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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
12/21

すれ違い

”認識の相違は人間関係をも壊す”

レイが店長に“あの子”の護衛を頼んだのは何も訳がないわけではない。


“あの子”を救う絶対条件の一つ、前のループで“あの子”を死に至らしめた元凶、

“お姉さん”の撃退だ。


襲ってこない、という可能性も無いわけではないが、目の前で事が起きた後だ。

それを頭から外すのは只の怠慢でしかない。


レイの見立てと経験で、“お姉さん”の標的となりうる人物を三人に絞った。


一人目は、自分自身。


お姉さんとの遭遇回数は二回とも。殺された経験もあることから、候補の一つとして

頭に置いておく。


二人目は、店長だ。


前のループで、“お姉さん”は店長を捜していたし、何より元王国騎士団長というビックな肩書付き、これはある意味お約束の過去の恨みとやらで復讐コースも十二分にあり得る。


そして三人目にして最重要候補、“あの子”だ。


“お姉さん”との遭遇確立が十割と圧倒的。

やけにシンプルな予測だが、一回目で道でぶつかったあの場面が妙な存在感で訴えかけてくるのだ。


他の客の誰か、という線も無いわけではないのだが、数が多すぎる上に“お姉さん”との接点が見つからない。こういう時は予め選択肢から一度消しておくのだ。


そんな条件から、レイが今回立てた作戦。それは、


店長と“あの子”に一度酒場を離れてもらう、という事だった。





「俺は君の味方だよ。」


体を滑らせて彼女と向き合う。


突然のお仲間発言に、驚きと戸惑いを隠しきれずに彼女の瞳が右往左往するが、

それもつかの間。すぐに真っすぐな眼差しが向けられる。


「要らないわ。」


「なっ、」


彼女は低く、酷く警戒した声でそう告げると、ローブの裾を引っ張って顔を隠してしまう。


「おいおい、なんで……」


まさかの行為に、反射的に彼女に手を伸ばす。


「触らないで。」


伸ばした手は、睨むようなその視線によって遮られ、止まる。

思いもよらぬ彼女の反目に出る言葉がない。

わなわなとした気持ちで黙っていると、長いため息とともに彼女が口を開いた。


「貴方、嘘をついてるわね。それに、何かを隠してもいる。目的は何?」


ドキッと心臓が跳ねる。

浅はかな考えの自分を後悔した。


――そりゃそうだ。赤の他人から急に何か渡されたら警戒するってもんだろ、クソッ何で考えなかった。


しかし、ここで引き下がってはせっかく取り付けた護衛の契約がご破算、

それに彼女が“お姉さんに”狙われる可能性は高いのだ。

引き下がることはできない。


――正直に話すしかない。


奥歯を強く噛みしめて、再度彼女に向き合った。


「違うんだ、俺は君が危ない目に遭わないようにって考えてホントそれだけだ。」


「仮にそれが本当だとしても、それを貴方がなぜ心配してくれるの?」


「それは……」


「ほら、やっぱり何か隠してる。」


冷たく、刺すような声。

それは、レイの知っている温かさに満ちた声のどれとも違って……


「敵だと、思ってんのか。」


「ええ、得体の知れない善意ほど受け取るとろくなことにはならないから。それに自分の身くらい、自分で守れるわ。」


レイの提案した護衛をきっぱりと断り、木樽のグラスに注がれた物を一気に飲み干した。


「エリさん、お話はまた後日。今日は向かない日みたい。」


「あ、ああ。また来な。」


席をせかせかと立ち、目の前で唖然とする店長にそう言い、酒場を出ていった。


「お兄さん、なんであんな提案をしたんだい?」


カラン、と鐘の音の余韻が消え去り、店長が頭を抱えるレイに問いを投げる。


「ああ、ここに来る前にちょっと特殊な趣味をお持ちのお姉さんが出没してるって小耳に挟んだんだよ。」


「それは物騒な話だねえ。でも私が聞きたいのは何であの子だってことだよ。」


その問いに言葉が詰まる。

レイはこの場で出せる正解の回答を持ち合わせていないのだから。

理由を話しても、頭がおかしいで一蹴されて終了。


――いや、待てよ。


ふと、頭に光明が刺した。


――“詰み直し”を説明してりゃ最初からこんなことにはならなかったんじゃねえの?


「ははっ、気が付くのが遅すぎるぜ。ホントにポンコツだな俺の頭は。」


セオリーに従い過ぎた。

タイムリープ系の能力は終盤でその能力が初めて周囲に認知されて初めて物語の味が増すというものだが、そんなこと知ったこっちゃない。


「エリさん、聞いてくれ。」


「なんだい?」


――言葉の信用度がこれだけで高くなるってんだったら言ってやるぜ。


「俺は、タイムリープをしてる。説明すると、同じ時間を何度も繰り返してるんだ。今は三回目だが、護衛してくれって頼んだ“あの子”に二回とも窮地を救ってもらったんだ。恩があるんだよ。そんな子の身に危険が迫ってるかもしれないんだ。だから、頼んだ。それだけだよ。」


そう、早口でまくし立てる。


タイムリープには口外禁止だとかいうことがよくあるが、

レイのはそれに当てはまらないらしい。


これで、上手く物事が運ぶ。


「詳しい説明は後でしっかりと。今はわけわかんないだろうけど、まずは、“あの子”を引き留めることが先決だ。ほら、早く行こうぜ。」


席を立ち、店長を急かす。

しかし、店長の表情はどこかおかしい。まるで、聞いてないかのように“あの子”が出ていったドアを見つめている。


その様子に嫌な予感が胸を過る。


――おいおい、マジかよ。


「えっと、エリさん?」


「なんだい?」


どうやら、杞憂だったようだ。


「早く追いかけようぜ。時間は有限、口より行動に出すことが問題解決の第一歩!」


ほっと胸を撫で下ろし、再度出口を指さして歩みを進める。


「ちょっと待ちな。あの子はお兄さんの提案を引き受けなかったんだ。これ以上追い掛けても無駄だと思うんだけどねえ。」


「いやいや、今さっき理由を説明しただろ?」


「待ちな!」


力を持ったその言葉に足を留められ、振り返る。

嫌な予感が、そのまま震える声になって現れる。


「理由、説明?そんなの聞いてないね。それに、あの子はお得意様の娘さんでねえ、私に取っちゃ只のお客さんじゃないんだ。何かちょっかいを出すつもりなら許さないよ?」


「ははっ、したよ説明。言ったろ?俺は同じ時間を何度も……」


繰り返してる、そう言いかけて異変に気付き、中断する。


さっきと同じ、店長の虚空を見つめるような視線がレイに注がれる。


「おいおい、マジかよ。」


「取り合えず、席に着きな。訳は聞いてやるから。行動に移すのはそれからだね。」


店長がトントン、と席を小突く。

酒場の視線が痛々しく注がれる。その言葉にやむなし、戻って腰を下ろした。


「で、どうしたって言うんだい?」


――くそっ、口外禁止ってわけかよ。どこまでも胸糞悪いなあの“影炎”め。


「いや待てよ、口外禁止ってんなら……」


「お兄さん、理由を聞こうってんだ。そんなぶつぶつと……」


「エリさん、紙と何か書くものあるか?」


「ああ、ここにあるが、何するんだい?」


そう言って腰ポケットから伝票を取り出すとレイに渡した。


「口でダメなら筆談で、だ。」


そう言って受け取った紙に手際よく人の絵と時計を書いていく。


――漢字やひらがなは恐らく通じないからな。でも、この見る人には分かる味には定評のある、雨宮玲画伯の実力をもってすれば!


「これを見てくれ!」


――まんまとルールに従ってたまるかよ。


「一体何だってんだい。」


ため息をつきながら受け取った店長はまじまじと紙を見つめる。


「な、これで判っただろ?俺がどういった状況に置かれてるか。」


「なにも、書いてないじゃないか。」


そう言って、訝しげな表情で紙を見せてくる店長。

そこには、何も書かれてはおらず、消した後も無い、真っ新な紙が目の前に突き出された。


「んな、馬鹿な。俺は確かに書いて……」


その言葉に表裏ひっくり返して見せる店長、一度長いため息をついてこういった。


「お兄さん、私をからかってるのかい?」


「そんなことねえよ、俺は確かに説明したし書きもして……」


「そんなこと、私は知らないね。見ても無いし聞いてもいない。もう私は行くよ、酒場の仕事がまだ残ってる。」


そう言って、背中を向ける店長。


「護衛の契約は……」


「お兄さん、今回は諦めて帰ってくれ。」


最後にそれだけ言うと、店長は酒場の喧騒に飲まれていった。


「くそっ!」


拳をテーブルに叩きつける。

その音に驚いて周辺の席の客がレイに視線を向けるが、関わりたくないと言いたげにすぐに視線を戻した。


「この盤面は、完全に“詰み”だな。」


目的の“あの子”には敵意を持たれ、店長には妄言者と思われただろう。

それかタチの悪いストーカー。


そんな状況に、“詰み直し”のことが頭にちらつく。


「いや、でも少しでも変えられたところはある、か。」


“あの子”の助力を受けずに店長から逃れたのだ。

もしかすると、未来が変わって“お姉さん”も現れずに万々歳、ってこともあるかもしれない。


「どうせ、自分で使えねえんだ。少し様子を見るのも手は悪くない。」


カラン、と酒場に鐘の音が鳴るが、考え事をしているレイには届かない。










それが、命取りとなった。


「何だ?」


ふと、音が消えた。いや、正確には人間の声が消えたのだ。

物が落ちる音だけが酒場に響き渡る。


「おい、どうしたよ。何で、みんな倒れちまってるんだ!!」


振り返り、手前に倒れている客に呼びかけるが応答は無い。

それどころか、今の酒場に立っている人間はレイだけ。


「いや……」


視界映るもう一人の人影。

それには見覚えがある。


「ここで、来るかよ。」


ドアの入り口に立っていたのは淡い黒のドレスを身に纏い妖艶に嗤う“お姉さん”がいた。



:四人目 ”詰み直し”は口外禁止、紙を使った説明も不可能。


今回も今作を読んでいただき、ありがとうございます。


覚悟を決めたレイだったが、認識の相違からせっかく取り次いだ護衛の約束まで撤回されてしまいます。

そして酒場に現れた”お姉さん”にレイはどうやって立ち向かうのか。

次回必見です!

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