片側の光
本当の弱者は、生活保護すら貰えない。Sは精神障害があったが、年金取得へのハードルがかなり高い。障害者雇用も身体障害者か、ごく一部の知的障害者で埋められていた。
役所に行けば「男だろ、働け」と詰められる。いわゆる水ぎわ対策とうものを受けてしまった。
この世は本当に困っている人には優しくない。ホームレスもよく犯罪被害者になっている。テレビではサッカーファンがスタジオのゴミ拾いしたというニュースが流れいた。今だに「日本スゴイ」をやっていたが、ちゃんちゃら可笑しい。人前での善行。見せるだけのもの。形骸化した宗教行為。
SNSも地獄だ。生活保護者を陰謀論系クリスチャンが叩いているのを見てしまった。陰謀論系クリスチャンの若い女らしい。スイーツや猫の画像と共にイルミナティがなんたらとか日曜礼拝は欺瞞だとか呟き、生活保護者も全員不正受給と呟いていた。もちろん障害年金も叩いていた。「ずるい」と。障害年金をもらう方法を仕事中に調べて、せせら笑っていた。
面白くて笑えてきた。この世は、偽善的なサッカーファンみたいのしかいないのか。
あはは!
Sはカッターナイフを両目に突き立てていた。笑いながら。
これで見た目にも分かりやすい障害者になれるだろう。もしかしたら生活保護や障害者雇用も通るかもしれない。淡い希望に胸躍る。
男の弱者は生きにくい。聾唖者の可愛いヒロインはアニメになるだろう。一方、精神疾患もちの弱者男性は、無敵の人になるしかない。弱者は基本的に福祉に丸投げされ臭い物に蓋されるが、そのセーフティネットからも溢れてしまうのが本物の弱者だ。本物の弱者は、助けたい形をしていないらしい。情けなくて悲しくて、もうどうしようもない。自殺も他害もできないSはこれ以外の方法が一つも思い浮かばなかった。
それなのに右目だけに僅かな光が残ってしまった。奇跡的らしいが……。もっともこんな行動をとるのは、自害他害の危険があると、目の怪我が治ったら精神病院に強制入院となった。
右目だけわずかに光が残るが、Sの心には全く希望はない。そのうち、月日が流れ、2030年になった。日本でも戦争が始まったらしく、若い男にも赤紙が届いているというが、Sの元には一生それは届かないだろう。
今はそれだけが救いだ。戦争になってようやく報われた。片側に残った光を感じながら、冷たい病室の壁を撫でていた。




