華奢な男子は目の毒です
華奢な男の子と思春期に差し掛かった弟くんのお話。
未だ時季は夏だというのに降り注ぐ雨に空気が冷やされひどく肌寒い。バイトの帰り道、ブルリと肩を震わせお気に入りの傘を両手で持って身を縮ませると、薄ら白く色付いた息を吹き掛ける。
「さっむ、羽織るものでも持って来たら良かったかなぁ…」
いつもと同じはずなのに、随分と長く感じる道のりは退屈で、そのせいかつい独り言が増えてしまう気がした。雨に濡れることを厭ってポケットに閉まったままにしているスマホを服の上から手慰みに弄り、思考を逸らす。クリアになった脳に、雨が地面を打つ音とは明らかに違う"声"が届いた。弟の声だ。
「おね…おにいちゃーん!」
──おいこら、いま何て呼ぼうとした?
牽き吊りそうになる頬をグッと堪え、闇夜を見透すために目を細めれば、徐々に近付く見慣れた姿が視界に納まる。上背は忌々しいことに私より高く、これでは遺伝子が原因だという常套の言い逃れに説得力を持たせることなどできはしない。
救いはその言い訳をする相手がネット上の繋がりしかないことだけど、なんて。本当は自分に言い聞かせてるわけだから救いなんて無いんだけどさ。
この上なく憂鬱な気分に浸りながらヒラヒラと手を振って弟を迎える。雨の中じゃ独り身様に相応しい肺活量しか持たない貧弱な声量では直ぐに掻き消されるから試みるだけ無駄なのだ。
「どうしたのこんな時間に?」
走ってきたからだろう、弟が息を整えるのを少し待ってから問いかければ、キッと下から睨み付けてくる。膝に手を添えているからだとわかっていても新鮮だしなんだか優越感がある。虚しい。
さてはて、それにしても本当にどうしたのだろうか。何を言うでもなくこちらを見ていた弟は、パッと顔を逸らすと胸に抱えていた袋を突き付けてきた。相変わらずの高低関係が取り戻され、見下ろされる形になったことに内心で舌を鳴らしつつ中身を取り出せばそれはちょうど欲していた上着の様だ。
「母さんがまだ帰ってこないのかって心配してた。遅くなるなら連絡くらい入れなよ、まったく…」
「えっ…!」
用事は終わったとばかりに告げながら戻り出した弟に目を丸くして、私は急ぎスマホを確認する。
なるほど、長く感じてはいたが想像以上だったらしい。いつもならとっくに家につくどころか寛いでいるような時間帯だ。はにかみながら感謝を口にすれば、弟は照れたように頭を掻く。
そのまま最近ではめっきりと減っていた弟との交流を深め、帰路を二人並んで歩いた。
ーーー
どうしてこうなったのだろうか。母さんに二人揃ってお風呂場に連行された私たち。
湯舟を揺らしながらチラチラと視線を向けてくる弟に無性に羞恥心を覚えつつ私は温水で濡らした髪にシャンプーを泡立てる。丁寧に泡を流し終えると、バシャリと水が跳ねる音がした。
体が温まりきるには短い時間だけど、弟としても気まずさを覚えていたのだろう。先に上がるらしい。脱衣所が濡れないようにシャワーを止めるが一向に出る気配がないことを不審に思い小首を傾げれば、意を決したように弟は上擦った声をあげる。
「せっ、なかながす、よ?」
「いっ、ちょ、んっ!?」
言うが早いか制止する間も無くシャワーを奪い、ひんやりと冷たいボディソープをたっぷりと私の背中に垂らした。
「ひゃっ」
悲鳴をあげてもむしろ弟は加速すらしてみせて、準備を終えると私より大きな手でツーーーッと背筋に沿って優しく撫でられる。
駄目だ。張り上げそうになる声を我慢して下唇を噛み締めた。
「あっ、ふっ、くぅ…」
それでも漏れるくぐもった声が、弟に更なる燃料を注ぐ。
「なんっ…でっ!」
「っ…!兄ちゃんが悪いんだからな!いっつも無防備に家の中をふらついて!思春期舐めんな!もう俺のイメージではほとんど女なんだよ!むしろクラスのやつらより数段上の美少女なんだよ!!ふざけんじゃねーー!!」
逆ギレだった。
まごうことなき逆ギレだ。
「ふざけてんのは、んっ!そっちでしょー、がっ!」
体格差はもちろん、後ろを取られていることや私が座っていること何かもあって為されるがままに背中を洗われる。妙な手捌きだけど、終始一応は洗うという体裁を保っているようだった。
──だった、のだ。暴れたのがいけなかった。ちょうど肩に乗せていて滑った手が私の秘部に触れる。
──まずいっ!
「んっ……へぇ?」
弟が驚き、そしてにまにまと笑みを深めた。
「なぁ兄ちゃん、これどういうこと?」
──お天道様はまだまだ顔を覗かせない。
身内の会話によるノリと勢いで書くことになったわけですがなんか凄い迷走してキャラがブレブレな作品になっちまったです……。
それはそれとして様式美として、
──このあとめちゃくちゃえっちした!