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アイビーリライブ  作者: 誉 ロウ
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プロローグ 救いの喪失


”たった一つの願いと詰み重ねた未来”



夕暮れ時の大通り。

信号が青になった瞬間、皆一斉になだれ込んだ。


ドン、と混みあった横断歩道で彼と“それ”はぶつかった。


「あ、すいませ……」


反射的に振り返りそう謝るが、

ぶつかったその人の横顔は酷く粘ついた笑みを浮かべていた。


「ん?」


その様子に首をかしげながら足を進めようとした瞬間、目の前に水滴が零れ落ちた。


「なん……で、」


――ナイフが刺さってんの、


サーッと体から血の気が引いてゆく。

それに反してナイフが刺さった左胸から噴き出るように血が溢れ、真っ白だったカッターシャツを瞬く間に赤に染め、余った血がアスファルトに滴り落ちている。


自覚したからなのか、体はこの痛みを何とかしようと全神経を傷に集中させる。

しかし、致命的な傷を負ってしまった彼には途方もない痛みが注がれた。


「た」


助けて、と言おうとするが残りの言葉はこみあげてくるものによって遮られる。

それを手でせき止めるが、すぐに限界を超えて真っ赤な吐瀉物を盛大にぶちまける。


――やばい、やばい、やばい、やばい!


ふっと、体から力が抜けてそのまま前のめりに倒れる。

地面にナイフが押されて更に深くまで突き刺さる感覚が。

更に傷口が開き、勢いを増した血は水風船を割ったように地面を這って広がってゆく。


――この量はマジでやばい。


横になった視点で、アスファルトの黒も、白線部分の白も自分の血が飲み込んでゆく。

覆水盆に返らずとはまさにこのことだ。


人間の総体積は水が75%を占めるという。

それをほんの少し失うだけで人間は正常に動かなくなってしまうのに、

これだけ血を失えば死は免れないし、仮にそれが原因にならずとも、

心臓を刺されているのだ。助かる可能性はほぼ皆無だろう。


「きゃあああああ!!」 「お、おい。救急車!!」


倒れこみ、おびただしい量の血を垂れ流す彼にやっと状況が追いついたのか、

人々の叫び声が一挙に上がる。


眼前にいくつもの足が通り過ぎてゆく。


――あぁ、これ今日のニュースになっちまうな。


頭に回す分の血が足りなくなってきたのか、思考が霞んで、視界がぼやけ、色が混ざる。


アスファルト、白線、信号機、血、靴、自分の手、カバン、


目に見えるもの全てが歪んで、崩れて、溶けて、解けてゆく。


――何色になるんだろ、


とうに、痛みもわずかにしか感じなくなった頭でそう思った。


黒、白、赤黄緑、赤、茶、黄土、灰色。


それらは、子供が使うパレット上に置かれた絵の具のように無造作にかき混ぜられる。


グルグル、ぐるぐる、回って、廻って、混ざって、雑ざって。


訪れたのはただ、深く沈む“黒”だった。


何故か、すごく心地よく、ひどく落ち着くその色。


それは手足が感覚を失うと濃くなり、

鼻が血の匂いを忘れると深くなり、

やたらとうるさい喧騒を耳が拒絶すると、より一層暗さを増した。


――これが死ぬってことか。やっぱり天国も地獄も無かったな。


どちらかといえば無神論者だった自分の予想が当たり、誰かに自慢したいところだが、

考えれば恐らく自分はこれから死ぬのだ。誰かに話す以前の問題。

やけによく落ち着いているこの気分のせいでイマイチその実感が湧いてこない。


しかしまぁ、世界から色が失せたこの様はさながら映画の終わりに似ている。


――もっと絶望するもんだと思ってたけど、これはこれで楽でいい。


死は彼が想像していた以上に優しい救いがそこには有った。


次に進むにはどうすれば良いかが頭では分からずとも、体が理解している。

最後に残った機能、思考そのものを眠るように手放せばいい。


――ふわぁ


出るはずのない欠伸をして意識を眠りへと導く。


ゆっくり、ゆっくりと、存在が優しい手つきで蕩け解かれていく。

世界は黒を見せていた光さえ失って、何もかも無に帰して……


ピシッ、


それは、何かがひび割れる音。



そこに生じた亀裂から“それ”は入り込んできた。



“それ”は終わろうとしていた、アメミヤ レイ の存在を無数の影で飲み込んでいった。



:0人目:








初めまして、誉 ロウと申します。

今作「アイビーリライブ」を読んでいただきありがとうございます。

初めての執筆なので精いっぱい、張ります。

今作には時間軸が絡んできますので、矛盾点や誤字脱字など指摘いただけると嬉しいです。

ではまた、次話でお会いしましょう。

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