誰一人取り残さない
2030年。超監視社会のシティができていた。車も自動運転、警察も大幅にリストラされ、シティには、多数の監視カメラが設置されていた。店もキャッシュレスで買い物ができるそう。右手に埋め込んだマクロチップにより、手ぶらで買い物ができる。夢のようなシティだ。
このシティに住むためには、信用スコアが上位でなければならない。職業、年収、貯金額、年齢はもちろん、思想もAIに社会的信用が数値化される。こも信用スコアが高いものから夢のようなシティに暮らす事ができた。
Gは信用スコアは最低レベル。というのも陰謀論、都市伝説、反ワクチン思想は数値がマイナスになり、危険因子とみなされる。こも危険因子のスコアが高いものが、予測逮捕もできるらしい。実際仲間の反ワクチン派が予測逮捕され、Gは逃げるように田舎へ向かった。
田舎で同じような仲間とともに時給自足のスローライフ。スローライフもののライトノベルのような豊かで充実した日々だった。
それは過去の話。なぜか仲間内で気が合わない事が増え、喧嘩が多くなった。「みんな人それぞれ」なので一つに纏まるのは、難しいという結論になった。
井戸水は誰が管理するか。収穫した米や野菜はどうやって分配するか。鶏は誰が首を絞めるか。共用の備品は誰が提供するか。
そんな小さな問題が降り積もっていった結果だった。
一人は「こんなに私はコミュニティの為に犠牲になってる!」と泣いた。
もう一人は「あいつだけサボってずるい」と怒った。
あとの一人は「やっぱりシティに住みたい」と後悔した。
少しずつ歩調がずれ「人それぞれで答えなんてない」という結論にしかならない。最近は田舎にも支配者層が毒入りの雨が散布されている噂もあった。井戸水にヒ素が混ぜられているという話も聞く。結局は、この田舎暮らしも支配者層の手から逃げられないのか。
「やっぱりスローライフもののエンタメも支配者層が流行らせていたんかな? こっちの田舎暮らしルートでも失敗だったか?」
コミュニティを去る時、Gはその事に気づいたが、一体何が正解だったのか、答えはでない。
誰一人取り残さない。
支配者層が作ったあのスローガンを噛み締めながら、Gはシティに向かっていた。コミュニティの連中はメタバースで生活する事を選んだものもいるらしい。
いつか支配者層を成敗してくれるヒーローのような存在を夢見ていたが、それも違ったか。例え支配者層が消えても、我々一人一人の人間の心が変わらなければ、再び似たような悪人が出てくるだろう。
シティに行っても、信用スコアが足りないので、牢屋の中で暮らす事になるだろが、Gは仕方がないとも思っていた。
「さよなら」
こうして美しい自然が残る田舎も後にし、地獄のような未来に向かっていた。




