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水も滴る

ノベルバより転載作品です。

SF短編です。

 2055年。


 人類は、異性愛という概念がなくなっていた。二十年前に人口子宮が開発され、人類は子供を産む重荷から解放されていた。恋愛も同性やAIを対象にしたものが一般的だった。異性愛者は、差別対象となり、急速に滅んでいった。異性との接触や会話も、監視カメラつきの部屋で会うなど一定の条件下にあった。異性愛者から生まれた子供は、犯罪の傾向が強く、生まれた瞬間から「予測逮捕」され、どこかに収容されているらしい。


 exe566は、そんな世界が一般的な世の中に生まれた。人口子宮から生まれた子供で、生物学上はメスだ。エデンという施設で、同じような存在と集団生活を送っていた。


 名前は英数字で区別され、身体にはマイクロチップが入っている。もし、何か違反行為をしたら、すぐにAIに捕まるシステムだ。食事や労働の時間も決められ、大昔にあった「シュウドウイン」「ケイムショ」と似ているという人もいたが、exe566は昔の事は知らなかった。


 ただ、エデンでAIに監視されながら、決まった時間に食事をとり、労働をし、同じような仲間と眠る日々だった。十五歳になったら、別の施設に行くらしいが、実際はよく知らない。噂の段階だったが、エデンから出て帰って来たものは一人もいなかった。


 そんなexe566だったが、ある日、トイレに向かった。人口子宮から生まれたexe566だったが、肉体は原始的な欲求はあった。


「あれ?」


 排泄をすまし、手を洗っていると、トイレの窓から「異性」がいるのが見えた。


 この近所にもエデンと似たような施設があるらしいが、自分と同じ人口子宮から生まれた「異性」だろうか。


「異性」は、自分と同じぐらいで、畑仕事をしているようだった。人口子宮で生まれた子供はメンタルが悪化する事が多く、鬱病を防ぐ為に土仕事も労働に組み込まれていた。いくら人口子宮から生まれたとしても、原始的な肉体の欲求はあるらしい。


 そんな事を考えていたら、雨音は響いてきた。突然、強い雨が降ってきたらしい。「異性」は、黒い髪や日に焼けた肌が濡れていた。広い肩幅や厚い胸板を見ていると、心拍数が上がってきた。顔は雨水が滴っていた。


 ドキドキドキドキ………。


 なぜかわからない。exe566の胸は、高鳴っていた。AIには全く無い何かを感じていた。


「異性」に気持ちを持つ事は、おかしな事なのに。


 衝動は止められなかった。


 exe566は、「異性」を求めて走り出していた。体内に埋め込まれたマイクロチップから、AIが騒ぎはじめていたが、なぜか全く怖くない。


 雨音がずっと響いていた。うるさいぐらい響いていた。


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