11:03~30:12
「じゃあ一つ目は……これ!」
コメント欄の流れをロングタップで一時的に止め、俺は宮越に見せた。
「えーっと、最初のお題は『宇津木家四人の本名を大声で叫ぶ』だって。家の中でってことでオッケーかな?」
「いいんじゃないっすか」
メモ帳に走り書きする宮越の横から、原田と森山が覗き込んで言った。
どうやら発表まで待てなかったようだ。
「こら、二人ともテンポ悪くなるから下がって。あとでまとめて発表するから」
藤条が二人を引っ込めるのを後目に、俺と宮越はポンポンとお題を決めていく。
全て出揃うと、俺は藤条からカメラを受け取って隊員三人にピントを合わせた。
「では、選ばれた三つのお題を発表します!」
宮越から渡されたメモ帳に目を落とした藤条が、小さく「うわっ」と呟いて顔をしかめた。
「これ、だいぶガチなやつだけど大丈夫かな」
そう不安そうに言いながら、カメラの方に視線を向ける。
「えー、まず最初のお題は、さっき原田が言っていた【宇津木家四人の本名を大声で叫ぶ】です」
「本名って分かってるんだっけ」
原田の問いに、スタッフの宮越が紙切れを差し出す。
「あ、分かってるんだ。ていうか用意いいな」
「うちのスタッフは優秀っすね」
「次のお題は【鬼役は子供部屋と両親の寝室で『みーつけた』と言う】です」
「子供部屋と寝室も……あ、あるって分かってるのね」
「うちのスタッフは優秀なんすよ」
宮越ばかり褒められていて、なんだか納得いかない。
カメラマンも優秀だぞ。
「三つ目は【洗面所の鏡を覗き込む】です」
「簡単そうだけど1番やりたくねぇ」
「うん、これは嫌だね」
文句を言いつつ、森山と原田はメモ帳にあみだくじを作っていった。
三本の棒の下に一から三までの数字を振り、藤条に手渡す。
そのまま時間をかけることなく、誰がどのお題をするか決定した。
「あみだくじの結果、俺が【子供部屋と寝室で『みーつけた』と言う】で、原田が【本名を呼ぶ】で、森山が【鏡を覗き込む】になりました!」
「俺のクジ運の無さよ……」
頭を抱える森山をスルーし、藤条は宮越から懐中電灯三つと小型のビデオカメラを二つ受け取った。
「カメラマンは鬼と一緒に行動するので、隠れる側の隊員は小型ビデオで各々動画を回しておきます。お題をクリアした証拠にもなるからね。撮ったやつは編集して後日アップするので、是非観てください」
「鬼はお題からして藤条さんっすよね? いいなぁ、リーダーめっちゃ楽じゃん」
「しかもカメラマンいるってことは、二人で回るんでしょ? 羨ましいな」
藤条は文句ばかり口にする二人を気に留めることなく準備を進めていく。
「よし、最終確認だ。まずスタッフの宮越は車の中で待機ね。隊員たちはお題をクリアしたとき、または何かトラブルがあったとき、宮越に連絡をすること。宮越はカメラマンの川西とトランシーバーを通して会話できるから、リーダーである俺も状況を把握しやすい」
俺と宮越は藤条とアイコンタクトを交わし、了解を示した。
「それじゃあ、皆さんお待ちかねのようだし、さっそく検証を始めようか」
「よっしゃ!」
「了解!」
屋敷へと歩き出す三人に続いて、俺も歩き出す。
右手にカメラを、左手にトランシーバーを。
準備は万端だ。
高揚感と少しの緊張を胸に、俺たちは玄関の扉を開けた。