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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
15/21

一人きりの道

”染み込む”

自分の周りに大きなどこまでも深い穴が開いている。

それをゆっくりと底の無い穴へと落ちてゆく。


そんな感覚に襲われながら、レイは前を歩く彼女に語り掛ける。


「気、変わった。」


目の前の光景のすべてがレイを糾弾する。


「ああ、一つだけ。」


現実がそうだと確かに訴えても、手放せなかった思いがあった。


「確認、だな。あの子、もう救えねえの?」


足りない。これじゃあ、前に進めない。

言葉が、欲しい。


「もうじき、いや。もう死んでいるでしょうね。」


その言葉は待ち望んでいた言葉そのもの。

しかし、同時に心を激しく締め付けた。


「ああ、そうだな。俺のせいだ。」


この現状に責任を。

浅はかな自分にはそれ相応の罰が必要だ。


――――――――――――ブチッーーーーーーーーーーーーーーーーーー







その感覚は、確実に精神を蝕むものだと確信を持って言える。


「言い表すのが困難な痛みって度超え過ぎてんだろ。」


頭の中をひっくり返して探しても相応しい言葉が見つからない。

一番近しい物が“剥がされた”だが、それもこの感覚の凶悪さを一部たりとも言い表せない。


しかし、今はこの感覚に感謝しながら瞳を開いた。

自分の罪に償いの機会が与えられたのだから。


「死んだら、戻ってこれんのかな。」


ただ、黒だけがどこまでも広がる世界には待ち構えている“モノ”がひとり。


「相変わらず、凶悪な佇まいだな。俺、何かしたかよ。」


目の前の“影炎”にそう語りかけるが反応は無い。


「無視、か。でもまあ、」


無理やりでも、やせ我慢でもなく、レイは笑った。


「関係ねえか。」


“影炎”に向って真っすぐ歩みを進める。


「****、****。」


佇む“影炎”はそう言うと両手を広げるように影を目いっぱいに広げた。


「全部、償わなきゃいけねえんだ。」


そう言って“影炎”に呑まれた体は境界線を破って混ざりあう。

ぐるぐる、廻って、混ざって。

終る意識は新しい世界へと放り投げられた。

「もう、店長、その子。困ってるじゃない。」


その声に心が歓喜に打ち震える。

同時に彼女の死に際の表情が色濃く脳をかき回す。


辺りを見渡すと、そこには活気に満ちた酒場が。

誰一人死んでもいないし、木くずと化した椅子もテーブルもどこにも存在しない。


何もかも、元通りになった酒場を見渡してレイは席を立った。


「あ、お兄さん。どこに行くんだい!」


その声に振り返る。

胸に剣を打ちたてられ、無残に横たわる店長が明確なイメージとして脳裡に浮かんだ。


「させねえよ。」


「何だって?」


細々と聞こえぬようにそう呟く。

案の定、聞き返す声が聞こえるが、お構いなしに背中を向け歩みを進める。


「あ、あの……」


そのまま、酒場を抜け出ようとするレイの後ろ髪を引っ張るように声がかかる。


「ホント、その声綺麗だよな。吐き気すらも忘れさせてくれるんだから相当な物だぜ、自信もっていい。」


その声に、酒場がざわついた。

恐らく、店長の事で吐き気を催したと思われたのだろう。


「え?何言って……」


「絶対、助けてやるからな。」


最大限の笑顔を偽って、彼女の言葉を遮ってドアを思いっ切り開く。


カラン、と鐘の音が鳴りその音に酒場の喧騒から抜け出た。


「居た。」


レイが見据えるその先にはゆっくりとアズ・ギフトがこちらに歩いてきていた。


「よう、アズ・ギフトさん。」


友達と会った時のように手を上げて目の前の死神に声を掛ける。


「あら、こんな色男のお兄さんが私に何の用かしら?」


目の前の彼女は一瞬、驚いたような表情を浮かべるが、

直ぐに笑顔に上書きされる。


「いきなりで悪いんだが……」


「何かしら。」


頭を掻きながら飄々と、ヘラヘラとした態度で彼女との距離を詰める。


「死んでくれ。」


「まあ。素敵。」


全力で振りかぶり、右手を全力で振りかざす。

しかし、アズは僅かに体を跳ねさせて回避する。


「まあ、期待はしてなかったけど、やっぱり無理だよな。何か、武器がいる。」


空を斬った拳を見つめてレイはそう口にする。


「あら、なんとも場違いな言葉ね。私の名前をどこで知ったかは知らないけれど、まともな死に方は出来ないわよ?」

レイの渾身の空振りを難なく回避したアズは一度舌なめずりしてそう言った。


「ああ、仕方ねえ。なるべく一瞬で殺してくれ。」


「覚悟はできてるようね。」


ある意味、究極の賭けだ。


死んでしまった後に戻れる保証なんてどこにもない。

勿論、死ぬのは怖い。

しかし、その恐怖を覚えてなお、償いきれない罪が確かにある。


一人で、誰にも迷惑を掛けずにやり遂げなければならない。

そのためには制御不能な“詰み直し”を自在に操れなければならない。


ゲームと同じだ。

不利な現状に陥れば電源ごと、ブチ切りすればいいのだ。


バットエンドが訪れる前に、道を間違えた時点で即刻。


だから、あえて死を選ぶ。

仮にそのまま死んでしまったとしても構わない、と心の底から思う。

それだけのことをしたのだから。


だが、もしも、ブチ切りが許されるのであれば、思い描いた未来を。

何一つ落とすことなく完璧に拾い切ろう。



「いつか、お前を攻略してやるからな。」


喉元に迫る刃物を避ける事無く、受け入れる。


冷たい感覚が首元から全身を包んで世界が回る。

くるくる、と視界が何度も回転し、浮遊感を味わうと、鈍い音を立てて落下する。



「不思議なお兄さんだったわね。」


最後にそう聞こえ、ぐしゃり、と踏み砕かれる音がした。






そう呟く、アズの背後で頭を失くしたレイの体が不自然に揺らめいた。

途端、噴き出したのは真っ赤な血ではなく、深く沈む黒だった。


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