公正世界仮説教
最近、新しい宗教ができているらしい。公正世界仮説教教という宗教。ネットで自然発生した宗教だった。教祖やお布施、神殿も偶像も要らない宗教で、教えもたった一つ。「良い事をしたら良い結果が返ってくる。悪い事をしたら悪い結果が返ってくる」という教えだった。
単純そのもの教えだ。宗教性も限りなく排除され、無神論者を中心に入信するものが後をたたない。入信も簡単だ。公正世界仮説教のホームページに会員登録してログインするだけ。ホームページを運営するボランティアもいるという。この宗教は信者はボランティアや募金に熱心だ。良い行いは良い結果を生むと信じられていたから。そういう教えだ。
A子も熱心に良い行いをした。ボランティアや募金、子供の世話、介護、ゴミ拾い、トイレ掃除、綺麗な言葉で挨拶する事など。良い行いは片っ端から頑張った。その甲斐あってか、年収がアップ。ますます公正世界仮説教にのめり込み、SNSでの布教活動に明け暮れた。A子は敬虔な信者だったのだろう。
一見、道徳的で素晴らしい宗教だ。教祖もいない。集団で集まる事もないので、過去のカルト教団のような事件も無縁だった。だったのだ。過去形だ。
A子はSNSで犯罪被害者、発達障害者、非正規労働者、がん患者、身体障害者などに誹謗中傷を繰り返していた。彼らが不幸な目に遭うのは、悪い行いをしたからと決めつけ、公正世界仮説教に無理矢理勧誘した。A子は次第に恨まれるようになり、暴行事件の被害者となった。公正世界仮説教では似たようなトラブルが多発しているという。
それでも公正世界仮説教の信者同士で庇わない。むしろ事件に巻き込まれたA子は除名処分となるだけだ。
「だって悪い事したんだから、自己責任でしょ? A子さんは除名です。A子さんが悪い行いをしたからでしょ? A子さんが悪いんです」
怪我でボロボロになったA子は、入院中、公正世界仮説教の信者に言われた。全く反論できなかった。A子も犯罪被害者などに全く同じ言葉をぶつけていたから。何一つ反論できなかった。




