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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
16/21

ペナルティ

”事には必ず理由が伴う。”



何時から、何処から、どのタイミングで。

そんなことは何一つ分からない。


ただ、意識はそこから詰み直された。


「勝った。」


一番新しい記憶にあるのは首元に迫るナイフと、回転する世界。

踏み潰され、命の終わる音。


そこから考えて、首を刎ねられたと解釈する。


誰がどう見てもレイの負けであるし、レイ自身もそうと自覚している。

人類が逃れられぬ一種の負けである“死”に至ったのだ。

しかし、それでもなお。彼が“勝った”と口に出したのは、

死を超えた先に確かに手に入れたものがあったから。


その勝利に確信を持ちつつ、レイはいつもより少しだけ重たい瞼を開ける。


「詰み直し、成功だ。」


眼前に広がるのはすっかり見慣れた景色。

殺風景なその世界にはレイのほかにも佇むものがひとり。


「案外、すんなりと殺してくれたな。」


レイは怪訝な表情で今は繋がっているアズ・ギフトに刎ねられた首筋をなぞった。

前は劇薬で地獄のような痛みに襲われながらじわじわと殺されかけたのだ。

それに比べて今回は痛みも殆ど無く、良心的だ。


「話せば案外分かり合えたり……」


そう考え、頭の中で和解策を探るが、その危険性と個人的な恨みを加味して

却下する。


「なんの躊躇も無く人の首刎ねて踏み砕くとか、分かり合える気しねえよ。」


嘆息を一つ付く。


和解はあり得ない、と再度心に刻み付けた。


途端、冷たい感覚が全身を包み込んでフラッシュバックを起こす。

その衝撃に、激しい嘔吐感を覚え、思いっ切り地面に向ってえずく。

しかし、嘔吐感を和らげてくれるはずの吐瀉物はいつまでたっても出てこない。


「やっぱ、ノーリスクって訳にもいかないか。」


体に残る嘔吐感をそのままに、体に気合を入れて起き上がらせ、そして向き合う。


「慣れてきてんのか?俺の体。」


感じた嬉しい誤算。

絶え間なく、不快を押し付けてくる嘔吐感の仕業かもしれないが、

絶対的な恐怖がほんの少し、緩和されていることに気が付く。


「**。」


そんな僅かな進歩に喜ぶレイの耳に“影炎”と名の付けたモノから音が発せられる。

ノイズが酷くかかった音故に、意思疎通は不可能。

そう考えていたレイだったが、その言葉に思わず意識のすべてを持っていかれた。


「今、ダメって言ったのか?」


ハッキリ聞こえて訳でもなければ、確証に至るほどのものも無い。

単なる思い過ごしなのかもしれない、と思いつつ“影炎”に問うた。


「**。」


「なん、だ?コレ。」


まばたきのほんの一瞬、その一瞬でレイの眼前まで近づいた“影炎”に、

驚きながらも、“影炎”が持つ物について言及する。


「**。」


“影炎”の中心に、いや。それを中心に“影炎”がある。

そうとすら感じるほどそれは存在感をありありと放っている。。


「種、?」


途端、レイの体を嬲り続けていた嘔吐感が体から抜け出る。

倦怠感や吐き気、その他諸々の不調が全て吹っ飛んだ。


「おいおい、全回復なんてお優しいことなんてするやつなんかじゃ……」


突然の復調に訳も分からず、狼狽えていると何かがひび割れる音が耳に届いた。

その音は“影炎”の持つ種から聞こえてきた。


「ひび割れた?」


目の前にある種にわずかではあるが確かに亀裂が走っている。

それが意味するものは何なのか。


「****、****。」


その理由を考える間もなく、レイの体は“影炎”に飲み込まれていった。











「ふぁんたじー?」


「は、」


目の前に美少女が居る。


五度目の“詰み直し”はそんな思考から始まった。


その子は不思議そうにレイの顔を見てのぞき込みんでおり、

まるでレイの返答を待っているかのように思える。


しかし、レイが返せたのは理解不能を示す「は」の一言のみ。


思わぬ事態に困惑しながらもレイは思考を回す。

戻ってきたのは確かだ。

しかし、異変が生じている。


「時間がズレた?」


「えっと、大丈夫?」


彼女は困惑しながらも、レイの傍まで歩いてくる。


心臓が締め付けられるように一度大きく跳ねた。


「あ、ああ。問題ねえよ……」


それだけ伝えると、気恥ずかしさから顔を逸らし、考える。


事の起こりには必ず理由が存在する。


――何が違う、どうして元の時間に戻ってこれなかった。


これまでの“詰み直し”のスタート地点は一律して“あの子”の「もう店長」が始まりとして

固定されていた。


――そこが変わったってことは、俺が何かしたってことか?


「でも、俺の行動に一貫性が有った訳でもねえし、」


そうなのだ。

過去の四回のどれか一つたりとも同じ行動をしたものは無い。

全て同じ始まりから違う結末を辿った。


「ぎゃはは!」頭を悩ませるレイの耳にやけに耳当たりの悪い笑い声が聞えてきた。

その声の不快さに思考を断たれたレイは顔をしかめる。


「おめえ、そんなに飲んじゃって!死んじまうぞ?」


「死ぬ……」


その声がレイを真実へと導いた。


――俺が、死んだからか?


三回目で死にかけた事もあってその考えの主張が薄かったことにはっ、と気が付いた。


思えば、“詰み直し”をコントロールしようとレイは前回の四回目、自ら“死”を選んだ。

それの代償とすれば辻褄が合うのではないか。


「確かに、“影炎”も種みたいなの持ってたし……」


それが目の前でひび割れるのをレイは目にしている。


「あれが、壊れたらどうなるんだ?」


何が芽吹き、はたまた壊れるのか。


レイの頭の中で、点と点が繋がってゆく。

このペナルティが行き着く先は恐らく、


「“詰み直し”の消失、つまり、この時間軸に戻ってこれなくなる。」


「お前、その声、まさかテスカか?」


衝撃の事実に至る間もなく、まさに恐る恐るといった風にその声は聞こえてきた。

その一声に酒場は放射状に広がるようにして不穏な空気が満たされてゆく。


――マズい。


目の前の彼女はその様子をおどおどしながら酒場の視線を浴びている。


何たる失策か。

時間が早まったのならこの流れも当然早く訪れるのが道理。


「クソっ、長考してる場合じゃねえよ。」


二回目以降、避けてきたこのイベントを引き起こしてしまった。


「ごめんなさい、エリさん。」


酒場に立ち込める不穏はうねりを上げてもう引き返せないほど膨張している。

誰かが犠牲にならねば収まらないだろう。


しかし、彼女は間違いなくこの店の事を案じて行動する。

それは、何度詰み直しても変わらぬ事実。


「だったら……」


“あの子”がフードに手を掛け、酒場の視線が一気に彼女に集中する。


「注目を上書きすれば良いだけだ。」


なるべく、派手に椅子を倒して息を目いっぱいに吸いこんで声を張る。


「ここであったが百年目ぇ!!」


「え?」

その声に彼女の手が止まり、酒場の集中がレイへと移り変わった。


――よし、上手くいった。


第三者の突然の介入に不穏に困惑の空気が生まれる。

それ故に、レイの動向を酒場の視線は集中する。


眉間にしわを寄せ険しい表情を作り、制服のズボンに手を突っ込んで足を蟹股に開いて

オラオラで前に歩き出す。


イメージは調子に乗る痛いヤンキーだ。


「おいおい、お前、何処か見た事あるなって思ってたんだが、お前こないだの盗人じゃねえか。コラ。」


「チッ、チッ、チッ。」と舌打ちを繰り返しながらレイは困惑する彼女の目の前まで

歩みを進めると、にらみを利かせて彼女にそう言った。


「盗み?そんなこと……」」


「ああん?アホ言ってんじゃねえぞ、コラ。」


彼女に有無を言わせないように言葉を遮る。

そのオラオラさに彼女は返す言葉を捜すように表情が右往左往する。

あと、もう一押しが必要だ。


「兄ちゃん、そいつぁ、噂の悪魔じゃねえのかい?」


――ナイスだ!


そのやり取りを静観していた一人の騎士が声を掛ける。

その問いに思わず上がる口角を抑えて、いかにも怒ってますという表情を作る。


「こいつが“悪魔”だあ?ふざけんじゃねえよ。容姿こそ多少似ているがよ。何にもオーラなんか感じねえよ。コラ。」



「しかもだ、こいつは容姿が似てるのをいいことにそれ利用してビビっちまう奴から物盗んじまうのさ。コラ。」


「えっ……」


顔が見えないようにローブの先を引っ張ってから彼女に指をさす。


「それで、お兄さんも取られちまったってことかい?」


腕組みした騎士はレイの言葉をいいように解釈する。


「ああ、そうだ。だから今から外連れだしていっちょ絞めてくるわ。コラ。」


「分かった、この場は私が鎮めよう。」


思っても無い援護に思わず表情が崩れた。

すぐさま、いかつい表情を作り直しす。


「ああ、助かるわ。コラ。」


「このくらい、騎士として当然さ。」


そう言って、騎士は声を張った。


「皆、注目!」


レイの軽く2、3倍は大きな声に驚きながらも、その心に感謝する。

酒場の視線はその声に吸い寄せられるように聞き入っている。


「ごめんなさい、私たぶん人違い……」


「説明は外でする」


「えっ、」



怯えを孕んだ声が傍らから聞こえ、酒場の視線が自分たちに向いてないことを

確認して小声でそう伝える。


「おら、来いさっさと。酒場に迷惑かけるわけにも行かねえし。」


そう言ってレイは手を取り、酒場を抜け出た。


カラン、と鐘の音が鳴り、手を貸してくれた騎士の声が壁に隔たれて一瞬で遠ざかる。


思わぬ助け舟に感謝しながらレイは戸惑う“あの子”と向き合う。


意図せずに進んだ未来に一抹の不安を抱きながらもレイは突っかかる言葉を

喉の奥から不器用に吐き出す。


「とりあえず、良かった。」


こちらを見上げる少女に赤の他人では抱いてはいけない思いを隠しながら、

彼女の悲しむ結末をまずは一つ回避できた事に、今は只、良かったとそう思うことにした。


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