第3候補である農業関連職だった。年収面で考えると、他の候補よりは見劣りするかもしれない。それに、俺には農業に関する知識は皆無である。だが、職業に関する知識は職業訓練という形で政府の支援を受けられると考えると、大した問題では無い。年収に関しても、俺1人がある程度食べていければ十分であり、そこまで問題では無い。
これらのことをを踏まえて、職業選択希望用紙の記入に取りかかった。職業選択希望用紙にはスーツ姿の女が説明した通り、第1〜第3希望までの職業を記入する欄と就業地区の希望を記入する欄があった。
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<希望する具体的な職業>
第1希望…農作業員
第2希望…農耕管理員
第3希望…農機具整備員
※就業地区希望欄:特になし
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俺は提示された職業の第1候補と第2候補を排除し、第3候補に挙がった職業を記入した。また、第3候補の職業の中でも、『自分の能力で可能な職業』、『面倒ごとに巻き込まれない』、『あまり他者との関わりを必要としない』、という点を考慮して第1〜第3希望までの職業を選んだ。就業地区に関しては特に希望は無く、仕事ができればどこでも良いと考えていた。
職業選択希望用紙の記入を終えた俺は、スーツ姿の女に声をかけた。スーツ姿の女は俺の前まで来ると、全ての用紙を回収し、職業選択希望用紙をその場で確認した。しばらくの間、スーツ姿の女は俺が記入した職業選択希望用紙を訝しむような目で見ていた。
「一度決定された職業は後から変更できず、職業適応検査の再検査も今後ありませんが、こちらのご希望でよろしいのでしょうか?」スーツ姿の女は俺に視線を俺に向け尋ねた。
「はい。大丈夫です」
言葉の意図は分からなかったが、俺はそう答えた。
スーツ姿の女は「そうですか…」と言い、どこか納得がいかないといった表情を浮かべた。俺は記入した職業選択希望用紙に不備があったのではないかと考えてみたが、思い当たる節は無かった。
「選択された職業に関してこちらで審査致しますので、待合室で少々お待ち下さい」スーツ姿の女は退室を促した。
第3検査室を出て待合室の椅子に座り、再び自分の名前が呼ばれるのを待った。その間、なぜスーツ姿の女があんな表情をしたのか考えた。だが、いくら考えても答えは出ず、時間だけが過ぎていった。
今回も職業適応検査について触れてきましたが、文章の内容にこだわるよりも表を作る方に力を入れてしまい、B型の変な所にこだわる性格が出た回になっていると思います。
皆さんは初めて就職活動をした時、どんな思いで臨みましたか?。僕の場合は専門学校で、なれる職種がある意味限られており、就職活動に対する思い出があまり無いのが残念です…。
この物語のように、決められた職業にしかなれないというのは不幸でもあり、ある意味では幸せなのかもしれませんね(意味深)。
職業適応検査についてのお話は次回も続きますので、お楽しみ下さい。
そろそろ、僕は暑さで溶けそうです…。早く夏が終わって欲しいです…。
※次回投稿予定 2023年 7月29日(土)