人口削減ウエポン
Fは陰謀論者だった。元々オカルトに興味があり、2000年頃から娯楽として楽しんでいたが、このコロナ渦ですっかり風当たりが厳しくなってしまった。
オカルト雑誌を買い漁っていると、妻から「ワクチンで人口削減してるんでしょ?」とクスクス笑われた。おそらくネットの典型的な陰謀論でも見たのだろう。
ここは書店だったので、カフェに移動し、妻に本当の人口削減のやり方を話すことにした。まだまだFが立てた仮説であり、真実とは言えない陰謀論だったが。
「ワクチンで人口削減なんて効果ないよ」
「そうなの?」
「そんなんじゃ効率が悪いじゃないか。本当に繁殖力を奪うのなら、メンタル面への武器が必要なのさ」
妻は明らかに納得していない顔で、チーズケーキを食べていた。Fはオーガニックコーヒーだけだが、人が食べているものにケチをつけるのは紳士的ではない。農薬まみれの小麦や畜産業界の陰謀を話すのは、我慢した。
「メンタル面での攻撃? どうやって? 宗教とか?」
「違う。娯楽やエンタメ漬けにするのが、一番人口減らせると見てる。いわゆる3S政策だが」
「えー? そんなもんで?」
「経済的な事情で子供が産めないのだったら、戦前や戦後の日本で子供が多かった事に説明がつかんだろ」
「確かに。でも昔はお見合いで結婚して同調圧力で子供産んでたんじゃない?」
「それもある。だから、女性を働かせて自由恋愛をOKにしたんだよ。イケメンや美女は自由恋愛は有利だが、負け組陰キャにとっては、ね? 人類の繁殖には良くないシステムだったんだよ」
「あ、だからモテない人はエンタメに逃げて、理想ばっかり高くなって結婚できず、子供も生まれないってわけ?」
「そう。昔はこういった陰キャ向けの娯楽はなかったからね。こっちの方がワクチンより武器だよ。武器。別に陰キャでもモテなくても身の丈と合った相手となら、結婚できるのにな」
令和からは推し文化も盛んだ。適度に娯楽として楽しむのは良いが、のめり込み、中には風俗に行ってまで貢いでいるものもいるらしい。完全に人口削減したい支配層の思惑通り。
「SNSで男女分断させるのも、人口削減の武器だわな。よく奢るか奢らないか争ってるだろ、次第に男は女なんてコスパ悪いと思うようになり、女は男は情け無いと思うようになる」
「ふうん。じゃ、ここも奢ってくれないかしら?」
妻は悪戯好きな子供のような顔だ。しまった、この状況ではFが奢らないといけないだろう。
「オッケー、わかったよ。俺の変な話を聞いてくれてありがとう」
「いいのよ。想像力というか、妄想力豊かだなぁって逆に感心するわ……」
F夫婦は、相変わらず仲が良かった。よく陰謀論で離婚したり、崩壊する家庭もあるらしいが、元々デスコミニュケーションしてたり、価値観が合わない所が浮き彫りになっただけではないか。最初から互いに敬意があれば、陰謀論などで夫婦や家庭は壊れないだろう。夫婦や家庭不和の原因を他責している限り、改善する事も無いだろう。酒自体が悪いのではなく、アルコール中毒になる人の心が悪いという事と似ている。
ちなみにFはワクチンでシュディングなどは無いだろうと予想をたてているので、家庭でも職場でも接種者とも普通に付き合っていた。例えあったとしても接種するよりはマシだし、こんな事で分断するのは馬鹿馬鹿しい。庶民同士で争っても得する事も何もない。
「げ、このチーズケーキ八百円もしたのかよ」
「あなた、ご馳走様。このフルーツティーも美味しそう。今度また奢って」
何だか妻にいいようにされたが、まあ、いっか。夫婦や家庭が壊れたら、それこそ支配者層が思う通りになる。そんな武器には負けないぞ。Fはそう思いながら財布を開いていた。




