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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
誘われて~遊園地~
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第二章:2 危なげな観覧車?

「さて、まずはどれに乗ろうか」

 駅から遊園地までのレースも無事に終了し(ちなみに結果は一位天笠さん、以下桐垣、坂上さん、東、俺、龍鵺の順)、そのレースのお陰で(と言うべきなのだろうか?)見事に開園十五分前に俺達は入場口まで着いた。入場口にはまだ人はまばらで、俺達のような高校生のグループや親子連れ、若いカップルの群れが何組かあっただけだった。その内の何組かはチケットを買うために券売所に並んでいたが、俺達は事前からフリーパスを持っていたので、券売所には行かずそのまま入場ゲート前に並んだ。そして待つこと約十分、いよいよ入場口が開門。俺達はそれに伴い入場して、すぐ近くにあった広場で会議を開催し、これからの計画を練っているところ。

「やっぱまず絶叫系でしょ」

「いや、ここは渋くコーヒーカップで――」

 というわけで今現在己が乗りたいアトラクションをあれやこれやと言い合っている。俺は傍観者ならぬ観覧者を気取ってその様子を一歩引いた所から見ている。やれやれ、人間のエゴというのはかくも卑しきものだな。

「功司君はなにか乗りたいのないの?」

「ん、俺?」

 そんな会議から東が一旦顔を外して、俺の意見を求めてきた。おお東よ、この俺までもをエゴの飛び交う渦中に巻き込もうと言うのか。やめるんだ、俺はまだ汚れたくない――と、いつもなら言うところだが、今日今この時にそんな発言をするのは無粋というもの。ここは俺も自らのエゴ振りかざすことにする。

「ああ、俺は――」

「功司君も私と一緒で観覧車がいいって〜」

 は?

 東は俺の返事など待たず聞かずで会議中の面々に振り向き、そう言う。

「功司君もだ遊園地で最初に乗るのは観覧車が常識だ〜って今熱く語ってくれたよ」

 ちょっと待て、それはどこの世界の常識なんだ。そもそも俺は観覧者気取りではあったが観覧車がいいとか一言も――

「む……ならば観覧車二票、ゴーカート一票、メリーゴーランド一票、ジェットコースター一票、コーヒーカップ一票で観覧車に決定か……」

 会議において司会役だった桐垣は、それを中止させ、残念そうに言う。ていうか票バラけすぎだろ。さっきの満場一致の意思は一体何だったんだ?

「なら最初は観覧車に乗るしかないな」

 って今はそんな事を考えている場合じゃない。現在の最重要ポイントは、なんか俺の意思が東によって勝手に決められて、尚且つ観覧車に乗るという方向に話が進んでる事だ。俺、実は観覧車とかなんか落ちそうで怖いと感じてるんだ。だからなるべく避けたかったのに……なんでよりにもよって最初からなんだ!?

「ちょっと待ってくれ、俺は観覧車に乗りたいなんて一言も――」

「さ、功司君。あっちに観覧車があるみたいだよ」

 再び俺の発言を遮り、東は俺の腕を掴んでぐいぐいと引っ張ってゆく。引き剥がそうと抵抗してみたが、掴まれている所の感覚が無くなるほど強く掴まれているため効果なし。つかこいつの細腕のどこにこんな力が!?

「まったく、気の早い奴らだ」

 そんな誘拐犯に連れ去られる子供の気分な俺の事なんか気にも留めず、東の後についてくる愛すべきクラスメート達。

 引きずられていく最中、一つだけ分かったこと。それは、会議が始まってからの東の一連の行動はすべて計算の上で、俺は気を使われたように見えてまんまと利用された、ということ。畜生、人間って汚い……!!

  

 

 引きずられること約三分、俺達一行は観覧車の前に到着した。

「さて、それじゃあ早速――」

「待たれぃ東殿!!」

 到着してやっと俺の腕を放してくれた東が(あ、ちょっとあざになってる……)観覧車へと足を踏み出したのを、何故か語調が古風な龍鵺が立ちはだかって止める。

「なに?」

 いきなり目の前に現れた龍鵺に少したじろぎながら何事かと尋ねる東。

「諸君、この観覧車のゴンドラを見てもらおう。そう、どこからどう見ても最大4人用の大きさだろう? ということは、人数が四、二に別れてしまう事は必須!」龍鵺はゴンドラを指差し、そして再び俺達へと向き直り言葉を紡ぐ。「そんな事になったら二人で乗ったやつらが色んな意味でおかしな空気になる事間違いなし!」

 うん。ただでさえ観覧車は辛いっていうのに、さらに龍鵺と二人っきりっていうのはかなりキツイな。是非とも避けたい。

「……で、だからどうした?」

 龍鵺はさらに変なポーズまでキメて、こちらをビシッと指さす。

「なればこそ!! 俺が事前に作って持って来たこのクジにてペアを決め、それに二人づつ乗れば問題解決!!」

 熱く語る奴の手にはどこから出したのか、先端に1〜3の数字が書かれた木の棒六本が握られていた。用意周到なことで――ていうか。

「結局二人っきりになるんじゃないか」

「大丈夫! 赤信号、みんなで渡れば怖くない!!」

 用法が激しく間違っていると思うのは俺だけか?

 それはさておき、大体龍鵺の企みが見えてきたぞ。単純思考な奴のことだ。恐らくこの機会に女の子と一緒になってあわよくば――みたいな発想だろう。

「皆にはこのクジを順番に引いてもらい、全員に行き渡ったところで一斉に結果を見てもらう。そして同じ番号の人とペアでアトラクションに乗ってもらう。これは一つのアトラクションごとに引いてもらうからな。なお、一度決めた事は覆せない。それを念頭に置いてもらおう!」

 なおテンション高くそう提唱する。……なんかこの意見はすでに可決されたものとして話が進められているのだが、皆さんの反応は?

「任せる」(桐垣)

「どちらでも」(坂上さん)

「いいよ〜」(東)

「構わないわ」(天笠さん)

 ということは、俺がどう反応しようとこの意見は可決のようだ。ならばこの状況に流されるとするか。

「それじゃあみなさんこのクジを……」

 龍鵺は木の棒の数字の書かれた方を握って俺達の方へ差し出す。

「じゃあ私から」

 それを天笠さんが一本引き抜く。続いて、桐垣、坂上さん、東、俺とレースの順位通りの順番でクジを引いていく。

「それでは、この観覧車の同乗者は――!!」

 そして、全員にクジが渡ったところで、龍鵺の一声。一同、クジに書かれた数字を確認する。さて、俺の相手は――

 

 

 ビュオ――

 俺達が乗り込んだゴンドラは、ゆっくりと高い位置まで上っていく。それに伴って景色もだんだんと高くなっていき、それに比例して俺の足元も冷えていく。そして、今は園内全体とはいわず、辰見沢駅までが見渡せる。ここから見える風景は遊園地のそこかしこに植えられた草花や、いろんな所に生えている桜の木などの春の鮮やかな彩りに溢れていて、見ているだけで心が和むような、そんな素晴らしいものだった。

 だって言うのに。

 ヒュオ――

 なんでこんなに空気が重く、風の音だけが響く虚しい雰囲気がこのゴンドラの中には溢れているんだ?

 考えられる原因その1:俺が一言も喋らないから。

 考えられる原因その2:加えて同乗者が龍鵺だから。

「…………」

「…………」

 果たしてどちらが主な原因だろうか?

 龍鵺はクジの組み合わせが決まってからずっと黙ったまま。そして俺もゴンドラに乗り込んでからずっと黙ったまま。……結局二人ともが主な原因だな。

「功司」

「ん? なんだ?」

 不意に、今まで黙りっぱなしだった龍鵺が口を開く。

「俺はな――」

 龍鵺は一旦そこで言葉を切る。うつむいたまましばらくの沈黙。そして、俺の目をしっかりと見据えて、

「俺はな、女の子と二人っきりになるためにこの案を、ここに来ると決まった時から考えていたんだ」

 だろうと思ってたよ。お前なら絶対そうだよな。

 龍鵺は一度大きく息を吸って、吐く。

「なのに、」若干の溜め。「なのに、なんでお前なんかと一緒にならなきゃいけないんだ――――!!!」

 そして、俺の襟首を掴みに詰め寄って来る――って待て! お前、そんな激しい動きをすると――!!

 ――グラグラガクガク――

 予想通り龍鵺の動きに合わせて激しく揺れるゴンドラ。ちなみに現在のゴンドラの位置はちょうど頂上付近。これから下りに入るという俺的に一番怖いところ。

「ちょ――落ち着け龍鵺!!」

「なんでお前なんかと、お前なんかとぉぉぉぉ――――!!!」

 眼前まで迫られた龍鵺に襟首を掴まれ、ガクガクと前後に揺さぶられる。ゴンドラの揺れ具合と合わさって、俺、超パニック。

「ま、まじで落ち着いてください!!」

「うるさい黙れぇぇ!! お前なんかに、お前なんかにぃぃぃ!!」

「ちょ、まじ、やめ――」

 うあぁゴンドラがヤバいくらいに揺れる揺れる。あははーなんかもう俺大ピンチぃ〜。

「クソ―――!! なんで浬亜ちゃんでもなく天笠さんでもなく坂上さんでもなくお前となんだぁぁ!!!」

 あ、ヤバい。俺の平静を保つための機関にコンディションレッド発令。総員第1戦闘配備〜敵は目前ぞ〜……

 ――グワングワァン――ぷち

 あ、揺れる音が変わった――のと同時に俺の理性が――

「なんでなんだぁぁぁ!!」

「俺だって……」最早冷静になれない、ぼんやりと霞みかかった頭で龍鵺の襟首を掴む。「お前なんかと同乗したくなかったわ〜〜」

 そしてガクガクと前後に激しく揺さぶる。

「あははは〜〜〜もうどうにでもなれ〜〜〜(笑)」

「こ〜う〜じ〜!!」「た〜つ〜や〜」

 ゴンドラの揺れは激しくなる一方だったが、今の俺には関係なかった。

 

「……なんか、功司君のゴンドラ、すごく揺れてない?」

「ふむ、確かに」

 ところ変わって、功司たちのひとつ前の、桐垣秀智と東浬亜の乗っているゴンドラ。こちらはなんの滞りもなく平和に外の風景を眺めながら、他愛のない話をして、のんびりと観覧車本来の楽しみ方を満喫していた。

 だがこのゴンドラも頂上付近に近付いた時、会話の方向がおかしくなっていく。

「なんであんなに激しく揺れてるんだろ……」

 と、そこで浬亜の脳内にイケない考えが浮かんだ。

(まさか――

 

 ――ゴンドラの中には静寂が流れている。それは乗っている二人ともが黙っているから。だけど、ただ黙っているだけじゃなくて、お互いがお互い共に、何かを気にしているような、なんとも言えない空気が二人を包んでいる。ゴンドラは静かに頂上付近にまでさしかかる。そこで、不意に静寂が破られる。

『やっと二人っきりになれたな……功司……』(氷室君)

『ああ……そうだな』(功司君)

 二人はそう言い合って互いの目をしっかりと見据えて、

『ここなら誰にも邪魔はされないね……』(氷室君)

 そう言って功司君に詰め寄っていって、

『ちょっと待ってくれ。こんなところで、か?』(功司君)

 なんて言ってちょっと恥ずかしがる功司君を、

『いいじゃないか……別に誰も見てないんだし……。それに、俺、もう我慢の限界なんだよ……』(氷室君)

 とか言ってシャツにボタンに手をかけて、

『……俺だってもう我慢なんかできないさ……』(功司君)

 で、もう冷静にはいられなくなった功司君も氷室君に詰め寄っていって、

『功司……』『龍鵺……』

 お互いのよ、よよよ、洋服を――!!?)

 

「な、な〜んて事ないよね」

 そこまで想像して、妄想という名の幻想から帰還した浬亜は渇いた笑いでその幻想を振り払った――までは良かったのだが……

「まぁ多分、どちらかのリミッターがはずれたのだろう」

「っええ!?!?」

 秀智の一言でまた妄想の魔の手に捕まり、

(り、り、リミッターって……が、我慢の事……!? じゃ、じゃあじゃあ、あのゴンドラの揺れはやっぱり――)

「き、桐垣君!!」

「? どうした、声を裏返らせたりして」

「あ、あああの、やっぱり、氷室君は、(功司君と)二人っきりになる事を狙ってクジなんかやったのかな!?」

「ああ、あいつの性格上、(女の子と)二人っきりになる為に遊園地行きが決定した時から画策していたのだろう」

 やがて堕ちていった。

「じゃ、じゃあ……あのゴンドラの揺れとか、功司君はやっぱり……」

 ぽわわ〜ん、と再び、今度は遙か深淵の幻想の海にダイヴする浬亜。

 と、その前に一つの懸案事項が脳内に浮かぶ。浬亜はそれを失礼かな、と思いながらも秀智に思い切って質問してみることにした。

「あ、あの、桐垣君も、その、そういう(功司君とか氷室君みたいな)気持ちになる事って……あるの?」

 いきなりの質問に、対する秀智は若干照れながら答える。

「ん、まぁそういう(女の子と二人っきりになりたい)気持ちになる事もあるな。たまにだが、な」

「そ、そっかぁ……じゃああの揺れも全て理解の上なんだね……」

 浬亜はもう驚くことはなく、すべての情報を幻想へのオプションに変えてしまえる状態になっていた。もう恐れるものは何もない。いざ行かん、妄想という名の世界へ。

 と、そんな浬亜の意識を秀智が引き留める。

「まぁ二人は普段からそういう仲(よく二人して言い合っている仲)だからな」

「……普段、から……」

「? ああ、普段からだ。だからと言って仲が悪いわけじゃないんだがな。ただ単に矢城が突っ張っているというか、氷室がやられ役というか……」

「功司君がツンデレで……氷室君が受け専……」

 幻想にオプション追加。

「多少おかしいかもしれんが、二人とも悪い奴じゃないんだ。その辺は分かってやってくれ」

「……うん。愛には色んな形があってもいいよね……」

(先ほどから何を言っているんだ、東さんは……?)

 一度深く考えようとした秀智だが、どうせわからないだろうから考えるのをやめた。

 一方、ぽや〜っと顔をほんのり上気させ、若干鼻血が出ている浬亜の幻想は深まっていくばかりであった。

 

 さらにもう一方――

 

「いい景色ね」

「ああそうだな」

 功司達の後ろのゴンドラに乗りこんだ、坂上薫と天笠楓は口数少なく景色に見入っていた。


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