謝罪
盗んだと告白してからは、ばつが悪そうな顔をして、私の目を見ない。盗んだというのは、このクマのぬいぐるみで間違いないだろう。
「どうして、盗んだの?」
「っ………………。」
身構えている男の子に問えば、怒られると思っているのか身体を強張らせた。
「喧嘩……したんだ、、みきちゃんと言い合いになっちゃって、……だからつい盗っちゃった……。」
少しずつ話し始める姿を見て、花音は黙って聞きに徹する。自分のした事を話したことによって、戸惑いが無くなったのか事のあらましを話してくれた。
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みきちゃんとはいつも通り公園で遊んでいたらしい。それが、ちょっとした事から喧嘩になってしまったそうだ。
ゆうた君はみきちゃんが持って来ていた、ぬいぐるみを衝動で盗んでしまった。
そのまま、直ぐに謝って返せば何も起きなかったのだろうが、その時は盗んだまま帰ってしまう。自転車の後ろにクマを乗せて…………。
「後ろを見たら、ぬいぐるみが無くて……」
家に着いてから気が付いたそうで、慌てて来た道や公園を探したが、見つからない。
公園の茂みに頭を突っ込んでいたのも、クマを探していたからだという。
「見つからなかったらどうしようって……」
盗んだ自分が悪いけれど、必死で探していたのだろう。それは汚れた服を見て分かった。
(それで巡り巡って、今の状況か。)
「何をしなきゃいけないか、分かるよね?」
全ての話を聞いた花音は、ゆうた君の目を見つめる。
「……あやまる」
ポツリと出た言葉に、花音はにっこりと微笑んだ。
一人で謝りに行くのが不安なのか、お姉ちゃんも着いて来て欲しいと頼まれ、一緒にみきちゃんの家へと向かう。
花音達が目的の家に着いた頃には、日が落ちて青みがかった空がオレンジ色へと変わっていた。
謝ると決意したのはいいものの、ドアの前でインターホンを押せずにいる姿から、中々勇気が出てこないのかもしれない。
頑張れと心の中で応援しながら、花音は後ろ姿を見守る。
ドアの前で暫く立っていたが、決心が付いたのかインターホンを押した。
……数秒後出て来たのは女の子。
「ごめんね!ぬいぐるみ盗っちゃってごめん!」
ガチャっとドアを開けるなり、突然降ってきた謝罪の言葉に一瞬少女は驚くが、少年の顔とクマをじっと見つめてから、「私こそ、ごめんね。」とお互いに謝った。
少女が昼間にぬいぐるみを受け取らなかったのは、少年から返してくれるのを待っていたからだ。
だから、自分の物だったとしても受け取るわけにはいかなかった。
「もとの場所に返してきて」は、少年のゆーくんのもとに返してきてという意味だったのだろう。
謝れた事にスッキリしたのか、晴れやかな表情になったゆうた君からは、暗い雰囲気が無くなっている。
こうして無事にクマのぬいぐるみは、元の持ち主へと届いたのだった。