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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
14/21

上げて、落とされて。

”希望”

「おはよう、お兄さん。」


アズ・ギフトが目の前のレイに嗤いながら語り掛ける。


「何で、お前が。死んだんじゃ……」


記憶と今との違いに頭が混乱する。


「それは何かの間違い、そうね。夢でも見てたんじゃないかしら。」


唇に手を当てて、軽くこちら嘲笑うかのような表情。

それはレイの頭の中で、一つの可能性に結び付いた。


「“とっておき”ってやつか?」


戦闘中、不自然に粉塵が視界を覆っていた。何かできたと言えばそこしかない。

今思い返せば、店長がコップを弾いたあの瞬間、少しだけ何かが変わったのを感じた。


「正解、やっぱり賢いのね。これもあのお方達の一人の力を模倣したモノなのよ?」


「“夢遊の霧”の劣化版、ってとこかしら。」


アズは隠そうともせずに嬉しそうに肯定を示す。

その様子に僅かに感情がささくれる。


「クソ、俺ごとき簡単に殺せるってか?」


「どうかしら、貴方には耐性があるみたいだし。簡単ではないと思うわ。」


少し、困った表情を浮かべてアズはそう言った。

その考えを鼻を鳴らして笑い飛ばす。


「溶ける系の薬品ぶっかけたら死ぬよ。」


「あら、死にかけた経験でもあるのかしら?」


「ああ、死にかけたな。」


殺されかけた相手に皮肉めいた口調でそう述べる。

思い出すだけで全身を掻きむしりたい衝動に駆られるが、歯を食いしばって耐える。


「店長は……」


現にアズが目の前で立っている以上、結果は見え切っているのだが

自然と口から問いが漏れる。


「蘇った理由もはっきりしたし、始末したわ。」


道を教えるようにすんなりと殺したと供述する。

その手には、小さめの瓶に入れられた指が握られていた。


「お前、それまさか。」


「ええ、“再燃の祝福”一度だけ死の淵から蘇る力、なんて噂の産物だと思っていたものが目の前に現れたのなら、研究材料が必要でしょう?」


――祝福、


また聞きなれない単語だ。

この世界で言う選ばれた人間だけが持つ特別な能力の事だろうか。


「一度だけ、死の淵から蘇る力って珍しいの?」


「ええ、それはとてもとても。珍しいなんてレベルじゃ済まされないくらいにね。」


「なら俺の……」


そう言いかけて辞める。


「?どうしたの?」


何度もやり直すことの出来るこの力は一体何なのか。

異世界チートと割り切るには代償が大きすぎる。


「疲れた。」


体の疲労と精神が限界だ。それに思った以上に、心労が酷い。

一度、目指したゴールにたどり着いたと心から思ってしまったからか、感情が振るわない。


こんな惨状になってしまった以上、“詰み直し”以外の選択肢があるだろうか。

今は、今だけは痛みから自分を遠ざける事に意識を向ける。


「なあ。」


目の前に立たずむ死神の背後に、騎士剣を突き立てられた店長を目にする。


「大人しく付いていくって言ったら何もしないでくれるか?」


震える声で、そう伝えた。


「ん~、お兄さんが大人しくしていられるとも限らないもの。それに……」


「サンプルは右手だけで十分、だろ?」


レイの問いに、取り合わないといった風に振る舞うアズの言葉を途中で遮る。

その的確な答えに、一瞬、驚いたような表情を浮かべるがすぐに愉悦に全てが呑まれていく。


「やっぱり、賢い。正解よ。」


「テストの最難関問題をカンニングした気分だな。」


「お兄さんが何を言っているのか分からないけれど、良いわ。正解の報酬としてここで殺すのは辞めてあげる。それに罰則を差し引いても従順な研究材料が手に入るのだもの。」


そう言ってアズはくるりと背を向けた。

無防備だ。

そう感じるほどにその背中は警戒のかけらも無いように感じる。

自然と、足元の骸の傍らに落ちている剣に視線が向かう。


“刺せ、殺せ、”と骸がレイに敵を討て、明確な殺意を持って告げる。


幻覚だ、と自覚しながらもその剣に手が伸びてゆく。


「賢くない。せっかく伸びた寿命を自分で縮めてしまうのかしら?」


その声に幻覚は消え去り、ただの屍へと戻る。


「な、訳ねえだろ。」


振り返らずに僅かな殺意を見抜いたアズは歩みを進める。

どこに行くのか、何をされるのか、何一つ見当は付かない。

ただレイの頭の中に残ったのは一つ。痛い目に遭う前に“詰み直し”を……


「そういえば、」


レイの思考は前を歩くアズの声に絶たれる。


「あの子がちゃんと死んだか確認しにいかなくちゃ。」


途端、頭に白い衝撃が弾けた。

確信があるわけでもないし、思い当たるものも無い。が、

レイの胸に残っていた、忘れようと頭の片隅に置いていた後顧の憂いは急に膨れ上がる。


「あの子って、まさか“悪魔”のことか?」


恐る恐る、言葉を選んで問いに変える。


「あら、正解。賢いだけじゃなくて勘もいいのね。」


「髪色は亜麻色だったか?」


「ええ、あまりに綺麗だったから嫉妬したわ。」

「瞳は青っぽい紫で、肌は純白で、美少女だったか?」


「ええ、“悪魔の生まれ変わり”と呼ばれるのも頷けるほどの容姿だったわ。」


「そうか。」


地面に途方も無い大穴が開いた感覚を味わった。


――俺が、殺した。


「事を荒立てるわけにも行かないから遅効性の毒薬を使ったの。なるべく人目に付かないところで死んでてくれたら幸いなのだけど。」


――俺が訳も分からない提案なんかするから。


考えなしに、根拠もはっきりとしない理由を免罪符に計画して

浅はかな考えで実行に移した。


――その報いがこれかよ。


目の前に広がる死の劇場はレイが作り上げたものだ。

その実感が、じわじわと自分を蝕んでいく。


「気、変わった。」


真水に落とされた絵の具が僅かに溶け出した。




「あら?」


そう言って振り向くアズは少年の瞳を見て僅かに心が跳ねるのを感じた。


「ああ、お兄さんがこの場に居なかったらきっとお仲間になれたでしょうに。」


アズは素直に心から湧き出てきた言葉を口にする。

しかし、少年は何も言うことは無い、と言いたげに口を紡いでいる。


「本当に良いのかしら。」


なんとなく、心に残る物足りなさから少年に最終勧告を告げる。


「ああ、一つだけ。」


「何かしら。遺言かしら?」


少年にふと、違和感を感じる。


只の何の変哲も無い少年。

祝福をその体に宿したわけでもなければ、剣はおろか体術も使えない。

先ほどの戦闘を見ている限り、戦闘経験すらほぼ皆無だろう。


なのに、それらを差し引いても有り余るほどの何かを体に宿している。


そんな印象を急に抱いた。


「確認、だな。あの子、もう救えねえの?」


そう告げる少年の言葉には黒に僅かに残った白があるのを感じる。

それは難しそうに見えて実は簡単で私の出す答え如何で裏返ってしまう。


「もうじき、いや。すでに死んでいるでしょうね。」


「ああ、そうだよな。俺のせいだ。」


少年に残った最後の白が塗りつぶされるのを感じた。

糸が途切れたようにカクン、と少年の頭が垂れた。


“希望”なんてのは甘い毒だ。

希望があるから人々は死地に嬉々として踏み込むのだ。

自分たちの進む道の果てに“希望”があると信じさせることが出来れば

人を操るのは容易いこと。


彼女は仕事の上でこの感情を幾度となく利用してきた。


ある時は恋人の片方に毒薬をもう片方に飲ませた。

仲の良かった兄弟をバケモノに変えて依頼主の娯楽のために殺し合いをさせた。

命を望む婦人に命を授ける薬として、生殖機能を破壊する劇薬を飲ませた。


思い出してはキリが無いほど、“希望”という感情を使い、利用してきた。


今回も、そうしただけの事。

一旦、真っ新な絶望に染めてから都合のいいような希望を植え付ける。

その手順の初めに手を付けたまで。


「****、****。」


ふと、少年が口を開いた。

その声音が先ほどとは違うことに気が付き、後ろに飛びずさって距離を取る。


「何者なの?このお兄さんは。」


体を圧迫するような感覚は目の前の少年の存在そのものが危険だと毎秒毎秒訴えかける。

しかし、それでもなお。彼女は頬を吊り上げる。

恐怖で震える体で愉悦で塗り替える。


一度、身震いさせて目の前の少年と向き合った。


――逃げる?


「ふふ、そんなの、もったいないじゃない。」


恍惚の表情を浮かべてアズは少年に攻撃を仕掛けるべく、地面を蹴った。


――――――――――ピシッーーーーーーーーーーーーーーーー


何かがひび割れる音がして少年から飛び出した影は全てを飲み込んでいった。


「****、****。」


その声は誰も終わるだけの世界で悲しく響き渡った。

誰にも届くことは無いであろうその言葉は只、広がる地平線に呑まれていった。



四人目:

今回も今作を読んでいただき、ありがとうございます。



明日も投稿しますのでよろしくお願いします

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