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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
初めまして
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第一章:2 初めまして?

「初めまして。(あずま) 浬亜(りあ)です」

 教卓の横に立っている少女はそう言った。そして同時に男子から微かなどよめきが発せられた。

 無理もないだろう。教卓の横に立っている少女――東浬亜の容姿は美少女と言ってもどこからも文句がこないであろう程可愛いのだ。身長は大体百五十後半、少し茶色の混じっている見るからにサラサラそうな髪はうなじの辺りまでのびていて、前髪は真ん中で少し分けてある。くせっ毛なのか、二本ほど触角のように飛び出ている前髪が、少し頭を下げた拍子にフワフワと揺れていた。猫でなくてもじゃれつきたくなりそうな感じに。更に歳より少し幼く見える顔に似合わないなかなかナイスなバディだった(何がナイスなのかは想像にお任せする)。そして、その姿は、俺の記憶にある人物とほとんどが一致している。

「さて、君の席だが……」そう言った室見先生の挙動を、教室中の男子が注目した(俺を除いて)。「そこに決定」

 室見先生が指を指した先に、男子(俺以外)の視線が集まった。

 その場所は、教卓の前の机。俺は机についていた肘が滑り、軽くズッコケた。

 またそこかい! お決まりなのかこれ!? ていうかいつそこに空席が!?

 何故なんだーと頭を抱えている間にも、世界は俺を残して進んで行く。

「え、えっとぉ……」

 美少女転校生、東浬亜は困ったように笑った。そして、何故か俺の方を一瞬見た。色々とツッコミたい事があったがタイミングが掴めず、事の次第を見てその機会を伺っていた俺は、そんな彼女としっかり目があってしまった。そしてそれを室見先生は見逃さなかったようだ。

「ほほぅ……フム。なるほどなるほど」

 先生は顎に手を当てて、何か納得したように二、三度頷き、ニヤリと笑った。……とてつもなく嫌な予感がする。

「さて、冗談は置いておいて、本当の席を決めるぞ」

 にわかに沸く男子(しつこいようだが俺以外)。

「君の席は…………」

 しっかりたっぷりと勿体ぶらせて、

「そこだー!」

 何故だか生き生きと室見先生が指した席は……俺の隣。ハイ予感的中。

 クラスの男子から嫉妬やら羨望、約一名より殺気を感じた。予想通りに。

「というわけで決定。坂本、机頼むな」

 室見先生に呼ばれた坂本は、無言のまま頷くと、教室を出ていった。

 何故教卓の前の席は空いていて他の席は空いていないんだ? 俺の時と違って……。ていうかその空いてる席使えよ。

 後日友人に聞いた話だと空席は常備で、俺の時に片づけていたのは俺に罪悪感を感じさせるためだったらしい。……室見先生のクラスに三ヵ月くらいいたけど全く気付かなかった。

 それはいい(あまり良くないけど)として、あの男共の血に飢えた視線をどうすればいいのだろうか。誰か教えてくれ、大至急。

 そんな事を考えながらふと東を見ると、心なしか嬉しそうに笑っていた。

 ――男子からの嫉妬やら羨望+三十%(当社比)。

 そんな気がして、俺が明日からの学園生活ついてに真剣に悩んでいると、また東と目があった。その表情はどことなく寂しそうで、その姿からは『私が隣だと、嫌なのかな……』と、そういう感じの雰囲気がひしひしと感じられた。

 ハッキリ言って、嫌なわけがない。あんな美少女が隣の席なら、なにかと休みがちなこの創造主だって毎日学園に来たくなるだろう。むしろ俺の心の中の正直な部分はヒヤッフゥーとどこぞのヒゲオヤジ(赤)のような奇声を上げて喜んでいる。だが、俺の動物的な直感は危険信号をだしまくっている。それに、本当にあいつだとしたら……。

 きっと寂しそうな雰囲気が感じられたのは、俺がそのこと(+明日からの学園生活について)で難しい顔をして悩んでいたせいだろう。

 いたいけな少女を心配させるのは心外なので、俺は似合わないと知っていながら軽く笑って手をヒラヒラとふった。すると東はこちらまでホッとしそうな微笑みを浮かべた。

 ――男子からの嫉妬+羨望の五十%が殺意に変換(当社比)。

 今日からの教訓:新月の夜には背後に気を付けよう。

 ガラガラ―――

 そんな事を考えていると、無言のまま坂本が帰ってきた。机を抱えて。

「おうご苦労さん。矢城の隣に置いてくれ」

 悶々と考えているうちに、いつの間にかに隣の桐垣が机一つ分遠くにいた。そしてこちらを見てニヤニヤしている。ちくしょう……あいつが憎い……。

 桐垣を睨んでいると、その間を割って坂本が机を置いた。そして、東がその席に座って、こちらを見て微笑んだ。

「久しぶり……だね。功司君」

「あ……ああ」

(久しぶりってことは……やっぱりあの東浬亜、か。やっぱり奇跡の同姓同名そっくりさんじゃなかったか……)

 およそ四年のブランクを感じさせない東に対し、俺は曖昧に返事をした。

 そのまま無言で固まること二秒弱、

「そろそろいいかい? お二人さん」

「ハッ!?」

 また自分の状況を見直して赤面する俺。客観的にこれ見つめ合ってんのと一緒じゃん!

 ちなみに俺の周りの状況で先程と違うことは、東がコロコロと笑っているのと、俺に降りかかってくる笑いの半分が殺意に変わったことだった。

 

 

「じゃあ、あとは校長先生のありがたい話を聞いてくれ。ありがた過ぎて眠るなよ」

 室見先生はそう言って教卓の席に座って、机に突っ伏した。……いやもういつもの事なので誰も突っ込まないよ?

 ちなみにうちの学園は朝礼などは各クラスに設置されたテレビを使って放送される。それを自分の席に着いて見るだけなので貧血を起こして倒れる奴は誰もいない。代わりに真面目に聞こうとする奴もそうはいない。

 というわけでいつも通りぼんやりと校長先生のありがたい話を聞き流して……っと、そうだ、どんな人がクラスメートになったのか見てみるか。

 教室内を首だけ動かして見回すと、真面目にテレビの方を見ているか、机に突っ伏しているかの生徒達(当然俺は後者)がいる。さて、知ってる顔は……やっぱり少ないな。

 まだ転校してきて三ヶ月くらいしか経っていない+部活には入っていない俺は、同じクラスだったの人ぐらいの顔しか知らない(このクラスだと、桐垣、哉人、龍鵺、坂本、天笠さん、向埜、市橋、松田さん)。

 こんなもんかな、ともう一度教室内を見回して――

「あっ……」「えっ?」

 東と目が合った。そういや隣は東になったんだよな。つか何故こっちを見ている。校長先生は前のテレビの中ぞよ。

 そして見つめ合うこと五秒程。

「……ねぇ功司君」

「え……あ……ああ。何?」

「お願いがあるんだけど……いい?」

「え〜と、何?」

 先を促し、東の声に耳を傾ける。校長の話はまだ続いている。

「後で、学園の案内をしてほしいの。色々話したい事もあるし、ね」

 どこか甘えるような声でそう言う東。校長のありがたい話は終わる兆しを見せない。

「ああ、いいよ。別に」

「うん。ありがとう」

 そう言うと東はフワリと笑った。

「あ……ああ、うん……」

 その時、俺の感覚から校長先生のありがたい話が消えてなくなった。ただ、ぼーっと東の笑顔に見入っていた。おかしいな。俺の記憶の中のこいつは、こんなに可愛いものではなかったのに……。俺も花も恥じらうお年頃なのか?

 そんな思考をしていたからか、不覚にも桐垣がニヤリと笑った事に俺は気付かなかった。

 

 

「さて、今日は特にやることもないからこれにて解散。気をつけて帰るように」

 ただただ校長の話を聞き、また新学期新学年だからより気を引き締め学園生活を云々とやかましく言う生活指導の先生の話を聞いただけのホームルームも終わり、室見先生のその一言で、生徒達は自由になった。そしてその直後に俺と東の周りに殺到する人、人、人。質問攻めされる東と――

「功司ィィ!! 貴様、浬亜ちゃんとはどういう関係なんだァァァ!!!」

 尋問される俺。つか襟首掴むな。苦しい。

「いや、どうもこうも単なる昔の知り合いなだけで……」

「嘘をつけェェェ!! じゃあなんであんなに親しそうに見つめあったり話したり見つめあったりするんだァァァ!!!」

 あぁもう本当にコイツはうるさいなぁ。

 今俺に積極的に尋問しているのは悪友の氷室 龍鵺ひむろたつや。先程真っ先に俺に殺気を贈って来た奴だ。コイツはモテないくせに女好きの報われない男で、モテない原因は軟弱な性格、ひ弱そうな容姿その他諸々。ゲームの世界、自分の空間(妄想)の中のみでは恋愛の上級者であるその姿はある意味『漢』らしい。

 このように、何故だか知らないが、俺の周りは悪友が多い。これも主人公に課せらせた逆らえない設定……もとい試練なのか?

 話を戻そう。

「だからそれはただ単に東が人見知りする性格なだけであってそれに昔ったって小学生の頃に家が近くてよく遊んだ位だし中学生になる時に俺は引っ越したからそれ以来会ってないし――」

「功司、ちょっといいかい?」

 急に冷静な口調になって俺の言葉を遮る龍鵺。何だよ。

 笑顔をヒクつかせながら、龍鵺はこう言った。

「世間一般ではそれを幼馴染みと言うと思うんだけどさぁ」

「えっ? いやまぁ……確かにそう言えなくもないかな……」

 龍鵺の顔に、何やら十文字の青筋が浮かんだ。笑顔のままで。

「――よし、堕とす」

「は? 堕とすってどこに――」

「そんなの決まってるだろう?」

 龍鵺は笑顔を浮かべ、段々と襟首を掴む力を強めていく。それは初めてみるような爽やかな微笑。

「ちょ――やめッ……ぐ、苦じぃ……」

 龍鵺の手を叩いて振りほどこうとするが、この圧倒的不利な状況では効果無し。

「さぁ堕ちろ!! 地獄にぃぃぃ!!」

(あ、ヤバいマジで堕ちる…)。

 俺が本気でヤバいと思いかけた時、天使は舞い降りてきた。

「あ、あの〜……」

 いつの間にかに質問攻めから解放された東が、こちらを向いて申し訳なさそうに話しかけてきた。

「何だい? 何か用かい? 浬亜ちゃ〜ん♪」

 その声を聞いた龍鵺は俺から即座に手を放し、今にも東に抱きつきそうな勢いでは振り返った。そして当たり前の様に彼女の手をとる。今しがた俺の命を摘み取ろうとした微笑とは程遠い、とてつもなく緩みきったニヤニヤ顔で。

「ゴホッゲホッ……――ッ……」

 一方のやっと解放された俺は激しく咳き込む。あ〜死ぬかと思った……。

「浬亜ちゃん、だよね。何処から来たの? 彼氏いる? 電話番号は? 家はどの辺? アイツとはどういう関係?」

「え、えっと……」

 いきなり手をとられ、また矢継ぎ早やに質問攻めにあい、明らかに戸惑っている東。だが、そんな事を気にする龍鵺ではない。こいつは勇猛果敢――というか猪突猛進に質問を投げかける。

「この辺の事はあんまり知らないよね。何なら不肖、この氷室 龍鵺がご案内を――」

「えと、それはもう功司君にお願いしたから……その……ごめんなさい」

『グサッ』っと。

 龍鵺に見えない何かが刺さったような気がした。

「やっぱり、君は生かしておけない存在のようだね矢城功司……!!」

 そして、こちらをありとあらゆる負の感情をこめた目で睨んでくる。……よく見ると、俺の周りに同じ様にいい感じに飢えた狼共がたくさんいた。きっと龍鵺と同じ事を言って同じ事を言われたんだろう。

 ともあれ、これ以上ここにいると命が危ないと俺の直感が感じたため、戦略的撤退をすることにした。

「ほ、ほら東。陽が暮れる前にさっさと行こう」

「あっ……」

 東の手をとって、教室を出ていこうとし――

(ハッ!? し……しまった……)

 自分が咄嗟にとった行動の愚かさに気が付いた。

 この状況、端から見れば多少無理矢理東を連れだそうとしているわけで当の東は嫌がるどころか微かに頬を赤らめているわけで当然この二人を見ている飢えた狼共は

「グルルル!!」

 半野生化しているわけで。

「…………」

 俺は明日からの生活が平穏なものにはならないであろうことを感じたが、ひとまず脱出を優先した。

 東は俺に手をとられたまま一緒に教室を出る直前に飢えた狼共にペコリと軽く頭を下げる。

 俺は心の底から思った。これで少しは大人しくなってくれるといいんだけど、と。

 そんな淡い期待を胸に、俺達は教室を出た。というか俺が東を連れ出した。


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