学校1
高校は、家から二駅離れた所にある為、電車通学だ。朝の混み合う電車は好きでは無いのだが、いつもの事だ仕方がない。
満員電車に乗り、人に押し潰されながらも漸く目的地に着き、改札に向かって歩き出した。
「おはよー!花音!」
改札を出た所で、肩を叩かれたので振り返ると茶髪の健康的な肌をした女の子が声を掛けてきた。
「おはよー、千佳!」
彼女、長谷川千佳は小学校からの友達でいわば、幼馴染みの間柄だ。
うちの家の事情もよく知っているので、何かと助けてもらっている。
「 そういえば、今日の体育自由時間になったらしいよ。体育館使い放題だって」
二人で歩きながら話し出す。
「そうなんだ、それどこ情報?」
確か体育の授業は、バレーボールだった筈、運動は嫌いでは無いので少し残念に思いつつも、さぼれるからいいやとも思った。
「えーっとね、結衣情報。ほら、あの子陸上やってるじゃん。部活の時に先生が大会関連で学校休むって言ってたらしいよ、だから今日の部活は早めに終わるって喜んでた。」
体育の先生は、陸上部の顧問なのでその情報はあっているだろう。二人で話している内に学校に辿り着く。
校門では先生が通り過ぎて行く生徒達に挨拶を交わしている。自分達も周りと同じ様におはようございますと言いながら玄関へと向かった。
一年生の教室は一階にあって、玄関口から近いので個人的には嬉しい。
自分と千佳のクラスはAクラスだ。
うちの学校はAからEクラスの五クラスで、Aから順に成績順で決められているがEクラスだけはスポーツが得意な子が集められている。
教室に入ると、席に座っている子、友達と話している子がちらほらと見えた。クラスメイトに挨拶をしながら後ろにある自分の席へと向かう。席に着いて一息吐いてから、今日の授業の予定を確認した。今日の一限目は数学で、体育の授業は四限目だ。
「はよー、舘倉。」
席に座っていると、隣から挨拶をされる。
「おはよー、須藤君。朝練お疲れ様。」
話しかけてきたのは隣の席の須藤真斗、中学校が一緒だった彼はサッカー部所属なので朝練がある。
シャツのボタンが殆ど閉まっていない様子から、急いで着替えてきたのだろう。
時計を見るともう直ぐ先生が来る時間だった、周りも殆どが席に着き始めている。チャイムの音が鳴って、先生が教室に入って来るとそれまでのざわついていた教室が静かになった。
担任の先生がいつも通り挨拶をして、必要事項を述べていく。その中に、今朝話していた体育の授業が自由時間になるという話も出た。
その話になった時、前の方に座っている千佳が此方を振り向いてニヤリとした。
(あのニヤリ顔は、言った通りでしょ!って言ってるなぁ)
「‥じゃあ、しっかり勉強しろよー。」
連絡事項だけ伝えた後、一言残して直ぐに教室を出て行った。うちのクラスの担任の良いところは、話が長引かない所だ。
「ね、言ったでしょ!今日の体育は自由だー!」
ホームルームが終わるなり、直ぐ様こっちに来た千佳は話し出した。
「いいなー女子、自由時間羨ましいー。」
「何よ、須藤。あんた運動神経はいいんだから体育の授業なんて楽勝じゃん。」
「体育の時間は好きだけど、自由時間ってのがいいよなーサボっても怒られねーし、後俺らの体育の先生なんて宮内だぜ?」
腕を枕にして机に寝そべりながら、こっちを向いて話す。男子の体育の先生は確か生徒指導でもある宮内先生で何かと厳しいと有名だ。
「でも、本当に運動神経いいよね須藤君。中学の時の体育祭とか大活躍だったもん。」
思ったまま放った花音の言葉に対して、本人はびっくりした様な顔をして少し照れた様にサンキューと返事を返して来た。
「そういえば‥何で、Eクラスに行かなかったの?部活的にもそっちの方が多少楽だったんじゃ‥?」
うちのAクラスはいうなれば国公立大学、難関私立大学を目指す人が多くいるクラスで、他のクラスより授業が少し難しい、
成績が悪いと下のクラスに落とされるという事も無くはないのだ。
それに比べてEクラスは、スポーツ重視なので勉強もそこそこ出来ていれば問題はなく、部活に力を入れているのでサッカー部に入っている彼ならばそっちの方が色々と都合がいい筈。
「い、いやー部活も大切だけどな?あのーほら勉強も大事だろ!自分の将来の為に!」
何処か焦ったように説明しだす彼を見て少し疑問に思いながらそうなんだ、凄いねと感心しつつ言葉を返した。
「俺なんかより舘倉の方がすげーじゃん、頭が良いとは思ってたけど新入生代表だっただろ?」
確かに、四月の入学式で自分は新入生の代表として全校生徒の前で挨拶を述べた。昔から勉強だけはずっと努力してきたし、中学の時も成績は常に上位でいるようキープしてきたつもりだった。
高校の入試では割とスラスラ問題が解けた方だとは思っていたが、新入生代表の挨拶が来た時は驚いたものだ。
まぁ、勉強はある理由の為に手が抜けないのだが…。
花音が新入生代表スピーチの事を思い出していた時。
千佳が何やら、楽しそうに須藤君と会話をしていた。
千佳が小声で須藤君に話しかけていたので会話の内容は聞こえなかったが、肘でつつく姿を見て、二人は仲がいいんだねと口に出したら、何故だか分からないが二人して溜息を吐かれる。
「どんまい須藤。私はあんたの事いいやつだと思っているから」
千佳がポンッと慰めるように肩に手を置いた所でチャイムが鳴った。それまで席を立っていた人達は直ぐ様席に着き始める。
千佳も例外ではなく、慌てて席へと戻っていった。