見返り
「バカにしてるんですか?」
こっちは、貴方に押し付けられた仕事を一生懸命こなそうとしているのに!アドバイス貰いにきたら、揶揄われて。やってられるか!とぬいぐるみを投げつけたい衝動に駆られるも、この子に罪は無いとすんでで思い留める。
(ダメだ、頭に血が上る……一旦冷静になろう)
「バカにしてねーよ。俺が言っても今は信じないだろうがな。話してることに一つも嘘は付いてないし、兎に角そのガキを探せとしか言えない。」
「…………。」
「それに、無事にこの仕事が終わったらコレ。返してやるよ。」
「!!」
コレと言って見せてきた、手の中にある物に体が反応する。それは、あの日猫が奪って行った物で。この家に不法侵入する事になってしまった。
「私の御守り!!!」
やはり、ここにあったのだ。
どうして、とか。どこにあった。とか今はどうでもよくて、ちゃんと無事に見つけられた事実にホッとする。
「分かりました、仕事を終わらせます。」
取り戻す為ならば、やるしかない。
「おい。」
それでは、と踵を返し出て行こうとする私に"待った"をかけてきた男は、A4サイズの紙を渡してきた。
「ここに、サインしろ。」
「……へ?」
受け取った紙を見ると、書いてあった内容は手書きでこんな事が書かれていた。
令和5年5月20日
家主の家不法侵入及び、近所迷惑をかけた事。助言を授けた時間と労働力により、人に迷惑をかけたと言う事実を真摯に受け止め、一つ何でも言う事を聞くものとする。
署名――――――。
「……何ですかこれ。」
「読め、見たまんまだ。」
書くわけないだろう。見て分からないから聞いたのに……。
「俺は自分の貴重な時間を、お前の為に使ってやった。それなりの見返りが必要だろう?」
それは、この仕事を引き受けた事で成立してます!と紙を突き返し主張すれば、不法侵入の際、警察に突き出さなかった事がその分だと反論されてしまう。
「いいか、次いでに言っておくが。御守りを見つけ出してやったのも俺だ。ただで何でもかんでも通ると思ったら大間違いだ。いいからそこに名前を書け、、
館倉花音。」
何なんだこいつはと、空いた口が塞がらない状態だったが、そいつは意地悪く私の目の前で、御守りをユラユラと揺らして見せる。……脅しですか?
「言うことを一つ聞くって、変な事じゃないですよね……。」
「俺が、何か変な命令するとでも?」
「いえ……(しそうです)」
「また、仕事を引き受けてもらおうと思ってる。」
またこき使われるのか……。と思ったがそれならばと(思う事は色々あるが)名前を署名する事にした。
(そうするしかなさそうだし……とてつもなく、面倒くさいけど。後一回くらいの手伝いなら、、)
館倉花音と、手書き感満載の紙にボールペンで署名をし、男に手渡す。
「はい、どうぞ。」
男は黙ってそれを受け取ると、それじゃあ行ってこいと送り出すのだった。