ウロボロスの物語(亡国の異邦人) 第1章ー2
今回が初投稿作品になります。読みづらい文章になっているかも知れませんが、誤字脱字等あればご指摘のほどお願いします。
本作品では人が亡くなる描写もあるため、苦手な方はご遠慮頂きますようお願いします。
相談員の女からの説明が終わると、俺たちは別室に移動することとなった。
「受付で名前が呼ばれるまでここで暫くお待ち下さい」
相談員の女はそう告げて去っていった。俺は職業適応検査を受けるための待合室に案内された。
待合室は壁紙も床も白を基調としており、等間隔に並べらえた椅子の正面に受付があった。受付の横には奥に続く廊下があり、何かの部屋に繋がる扉がいくつか見えた。待合室ではオルゴールが流れており、白を基調とした空間と相まって病院の待合室を彷彿とさせた。
俺はオルゴールの音色に耳を傾け、自分の名前が呼ばれるのを椅子に座って待っていた。待合室はオルゴールの音色以外には人の声も聴こえず、この待合室には俺1人しかいなかった。
「太宰 精様。ただいまから第1検査室に案内します」
5分ほど待っていると受付から女の職員が姿を現し、俺の前に来て言った。
俺は受付の女に案内され、受付の横ににあった奥に続く廊下へと向かった。第1検査室は廊下を歩いて直ぐの所にあった。第1検査室に入ると、看護師と思われる白衣を着た女が今から採血をする旨を伝えた。俺は看護師の女に言われるがまま自分の腕を出した。
「少し痛いですよ」
看護師の女はそう言って注射針を俺の腕に刺した。鈍い痛みと共に暗赤色の血液が注射器の中に溜まっていく。
「止血が終わりましたら、第2検査室に案内します」
採血を終えると看護師の女は言った。
俺は看護師の女に連れられ第2検査室へと向かった。第2検査室は第1検査室の隣にあり、部屋の前まで来ると看護師の女は再び第1検査室へと戻っていった。
扉を開け第2検査室に入ると、広い部屋の中に組み立て式の小さな机とパイプ椅子が数組並べられているのが目に入った。その風景は、どこか学校の教室を連想させた。第2検査室には男が部屋の前後に2人立っていた。
「こちらにお座り下さい」
部屋の前にいた男が、自分の正面の椅子に座るよう指示した。
俺は男の指示に従い椅子に座った。この部屋も男たち以外には、俺1人しかいなかった。恐らく、空港で職業適応検査を受けること自体が稀なのだろう。その証拠に待合室や第1検査室、そしてこの部屋に置かれているものには人の手が触れた形跡は無く、今座っている椅子や机も真新しいものだった。
そんなことを考えていると目の前の男が怪訝な顔で、「今から検査用紙を渡しますがよろしいですか?」と尋ねた。俺は「大丈夫です」と答え、検査用紙を受け取った。
検査では、一般教養と心理テストを混ぜ合わせたような問題を解いていった。一般教養は4択式であり簡単な計算問題や時事問題、政治に関することなど内容は多岐にわたっていたが、特段難しいものは無かった。
心理テストは『実のなる林檎の木を描け』や『家→煙突→池→生き物の順に絵を描け』などといった、何を問われているのかよく分からないものばかりで、一体何を評価しているんだ?…、と思いながらも全ての問題を順番に解いていった。
これらの検査で特筆すべきことは、制限時間が設けられていなかったことだ。もしかしたら、この検査に要した時間も職業適応検査の評価項目なのかもしれないが、俺は深く考えること無く1時間ほどで全ての問題を解き終えた。
記入し終えた検査用紙を目の前の男に渡すと、男は「しばらくお待ち下さい」と言い、後ろにいる男を残し部屋から出ていった。
15分ほどで男は部屋に戻り、「第3検査室に案内します」と言った。俺は男に案内され第3検査室へと向かった。
第3検査室は待合室と同様に白を基調とした外観だった。部屋の中央には向かい合わせに2脚の椅子が置かれていた。椅子の近くには机があり、机の上には頭部に装着する何かを測定するための機械と大きなモニターがあった。
「先生が来られるまで、こちらの椅子にお掛けしてお待ち下さい」男は椅子を指差し言った。俺が椅子に座ると男は頭を下げ、部屋から出ていった。
しばらくの間待っていると、デニムにシャツの上から白衣を着た男が入ってきた。白衣の男は俺の前の椅子に腰掛け、「これから最終検査を実施いたします」と言った。
白衣の男は最終試験の内容を説明した。とは言っても、試験の内容としては頭に機械を装着し、白衣の男の質問に嘘偽りなく答えるという簡単なものだった。
白衣の男は、「何か質問はありますか?」と尋ねた。俺が「大丈夫です」と答えると白衣の男は、「それでは始めます」と言い、俺の頭に機械を装着した。頭に装着した機械からは何本かのコードが延びており、それがモニターに繋がっていた。
最終試験は自分の長所や短所といった、企業の採用試験のような質問から始まった。それらの質問が終わると、『あなたの神についての考えを述べて下さい』や『人を殺す必要がある時、銃とナイフどちらを使うか理由を含めて答えて下さい』などといった、意図の分からない質問へと変わっていった。俺が質問に答えている間、白衣の男は難しい顔でモニターを見ながら紙に何かを書いていた。
まるでカルト宗教の洗脳のようだな…。質問に淡々と答えながら、俺はこの検査に対してそんなことを思った。
アジア社会主義連邦共和国では宗教の信仰が極端に制限されており、信仰できる宗教はロシア正教や儒教くらいだ。社会主義国家では宗教は『不満からの逃げ道』とされ、宗教を信仰すること自体禁止されている国も多い。信仰できる宗教があるだけ、この国にはまだ救いがあるのかもしれない。そんな国を支えているシステムである職業適応検査にカルト宗教の要素を感じること自体、なんとも皮肉な話であった。
俺自身は無宗教である。と言うよりも、神の存在自体信じていない。俺が神の存在を信じていないのは、日本という国が宗教に関して無頓着だからということもあるが、自身が犯した罪の影響も大きい。
俺は日本であんなことをしたにも関わらず、まだ生きている。辺境なこんな国に来ることになったのは、俺の罪に対する罰なのかもしれない…。だが、日本で起こした自身の罪に対して、贖罪する気持ちは俺には無かった。
そんなことを考えながら白衣の男の質問に黙々と答えていると、「これで質問は終わりです。結果が出るまで待合室でお持ちください」と突然告げられた。どうやら、いつの間にか検査は終わっていたらしい。
俺は「はい…」と気の抜けた返事をし、頭の装置を外して部屋から出ていった。
今回は職業適応検査の具体的な内容について触れてきましたが、主人公の心情が見え隠れする場面が最後に見られました。
実のところ僕自身も無宗教ではありますが、神の存在を信じていないという訳ではありません。とは言うものの、僕の場合は『悪魔の証明』に近いものという意味で、神を捉えているに過ぎないのですが…。こういう話をすると賛否両論が起こりそうなので、この辺りで切り上げることにします。
職業適応検査については次回も掘り下げていくので、お楽しみ下さい。
いつも後書きの最後には、『夏の暑さに負けず頑張って下さい』的なことを書くのですが、昨今の電気代事情から僕もエアコンの使用を極力控えており、夏バテしながら物語を書いています。
3ヶ月くらい耐えれれば、秋も見えてくると思うので皆さんも無理せず頑張っていきましょう。
※次回投稿予定 2023年 7月26日(水)