進路
「ね、ミキはさ、どうするの?進路」
「え?」
「進路だよ、進路。アイドル?」
アイリはいかにも愉快そうに笑った。
私達は高校三年生で、進路選択が遂に本格化してきた。
特に意味もなく文系クラスを選択したので、将来どうしようなんて二の次で、ショウライ、という言葉を聞く度に少し頭痛がした。
今日は丁度、三年生としての始業式で、進路希望表をまた、渡されたところだった。
「アイリはどうするの?」
「大学に行く!英文科とか!カッコイイから!」
「英語の成績いいんだっけ?」
ミキにそんなイメージはなかった。
「すこぶる悪いよ、そんなの」
「えぇ?なんでじゃあ...?」
「うるさい。私はね、英文科にいくの!そしたら、牧野がめっちゃキレてたわ」
牧野というのは私たちのクラスの担任の先生だ。
体育を教えていて、生活指導。脳が筋肉で出来てる。
「そりゃ牧野先生も怒るって...」
「ミキはさ、どうするの?」
アイリが急に真面目な顔をしてきた。
「んー...」
「去年まではさ、希望票にはなんて書いてたの?」
「進学だけど...」
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「白紙で出されちゃ困るよ」
目の前に、白紙の進路希望票。
「おい、黙ってちゃわかんないぞ。どんな事を思って白紙で出したんだ?」
私はただ、空欄の希望票を見つめる。
「聞こえてるか?お前の、とても重要なことなんだぞ。」
窓から校庭が見える。ソフトテニス部の、テニスボールが綺麗な放物線を描いてるのが見える。
「おい!わかってるのか!大人になるんだぞ!」
大人...。
それって、ならなきゃいけないですか?
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「進学か!私と一緒だ!ま、ミキ頭いいもんね!」
夕暮れ時の通学路に戻る。
もう通い慣れた道。
2年も通っている道。
来年も再来年も、ずっと高校生でいたいのに。
「なに系にいくの?法学部とか?」
「ううん」
「じゃあ、経済学部だ!」
「ううん」
「教育学部とか?」
「ううん」
「じゃ、私と一緒に文学部?」
「....、」
「?」
アイリが首を傾げる。
「...それも、いいかな」
アイリの顔が、ぱあっと明るくなった。
「いいね!それ!最高!一緒の大学行こうよ!」
「悪く、ないかも」
「でしょでしょ!」
「もう、目星はついてるの?」
「ううん!まだ!」
アイリの、屈託のない、純粋な笑顔が二カーッと光る。
この輝かしい笑顔に、私は弱い。