助言
「はぁぁーーーっ。」(嫌だ)
「はぁぁぁーーーーっっ。」(行きたくない)
歩くたびに、溜め息を吐いてしまう。そこに行く事をとても拒否したかったが、行かない選択が無いという事を私自身理解していた。
車が行き交う道路や、人が居て騒がしかった場所から、奥へ奥へと進む度。段々と周りの音が静かになっていく。
変な看板がある古い一軒家に向け、重い足取りで歩けば、、時々家同士の隙間から流れてくる風が、前髪を乱していった。
この前来た時と同じ家。同じ看板。
カチャカチャッ。
……鳴らないインターホン、、。
(直しとけよ!)と誰にも届かない突っ込みをする。
そして、
ドンドンドン!!
……扉を叩いて(殴って)も出てこない主、、。
(皆さーん、ピンポンダッシュし放題ですよー。)
子どもには人気だろうが、金にならない売り文句を思いついた。頭の中ではスーパーの激安セール中の売り場が展開されている。
待っていても、何も起こらない時間に現実逃避する事を諦め中に入り、大きく息を吸い
――スぅぅぅ……
「ごめん!!!くださぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
吐き出した言葉に、近所から苦情が来ない事を祈った。
ドタドタと走ってくる音が聞こえ、出て来た男は
「煩ぇぇ!!近所迷惑だろうが!!!!」
私と負けず劣らずの声量で登場したのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「不法侵入の次は、近所迷惑か、、。」
私を見るなり、顔をしかめ迷惑そうな顔をする男だが、迷惑被っているのは私の方だと主張したい。
「すみません。インターホン押しても鳴らないですし、ドアを叩いても出てこなかったんで!」
お前のせいで不法侵入も、近所迷惑もする事になったんだぞ!と伝えてみるも、
「それで、?何しに来た。」
男は、私の言い分をシカトする。
「何しに来たって……」
(助言をもらいにきました?助けてもらいにきました?ぬいぐるみを受け取ってくれません?)
どう話し出そうか考えずに突撃してしまい、言葉に詰まる。
「……何もないなら人に迷惑をかけるな。」
言葉に詰まる私の姿を一瞥し、消えようとするのを引き止める為、目の前の男が着ているTシャツを引っ張り
「こっ、困ってます!!」
咄嗟に言った言葉がこれだった。
主語がなさすぎるその言葉に、一から説明しろと。話を聞いてくれる姿勢になった男に、今の状況を説明する。
頼まれた(押し付けられた)ぬいぐるみの落とし主を見つけたのだが、女の子がどうしても受け取ってくれない事。ぬいぐるみを届ける事ができずに、そのまま一旦預かって来た事を説明した。
「……というわけなんですが、、どうすればいいですかね?」
自分では、何も良い考えが思い浮かばず。本来?の仕事の主からの助言を期待する。
「知らねーよ。クマに聞いて見るしかない。」
「クマにどうやって聞くっていうんですか!?この前は、公園を探せって言ってくれたじゃないですか。」
てっきり、こんな事態になった時の為のマニュアルとか。その場合はこうするんだ!みたいな経験上の、助言的な何かを期待していた私はガッカリする。
(この人は、これが仕事では無いのか?それにクマに聞けって、聞けれる物なら聞いてみたいよ!)
頼みの綱が切れてどうしようか。と考えている私の目の前に
「ん。」
男が片手を突き出してきた。
何をしているのか分からずに、不思議そうな顔をして見せれば
「ちっ。ぬいぐるみ」
舌打ちをしてくる。
(舌打ちしなくても良くないですか!?)
心の中で思ったが、イライラした顔を表に出さない様どうぞと笑顔で渡した。
受け取ったぬいぐるみをどうするのか見ていると、両手で触って目を閉じ出す。
その状態から少しも動かないので、まさか眠った??と不安になり声を掛けようとしたら
「公園か、公園の周り。ゆー君っていうガキを探せ。」
目を開いて、ぬいぐるみを突き返してきた。
(公園は、今日二つ目に行った公園の事?ゆーくんって男の子は、どっから出て来た情報なんだ。)
「ゆーくんって言う。男の子を探せば解決するんですか?ゆーくんって何処の誰何でしょうか?」
「ゆーくんって言う、名前しか分からん。どこの誰かも俺が知るわけない。」
何処の誰かも分からない子の名前を、何で口に出したのか、分からないのはこっちの方で。この男の妄想と会話をしているのか?揶揄われているのではと思い始める。
「あの……それじゃあ、どうしてその子を探せなんて言うんですか?」
揶揄われてたまるかと、疑う質問をすれば、
「どうしてとか、何処の誰だか言われても分かんねーって言ってるだろうが。そのクマが記憶してるのがその情報ってだけで、責めるならそのクマを責めろよ。」
余計分からない回答が返ってきた。