<敵の襲撃をきっかけに、隠されていた前大戦の超高性能ロボットを見つけて、乗り込む主人公>という鉄板シチュエーションを実現したんだが……世知辛い。
俺の名は、ヒムロ・エイ。
前世は、リアル系ロボットアニメが大好きな男だった。
女神の手違いにより、死んでしまった俺は、大好きな<リアル系ロボットアニメ>の世界に転生できるように頼んだのだ。
それも「敵の襲撃によってやむなく、<前大戦末期に製造されるも、その性能を恐れられ隠匿された超高性能ロボット>に乗る立ち位置の主人公」でお願いした。
今日で、俺が生まれ変わってから20年が経つ。
ちょうど20年前には、大戦が終結した。何年も世界中の国が、ドンパチしてそれはもう大変な事態だったそうだ。
その後、俺が成長する間は、平和な時代が続いていた。しかし、最近、また雲行きが怪しくなっている。
俺は、祖国である共和国に徴兵され、辺境の基地での勤務についている。
戦略的になんの価値もない、さびれた基地だ。
ただ、あやしいのは、一つの倉庫だけが、妙に厳重な点である。他の倉庫はトタン製であるが、その倉庫は強化コンクリートをたっぷり塗りたくった分厚いつくりで、常に警備兵がついている点だ。きっと、あそこに隠された高性能ロボットがある。
俺は分かっている。そろそろ敵がこの基地に攻めて、あの怪しい倉庫が攻撃されると。
『敵ロボットと思われる正体不明機が3機こちらに向かっている。各員、戦闘配置につけ!』
突如、基地のサイレンが鳴り、放送が響き渡る。
俺が想像してたとおりだ。
二足歩行の巨大な鉄のかたまりが、基地に迫ってくる。敵ロボットだ。
敵ロボットは、迷いなくマシンガンをぶっ放し、基地はむちゃくちゃになった。味方は、ろくな反撃態勢もとることができない。
敵のマシンガンが、あの妙に厳重な倉庫に命中する。
俺は姿勢を低くして、爆発に巻き込まれないように、倉庫を覗く。すると、入り口にいた警備兵は、都合よく倒れている。マシンガンでぶち破られた壁の穴から倉庫のなかを覗き込むと、見たこともない、ツノつき、蛍光カラー色にペイントされたロボットがあるではないか。
間違いない。これが主人公機だ。
俺は、戦闘のどさくさに紛れて、仰向けになっているロボットのそばまで行くと、、コクピットを開いて、主人公ロボットに乗り込んだ。
それと同じタイミングで、敵も主人公ロボットの存在に気がついたのか、こちらへ向かってくる。
戦車もたやすく粉砕する強力なマシンガンを撃ってくるが、驚いたことに、この主人公ロボットの装甲は、銃弾を跳ね返している。
俺は、起動ボタンを押した。前大戦時に、共和国軍の兵器に用いられていた起動マークだ。
女神に望んだシチュエーションどうりであるけれど、嫌な予感がした。
起動自体は、スムーズにいった。
『身分証明書を挿入してください』
コクピットのモニターに、そんな文字列が表示された。昔のマシンにも関わらず、セキュリティー意識が高い。高性能機だからか?
俺は、身分証明書をカードリーダーに挿入しようとするが、入らない。
よく見ると、カードリーダーの差込口が違う。今は使われていない、ひと回り小さなカードの、昔の規格ではないか。
くそっ!
そっくりだけど、実は規格が違うなんて、中古パソコンを買った時みたいな、マネしやがって!
女神め。リアル系とは言ったが、ここまでの現実路線は求めてないぜ。
敵ロボットは、ますます近づいてくる。近距離からのマシンガン攻撃は、ダメージはなくとも、コクピットが大きく揺れて、俺は遊園地にある回転コーヒカップに乗った気分になる。酔いそうだ。
ラチが開かないので、俺は腹を立てて、操作パネルを蹴飛ばした。
すると、昔の機械なので、なぜだか知らないが、認証をパスして動き始めた。
やはり、昔の機械は殴るに限る。
俺の乗る主人公ロボットは、ようやく立ち上がり、敵ロボットと向かい合う。
敵ロボットは、マシンガンでは効果がないと判断し、ビームソードを抜いて、斬りかかってきた。
敵ロボットの斬撃に、俺はレバーを目一杯引いて主人公ロボットを後退させた。間一髪で致命傷は避けたが、ビーム刃に軽く接触しただけで、装甲の一部は溶けてしまっている。
俺も何か武器を手に取らなければ。このままでは、やられてしまう。
ちょうど、味方ロボットが撃破されて、近くに倒れていた。都合のよいことに、手にはビームソードを持っている。
俺は、味方ロボットの残骸から、ビームソードをもらう。
「うおおおお、今度は、こっちが反撃する番なんだよぉぉぉ!!!!!」
俺は叫び、敵ロボットに斬りかかった。
敵は、主人公ロボットの超高性能ゆえに発揮される猛スピードに、反応できない。
「もらったっぁ!!」
ビームソードが、敵ロボットの上半身を真っ二つにしようとした時、ソードのビーム刃が消えていくではないか。
「ちくしょうめ!どうしてだ!」俺は言った。
『この武器のドライバーが、認識できません』とモニターにエラーが表示される。
主人公ロボットが古すぎて、サポート対象外だった……
以後、俺はステゴロ戦闘に活路を見出し、カンフーロボットマスターとして、別路線の主人公を演じていくのであった。