予想外の事態
予想だにしていなかった言葉に驚いたのは、私だけでは無く。女性の表情を見れば、娘の発した言葉に不意打ちを突かれている。
「これは、みきの物でしょう?」
ぬいぐるみを持ち、これが証拠!とリボンの刺繍を
娘に見せる。
それでも、違う違うと頑なに首を振る少女に困った顔を見せた。
「わたしのじゃないもん!みきのじゃない!!」
「いい加減にしなさい!どうして嘘を吐くの!?」
それまで、優しく言い聞かせようとしていた母親が、娘の態度にとうとう痺れを切らした。
嗜められた少女はそこからヒートアップして行く。
「ちがうもん!ちがうもん!もとの所にかえしてきてーーー!!うわぁぁぁぁん!!」
泣き出した事により、説得するのは無理だと思ったのか、落ち着いたら娘に渡しますので、とお礼を言いドアを閉めようとするも、ぬいぐるみを家に入れる事すら許さないらしく。
母の手から、ぬいぐるみを奪い。ドアの外に放り出す始末。
どんなに怒られても態度を変えない少女に、今日は一旦預かりましょうか?と提案する他なかった。
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あれから家を後にして、駅近くに戻ったが。予想外の事態に、どう対処すればいいのか分からない。
ドッと疲れが押し寄せてきて、お昼を食べていない事に気付き、気分転換を兼ねて、遅めの昼食を取る事にした。
入ったお店は、お昼のピークを過ぎたからかもしれないが、土曜日なのに人が少ない。
店内の様子を窺えば、店員がいくつかの席に置いてある食器を片付け、テーブルを綺麗に整えている。
「お好きな席にどうぞ」と、にこやかな笑顔を見せた店員に言われ、四人がけのソファーの席へと移動した。
一人で四人がけの席に座るのは、普段だったら遠慮するのだが、気持ち的に疲れてしまった今の気分は、椅子ではなく、ソファーに座らせて欲しい。
机の上にメニューを広げ、数分迷ってから店員を呼んで注文した。
「デミグラスのオムライスを一つ。」
人って、お腹が満たされると落ち着くのかもしれない。お腹が空いていた時より、満足した方が頭が働きそうだ。少なくとも私の今の状態がそうだ。
さてさて、と食べ終えた食器を端に寄せ、今回の問題をどう片付けたらいいのか、冷静になって考えてみる。
まず、当初の目的のクマのぬいぐるみの持ち主は見つかった。
少女は、自分の物では無いと言っていたが、母親の態度と、"Miki"と書いてある刺繍と少女の呼ばれていた"みき"という名前が一致している。
(お母さんか女の子か、どちらかが嘘を付いているとしても、お母さんは絶対に違うだろう)
問題は、自分の物であるぬいぐるみを、頑なに拒否する少女だ。何か理由があるから受け取らないのだろうか?
先ほどの、少女の言った言葉を思い出そうとするが
「わたしのじゃない」や「もとの所にかえしてきて」
という事しか言っていなかった気がする。
(う〜〜ん。解決策が見いだせない……。)
「助けを求めようか……。」
(誰にだよ!)と自分で自分に突っ込むが、頭の中に浮かんできた人物は、一人しかいなかった。