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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
5/21

”あの子”

”その出会いは必然か、偶然か”



「訳、分かんねえ……」


そう言って持ち主を失くしたローブに手を伸ばす。

まだ若干の温もりを残したそれは、これが夢でも妄想でもないことの証明だ。


「どうなって、やがる。」


死んで、知らない世界に来て、どういうことか自分に会って、そしてそいつは消えた。

訳の分からない遺言と、この“何か”を残して。


身体に直接的な違和感は無い。

無いが、強く主張を続ける“何か”はまるで、


「帰るべき場所に返ってきた?」


自分でも何を言っているのか分からずに恥ずかしくなる。


――中二病は卒業したんじゃねえのかよ……


今のとこ、“何か”が与える影響は些細な物なので、放っておいても問題ないだろう。


「あと、あの子っていったい誰のことだよ……」


信じがたいことの連続にさすがに脳が疲れた。


――甘い物欲しい


テーブルに頬を引っ付ける。ひんやりとして心地いい。


暫くそのままに、アメミヤ レイの言ったことの意味を考えていると、


トントン、と二回右肩が叩かれる。

振り返ると、キレッキレの元王国騎士団の店長が立っていた。

その圧倒的なオーラは前に立つもの全てを跪かせてしまいそうなほどだ。

確か名前はエリザベス。


「な、んでしょうか……」


何だよ、と言いかけて切り返した。

下手を打てばどうなってしまうかは想像に容易い。


「いやぁ、お兄さん一人でお楽しみのところ悪いんだけど店内がこんな状況でねえ。」


「ん?」


光さえ放ちそうなほど完璧なに仕上がったが半身になると、視界が半分開け、

入ってきた時の2、いや。3倍。ともかく大繁盛、満員御礼状態になっていた。


「それ、お兄さんの荷物だろ?一つ相席をお願いできないか?」


「もうじき、うちの常連さんが来るんだよ。」


先ほどまで確かに人が座っていた椅子を指してそう言った。

答えは是非も無くYES。だが、問題はそこでは無い。


「ああ、もちろん、と言いたいところだが、その前に一つ問いたい。」


「もちろんだとも。何が聞きたいんだい?もしかして、私の“コレ”大きさのことかい?」


そう言ってにやけながら店長は胸に手を当てて揺さぶった。

今まで見てきた“コレ”のどれよりも圧倒的な量が目の前で猛威を振るう。

ピチピチの十八歳童貞には少々刺激が強すぎるその光景に自然と顔が赤くなった。


「確かに気になる……いやいや。そんなことじゃなくて」


思わず、口を滑らせてしまう。


「おや?お兄さんまだ経験したことないのかい?可愛いじゃないか……」


それを聞いて何故か恍惚の表情を浮かべて舌なめずりをする。

とんとん拍子、されるがままに話が進む。


――マズい。


「お、エリさん今日の獲物はその兄ちゃんかい?」


斜め後ろで酒を飲んでいた男が声をかけると酒場の視線が一気に集中する。


「ニイチャン貧弱そうだな!逝っちまわねえようにな!」


「ほどほどになぁ、」


あちこちからいわれも無いエールが飛び交う。


「お兄さん準備は良いようね……」


俺の質問タイムはどこへやら。


追い打ちをかけるように目を光らせて手がこちらに伸びてくる。

恐らく掴まれたが最後。しかし、反抗できる力も空気ですらこの場には無い。


――どうして、こうなった……


カラン、と来店を告げる鐘の音。

それまでもが、試合開始を告げる合図のように聞こえる。


――終わった……さよなら、俺の純潔。


「もう、店長。この子、困ってるじゃない。」


笛のように、綺麗に澄んだ声が酒場に響き渡る。


否、熱気と雑音が入り乱れるこの空間に響き渡るという表現は正しくは無い。

しかし、その声はレイにそう聞こえると思わせるほど、ド直球に耳に届き、

心地よく心を揺さぶった。


あと十年余りの禁欲の果てに魔法使いになれる資格を剥奪せん、と迫る魔の手がそれに留められる。


ドクン、と心臓が大きく跳ねる。


「何か聞きたいこと、あったんでしょう?」


店長のもう半分後ろから、フードを深くかぶった“あの子”が姿を現した。




「さすが、ファンタジー」


口から自然とその言葉が零れる、それも無理はない。

レイを死地から救い出してくれたのは紛れもないドが付くほどの美少女だった。


「ふぁんたじー?」


意味が伝わらなかったのか、彼女は首を少し傾けてそう言った。


「あ、いや。なんでも……」


先ほどより、顔を真っ赤にして弁明を図ろうとした時、聞こえてきた声に主導権を奪われる。


「あ、悪魔……」


「お前、その声、“テスカ”か?」


先ほどの絶望的な空気を作り出した張本人、後ろ斜めで酒を飲んでいた男が

今度は青ざめた表情でこの場に似つかわしくない言葉を吐いた。


「テスカ?」


途端、石を投げ込んだ水面のように熱気が、波紋のような静寂に飲まれてゆく。


「悪魔だって……?」


「見間違いだろ。」


先ほどまでレイに集中していた視線は瞬く間に、美少女に向かった。

彼女はバツが悪そうに下を向き、強く、拳を握った


「ほら、お客さんたち。人違いだよ。」


空気を察したのか、店長は腕を振りながら視線を散らそうとするが、そうもいかない様子だ。


「どうしたんだ?いきなり、こんな」


一人、状況に置いて行かれたレイは目の前の美少女に問うが、答えずにため息を一つ付いた。


「もういいわ、エリさん。商売の邪魔をしてごめんなさい。」


冷えた声で彼女を庇う店長に周りに聞えぬように小声でそう告げると、


彼女はフードに手を当て勢いよく取り払った。


よく、時が止まるという言葉を耳にするが、体感的に感じたのはこれが初めてだった。


肩の長さほどの少々薄い亜麻色の髪。青みを帯びた瞳がゆっくりと見開かれる。

柔らかな視線が一瞬こちらを見据え、言葉と心が詰まる。


初雪を思わせるような一切の汚れも無い純白の肌。

その優しい面差しには少しの幼さを残しつつもすでに見るものを惹く魅力が備わっていた。

身長は大きくも小さくも無く、160あたり。

シンプルな灰色のローブに身を包み、目立ったものは一切身に着けていない。

しかし、美人ほどシンプルな服装が似合うように、それがかえって彼女の魅力を際立たせていた。


「雪、」


真夜中に降る白雪のような美しさに、意図せずに呟く。


そんな美貌をさらけ出した彼女が受けたのは“愛好”でも“美しいもの”を見るような視線でもなく、“恐怖”や“畏怖”の類のものだった。


静寂が酒場を支配する。


彼女は一瞬、注がれた視線に悲しそうな顔を見せるが、

それを押し殺し、愉悦に表情を歪ませた。


「あ~あ、とても残念。今日たまたま、気まぐれで入っただけのこの店で悪魔だと罵倒を受けるとは思わなかったわ。」


静寂に響く、彼女の声。

透き通っていて、綺麗で、それでいて悲しい。


コツ、コツ、と悠然と歩いていき、

入り口に付くと彼女は注がれる視線を一蹴してもう一度表情を歪ませた。


「こんな最悪なお店にはもう二度と絶対に、来ないわ。」


そう言い残し、カラン、と音を立てて酒場から彼女は去っていった。


「あれが噂に聞く悪魔の生まれ変わりか……」


「殺されるかとおもったぜ……」


緊張から解き放たれた店内は安堵のため息があちこちから聞こえてくる。


「あの子は、全く……」


店長は頭を抱えながら入り口の方を見つめていた。


「なんだそりゃ。」


今のレイの状態を表すとすれば、ポカーンが正しいだろう。

それもそのはず。目の前で美少女が現れたと思ったら恐れられ、自ら悪態を吐いて去っていったのだから。


「俺を助けるために、いやそれだけじゃなくて店の迷惑も……」


しかし、表情とは裏腹に心の中で、ぽっ、と何かに火が付いた。


――状況どころかこの国の名前すら知らない俺が出しゃばるべきじゃない。そう思う。


あの子にはあの子なりの理由があるはず。

それは彼女を非難し恐れたここにいる彼らも同じ事。


それに踏み込むことは“人の家に土足で踏み入る”ことに等しい行為。

きちんと“事情”という名の礼儀は果たすべきだ。


――そう思うけど、でも。あの顔、あんな悲しい顔は。


悲しい感情を押し殺し、愉悦に表情を歪める彼女が脳裏に鮮明に焼き付いている。



「ほっとけるわけねえだろ。」


カラン、とベルの音を奏でて、酒場を駆け出る。


――店守るためだろうが、あんな分かりやすい嘘まで吐いて。


「たまたまとか気まぐれとか。」


――そのために無理やり表情も歪めて。


「二度ととか絶対とか。」


道の向こうに見える灰色のローブ。

その寂しげな背中を見て自分の考えが正しかったと確信する。


「あんなの、絶対いい子に決まってんだろうが」


心の、思うままに体を任せてレイは走り出した。




:一人目:


・√1


















今回も今作を読んでいただき、ありがとうございます。

私事ではありますが、今現在、大学一年生でして現在台湾で留学生活を送っています。

中国語が話せないのに行っちゃえって思った自分を殴りたいです……


さて、次回は”あの子”視点を当てて書いていきたいと思います。

必見です!

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