異世界転生が実用化されたらしい
2030年、秋。地球に人喰いエイリアンが地球に襲来した。人喰いエイリアンは、人間の肉体ではなく、人の記憶を食べるという特徴があった。記憶を食べられた人間は、廃人化し、ゾンビになってしまう。街中のあちこちに記憶が食べられたゾンビが徘徊するようになった。
人喰いエイリアンは、一見は姿形は普通の人間に見えるものも多く、殺処分するのも難しかった。人喰いエイリアンだと誤解され、殺されてしまった人間も少なくない。人喰いエイリアンが人間に擬態するのが、とても上手かった。残念な事に。
ここで科学技術者達が、とある新技術を開発した。それは人間の全ての記憶をメタバース上で保存し、永遠に生きられるという技術だった。同時に開発されたフルダイブという新技術では、肉体の五感を持っているかのようにメタバース内に入り込む事ができる。しかもメタバース上では、好きなアバターを選び放題。美人やイケメンのアバターでも。現世でブスだったり、障害を持っているものは、いち早くこの技術を導入し、メタバース内で楽しくやっているらしい。
これはまるで異世界転生のようでもある。2030年になって異世界転生が実用化されたようだと大騒ぎだった。もっとも脳のデータが抜き取られたリアルな肉体は眠ったままで、寝たきり状態だったが。肉体は半分死んでるみたいなものだった。
Y太はこの新技術をすんなりと受け入れていた。幼い頃から異世界転生のエンタメに慣れ親しんでいた事もあり、記憶がメタバース上で生きられるのなら、それはそれで幸福だと思っていた。例えリアルな肉体が寝たきり状態で眠ったままでも、ゾンビになるよりはマシだ。リアルを捨て、仮想世界で夢のような暮らしを送って何が悪いのか。
「……という事でこ僕の脳のデータも全部メタバースに転送してください。肉体なんてずーっと眠ったままでいいですから」
Y太は職員にそう言い、自ら仮想空間を選んでいく。これでエンタメで夢みたような異世界転生みたいな事ができる。楽しくてしょうがない。
そんなY太の肉体は寝たきりになったが、問題ない。Y太は仮想空間の中で幸せだ。脳みそが空になったY太の肉体は、人喰いエイリアンが奪うので何も問題ない。寝たきりの男に介護する者もいないし、皆んなハッピーだった。
こんな最新技術を開発した者の中にも人喰いエイリアンが紛れ込んでいたという陰謀論もあるが、はっきりとした証拠はなかった。あなたの隣にいる家族も、普通の人間かもしれないし、人喰いエイリアンかもしれない。
「メタバースの中は、天国みたいだ。っていうか異世界転生って宗教か? 死んだら楽しい天国のような世界に行けるって宗教みたいじゃん? ま、信仰心がない日本では、異世界転生が宗教の代わりだったのか。異世界転生ラノベは、布教目的の宗教ラノベだったんかね?」
Y太の呟きが、仮想空間に響いていた。




