第8話 キルトスの町
キルトスの町は、地図上で見るよりうんと広い町だ。
面積的にはそう広くないんだけど、子供の足で町を一周しようと思ったら一日では足りないだろう。
というのも、縦に立体的だからだ。
町の土地が中央に向けて高くなっていたり、土地が膨らんでいるところは地下空間を利用しているというのもある。
けれど何より、町の中に生えている木々が互いの枝を絡め合っていて、木の上にも生活空間を作り出している分が存在するからだ。
高層建築はないし、建物がごちゃついているわけでもないが、そういうわけがあって、キルトスは土地がそこそこ広い町となる。
「ほんでみるより、うんとすごいな」
「ええ、初めてこの町に来た者達はみな驚かれていますよ」
「にんきになるわけだ」
保養地として大人気のこの町の真価は、空間が広くてのびのび過ごせるという特徴があるだけではない。
キルトスの町は、数十年まえにこの国に戦争が起こった時でも大活躍した。
場所がら、隣国との国境が近いこの町では、この立体空間を生かして、隣国の兵士達の進行をくいとめるのに役立ったと聞く。
辺境の一地方でしかないキルトスが注目され始めたきっかけだ。
その時の戦いでは、俺の両親も活躍したらしい。
具体的な内容は聞いた事はないけど。
「ラックス様、足元に気を付けてくださいね」
「わかった」
「場所によっては、何十メートルもの高さがあるので、足を滑らせると大変ですよ」
「それはさすがにこわいな」
元の世界と単位が同じなのはとてもありがたかったけど、リアルな怖さが伝わってきて身震いせざるをえなかった。