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0:00〜11:02

      「よし、これでいいだろ。準備いいか?」

 カメラマン担当の俺、川西(かわにし)大夢(ひろむ)は角度の微調整を終えて、カメラから目を離すことなく尋ねた。

 それにリーダーの藤条(とうじょう)が大きく頷いてみせる。

「おう、バッチリ。いつでもいいぞ」


「はいよ。あ、スタッフが隣でカンペ出すから、あとは打ち合わせ通りによろしく。そんじゃ、本番まで3秒前! 」

 俺は三から順に指をおり、一までカウントすると流れるようにカメラの録音ボタンに手をかける。

 それを見て、隣に立っていたスタッフの宮越(みやこし)はカンペの書かれたノートを持ち上げた。

 配信スタートだ。


「皆さん、こんにちは! 怪奇現象調査隊のリーダーやってます、藤条です!」

「隊員の森山と!」

「原田です」

 ご新規さんのために自己紹介をしてから本題に入る。

 これは動画配信を始めた二年前から変わらない、お決まりの流れだ。


「えー、本日はね、○○県△△△市にある、とある有名な廃屋に来ています! 今はまだ出入口に立っているだけなんですけど……見てください、めちゃくちゃ雰囲気あると思いません?」

 カンペに書いてある内容とオリジナルを混ぜて、藤条は隊員二人に話を振る。


 すると、ムードメーカー的存在の森山が大袈裟に身をすくめた。

「いやぁ、分かります! なんか廃屋って言ったらもうちょっと小さい家を想像しちゃうんすけど、この家めっちゃデカいんすよねぇ。屋敷やんって思いました。原田さんも思ったっすよね?」

「うん。真夜中で辺りが暗いからっていうのもあるんだろうけど、なんか不気味だよね」

 

 調査隊が背後に佇む廃屋を振り返り、それぞれ感想を述べていく。

 壁にヒビが入り、ツタだらけのそれは、表札に『宇都木うつぎ』と書かれていた。

 カンペのノートが一枚めくられる。


「コメント欄の様子からして皆さんお気づきかも知れませんが、この家は十年前に『宇都木一家惨殺事件』があった場所です。しかも事件が発生したのは今日と同じ八月三日。スタッフさん、狙ってこの日にしたんだろうな。……ええと、事件の概要を簡単に説明しておくと、宇都木家は父と母と姉と弟の四人家族で、当時十歳だった弟が三人をナイフで殺害。その後、自身も家族の近くで首を切って自殺したそうです」

「うわ、今回マジでヤバい所じゃん。ていうか理由とかわかってないんすか?」

 腕を擦りながら尋ねる森山に、藤条は首を横に振った。


「弟が自殺したからかな。情報が取れなかったんだと思います。協力者がいたという話も上がったんだけど、証拠が出なくて。未解決事件というか、捜査が打ち切りになったらしいです」

「……で、そんなヤバい所で今日は何をするっていうの」

 原田の問いに、宮越がカンペをまた一枚めくった。


「今日はですね、宇都木家にまつわる、とある噂の検証をします!」

「噂って、あれっすよね。真夜中に宇都木さん家でかくれんぼをすると、一家を惨殺した弟が現れるっていう」

 森山が撮影前に調べた知識を披露する。


「そうそう。ただね、普通にかくれんぼをするだけじゃダメで、ある条件が揃わないといけないらしいんですよ」

「条件って?」

 藤条の言葉に興味を持ったのか、原田が身を乗り出して尋ねる。

 カンペを全て出し終えた宮越は、ノートをしまい込むと懐中電灯などの準備を始めた。


「それが分からないんですよね。いくら調べても書いてなくて」

 わざとらしく口をへの字に曲げる藤条だったが、次の瞬間、満面の笑みでこう言った。

「そんな訳で! 概要欄にも載せたように、リスナーさんからお題を募集して、その条件を探ろうと思います! 名付けて『メンバー一人につき一つクリアしないと帰れまてん!』です。皆さんはなるべく条件に近そうなものを考えてくださいね」

 あからさまに隊員二人が顔をしかめた。


「え、まじ? 終わんないと帰れないんすか?」

「……それってさ、難易度がバラついたりしたら人によっちゃ不公平じゃん?」

「あー、早速ですが、リスナーさんたちからお題を貰いましょうか」

 森山と原田の不平不満を華麗に流し、リーダーの藤条は宮越からタブレットを受け取った。


 リスナーたちの名前とコメントがつらつらと流れている。

 コメントを目で追いながら、藤条は顎に手をあてた。

「うーん、そうだなぁ。ここは公平に、カメラマンとスタッフが目に止まったものを書き留めて、そこからあみだで決めるってのでどう?」

「賛成っす」

「それでいいよ」

 三人の話が一段落したところで、俺はコメントにカメラを向けた。


 お題のことを話した瞬間、コメ欄の流れが早くなった。

 そのため、一つ一つしっかりとは読めなかった。

「じゃ、川西さんと宮越さんは適当に画面を指さしてね。そのコメントを書き留めるから」

 仕事の早い原田が、メモ帳とペンを片手に言った。


 俺は藤条にカメラを持ってもらい、宮越と共にタブレットを覗き込む。

 そして適当に指をさして、お題内容を選出しはじめた。

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