もしクラス一の美女になったら
SDGsという言葉があるらしい。
日本語では持続可能な開発目標と呼ばれる。環境やエネルギーなどについての目標が国連で決められた。
「誰一人取り残さない」というスローガンのもと、貧困や差別などもなくしていくらしい。
社会科の授業で勉強した。
「 SDGsってアレでしょ。スーパーでもやってたよ、残り物を安く売ってた。食べ物の無駄もなくすとか」
「へぇ。歌恋は詳しいんだねぇ」
私と歌恋は、学校の授業を終えると一緒に帰っていた。放課後の土手は、人影はほとんどいない。オレンジ色の太陽がゆっくりと沈んでいた。
「差別なんかなくならないよ。っていうか貧困や人種差別が無くなっても、美醜差別は最後まで残るらしい。特に女は同性の容姿に悪魔みたいに厳しいからね。つまり、私は永遠に差別される側にいるわけね」
「花ちゃん、ひねくれすぎよ」
そう笑う歌恋は、クラスで一番の美女だった。いつも男子からチヤホヤされてるし、先生にも好かれていた。
そんな歌恋は中身もいい。ブスで捻くれている私にもこうして友達になってくれる。歌恋も私も両親が仕事で忙しく、滅多に家に帰ってこないという共通点もあり、仲良くなってしまった。
正直一緒に並んで歩くのもキツいが。ウンコみたいに芋臭い私の隣には、白く輝く星みたいな歌恋がいる。比較される事は少なくは無い。
「美人も結構めんどくさいよ?」
「そうかな。歌恋に言われると嫌味なんだけど」
「神様から見れば私も花子もそんな変わりないって」
「何でそこで小池百合子……?」
そう言った瞬間、なぜか歌恋と身体が入れ替わっていた。客観的に見る私は、やっぱりブスだなぁと思ってしまった。
「やった! 歌恋の身体ゲット!」
「ちょっと、花子待ってよぉー」
私は元・歌恋が追っかけてくるのを無視した。どうして入れ替わったかは不明だが、好き勝手してやる!
今までブスとか言ってきたヤツにはザマァ!と言いまくってやる!
しばらくはこの世の春だった。男子や先生にチヤホヤされるし、ニキビもできないツルツル肌はスキンケアが楽すぎる。どんな服を着ても似合うし、メイクも普通にやってるだけで可愛くなる。アイプチ要らないって超嬉しい!
しかし、なぜか元・歌恋の方がクラスの中で可愛がられていた。
「花子はブスだけど、男を立ててくれていいヤツだよなぁ」
「中身はいいよな。よく褒めてくれるし。ヤるのは嫌だけどさー」
「俺は全然ヤレる!」
「えー、ウケる! でも奥さんにするのはアリだわ」
男子達はこんな噂をしていた。元・歌恋は可愛がれていたが、今までの私は「ブス、消えろ!」としか男子に言われてこなかったんですけど……。
その上、私は先輩ヤンキーから調子乗ってると虐められるようになり、男子からも「よく見ると態度がオドオドしていてムカつく」と言われるようになってしまった。
むしろ、元・歌恋の方がクラスの中で愛されキャラを確立していた。
自分にはこの容姿があるし!と開き直っていたら、クラスのキモい男子からストーキングじみた手紙を貰うようになった。
うっかりファーストフードばっかり行ってたらニキビが出き、太ってきた。どうやら歌恋は太りやすい体質だったようだ。
先生からは「お前は言葉遣いが悪い。女子がババアとか言うなよ。花子を見習え!」と言われる始末。
やっぱり中身が大事なのか?
外見が全てと思っていた自分が恥ずかしくなってきた。歌恋は恵まれた容姿を生かして、言葉遣いや姿勢、食生活などを努力していた事にも気づいた。何よりクラスの誰にも差別せずに接していた。あのキモい男子とも一緒にアニメの話題で盛り上がっていた。
今までの自分が恥ずかしくて仕方ない。元の身体に戻りたくて仕方なかった。
そう思った瞬間、身体が元に戻っていた。それに時間も元に戻っていたようだ。あの放課後の日付と時間に戻っていた。
「うわーん、歌恋ごめんなさい。これからも友達でいてほしいです」
私は泣きながら、今まで差別感情を持っていた事を謝った。誰よりも容姿差別していたのは自分だった事に気づいた。容姿至上主義の世間の価値観にすっかり染まっていた。恥ずかしくて居た堪れない。
「美人だってそうそう良いものじゃないって。老けた時も悲惨だしね。年々減ってくものに価値ある?」
「そ、そうだね。今まで私にも仲良くしてくれてありがとう」
「うん。私は花子の頭が良いところや真面目な所が好きだよ」
そう言われた私は、照れ笑いするしかなかった。