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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
五月二十二日水曜日の出来事
16/31

第三章:3 平和なお昼休み

「功司君、お弁当食べよ」

 化学の実験の混乱も中村先生のやる気なさげな言葉で収拾され、四時間目の体育(男女混同ドッジボール)においては坂上の味方がアウトになるたび発動する『体を通して出るナニカ』的な能力で勝ち上がった。そんな楽しい体育も終わり、現在昼休み。という訳で、待望のお弁当タイムである。

 そして、いつもの様に東が俺の席までやってきてそう言う。

「フフフ……幼馴染みな女のコと二人っきりでお弁当タイムなんて、神が赦そうと俺は赦さん」

 続いて龍鵺がやって来る。

「ではその三角関係に新たなる勢力を加えよう」

 でこれが桐垣。

「……別に、一緒に食べてあげない事もないわでも勘違いしないでね別に私はあなたの半径1メートル内で同じ空気を吸っていたい訳じゃないから」

 この微妙な言い回しが天笠。

「失礼」

 この短い言葉は坂上。

 と、そんなこんなでいつも通りに何故か俺の周りに集まって、俺は何も言ってないのに周辺の机をくっつけて各々の弁当を広げるディアフレンズ。ていうか何でいつも俺の机? 位置的に桐垣の席が一番中心じゃん。

「どうかしたの、功司君?」

「……いや別に」

 まぁいいんだけどね。むしろ嬉しいし。たまに煩わしいけど。

「……ツンデレね」

「は?」

「あなたの性格」

 と、天笠に何故かツンデレの烙印を押されてしまう。

「いや俺のどこがツンデレ?」

「微妙な事で可愛く意地を張るところと本心を隠すところ」

「あー分かるかも」

 そんな天笠の俺ツンデレ説に賛同する東。

「いや全然分からないんだけど」

「そう。なら今度、クラスでアンケート取りましょう」

「いや是非とも遠慮したいんですけど」

 何その新手のイジメ。

「ツンデレかどうかは置いておいて、確かに矢城は素直じゃないな」

「確かに。理亜ちゃんみたいな可愛い幼馴染みがいるのに全然嬉しそうじゃないところとかな」

「はぁ……」

 そんな桐垣と龍鵺の言葉にどう反応していいか分からない俺。

「で、実際どうなんだ、矢城」

「何が?」

 桐垣の質問に質問で返しながら弁当箱を開く。お、今日は鶏の唐揚げがある。

「東さんの事だ」

「東がどうしたって?」

 目の前に東がいるんだから東に聞けばいいじゃないか。ってこのドライカレージャマイカ風味、タッパーから漏れてんじゃん。うわーどうりでさっきからカレー臭がすると思った。

「お前が東さんを可愛いと思ってるかどうかだ」

「……はっ?」

 と、バックの中に少し漏れていたドライカレージャマイカ風味の処理をしていたら、そんなキラーパス的地雷的な言葉が。

「ああ確かにそれは気になる事項だな」

「え……いや……」

 その流れにすかさず乗り込み、俺の方に顔を向ける坂上。対する俺はどうすればいいのか分からず口ごもる。ていうか本人いる前でそんな事聞くなよ。

「で、どうなんだ実際。もし可愛くないなんて言うようなら俺はお前を斬る。可愛いと言うようならお前を潰す」

「……あー……」

 どうすりゃいいんだよ。どう答えても俺が散々な目に遭うこと請け合いじゃないか。

 俺は思考を中断して、チラ〜と東を見てみる。

「…………」

「――――」

 ……言葉に詰まった。

 東はうつ向き加減で上目遣いに、そして少し不安そうな表情で俺の方をチラチラと窺っていたようで、俺と目が合うとものすごい勢いで顔ごと目を逸らした。

「……なんていうか」

 ……やっぱり可愛い、よな……いや別にこれは客観的世間的に東の容姿やら仕草やらを検討した結果であって決して私心は交えていない順当にて純正で正確な多角度からの感想であるから俺個人の意思は微塵もとは言わずともほんの少し猫の額というかミジンコくらいの等身大はあるとは完全否定できないけどとりあえず東は可愛いということで。

「いやほら、本人の前でそういう話題は……」

 なんて長ったらしい言い訳含む承認など言えるわけもなく、俺は無難にヘタレに安全な道に逃げ込むことにする。

「意気地無し」(天笠)

「ヘタレだな」(桐垣)

「主役失格」(坂上)

「もう俺が主人公になるべきだな」(龍鵺)

 結果、散々な言葉を投げつけられる俺。ていうかなんの罰ゲームだよこれ。

「…………」

 一方の東は、安心したような少し残念そうな表情をしている。……そういう顔も可愛いんだけど、やっぱり笑ってる時とか安心した表情とかのが好きだな。

「……ツンデレ」

「はい?」

 そんな決して人前では言えない感想を胸に抱いていると、またもや天笠にツンデレ疑惑をかけられる。

「素直じゃないのね」

「…………」

 もう放っておいて下さい。あとアナタ、俺の思考読めてないですか?

「気のせい」

 果たして気のせいで済ませていいのだろうか、この疑問を……?

 とか思わなくもないけれど一先ずは気にしない事にして、俺はバックに漏れたドライカレージャマイカ風味の処理に専念した。


「そういえばさ、みんな弁当ってどうしてる?」

 ドライカレージャマイカ風味の処理も終了し、ようやく俺が弁当にありつけた頃、龍鵺がそんな話題をみんなに振ってきた。

「どうしてるって?」

「いや自分で用意してる娘ってポイント高いなと思いまして」

 つまり自分で作ってきたのか親が作ってくれたのか、という事を聞きたいんだな。

「という訳でまず理亜ちゃんいってみよー!」

 何故かハツラツしだした龍鵺は行儀良く弁当を食べていた東に質問の矛先を向けた。

「えっ、私? 私は一応、手作りだけど……」

「グッド!!」

 東の答えを聞いた龍鵺はそう叫んでグッと親指を立てる。

「あれ、お前の弁当って自分で作ってたんだ」

 今時の高校生にしては珍しい――というかよくそんな時間があるな。それでいて家の前で俺を待つ余裕があるとは。

「まぁいつもじゃないけどね。気がつくとお父さんが作ってたりする事もあるし……」

 と、どこか遠い目をする東。

「…………」

 なんとなく、俺は東の遠い目の先に映っているだろう人物が分かる。きっと自分の父親の姿だろう。しかもエプロンなんか装着して鼻歌混じりの上機嫌で台所に立つ姿を。……おじさん、めちゃくちゃ親バカだもんなぁ……。もう十年近く前に会ったっきりだけど、会う度「理亜が理亜で理亜を理亜なんだ」とか理亜ってずっと言ってた気がする。

 ふと、遠い目をしていた東と目が合う。

「…………」

 とりあえず目だけで『お前も大変だな』と伝える。

「…………」

 すると、『もう慣れたから』と苦笑いしながら同じく目で伝えてきた。

「以心伝心してんじゃねぇ――!!」

 そんな東と俺の間に入り込む龍鵺。

「いや以心伝心なんかしてないんだが」

「そうだよ。ちょっと目と目で語り合ってただけだよ」

「人はそれを以心伝心と言うと思うのだが」

 冷静な坂上のツッコミ。ごもっともです。

「で、そういう坂上は――」

「見ての通り。コンビニのオニギリやらサンドイッチやらだ」

 言った通り、坂上が手にしているのはコンビニ製品らしくキッチリと三角形にされ、パリパリの海苔が巻かれたオニギリ。それを妙に可愛らしく食べている。なんかリスみたいに。

「前々から気になってたんだが……すごいギャップを感じる……」

「癖なんだ。気にしないでくれ」

 どんな癖だよ。

「いいじゃないか、功司。ギャップは偉大なんだぞ? ツンデレ然りヤンデレ然り、そのギャップに男は弱いんだ」

「…………」

 確かに目の前でオニギリを頬張っている坂上は、新鮮で可愛く感じる。が、それで龍鵺の説を認めるのは少し悔しい。

「ていうか、龍鵺も毎日買い弁だよな」

 という訳で話を逸らす事に。

「ああ、俺一人暮らしだし」

「……はっ?」

 初耳なのですが。

「そういや功司と理亜ちゃんは知らなかったな。俺、現在一人暮らし中」

「……金は?」

「親から仕送り。いや、我が家はけっこう金持ちだから」

 そうだったのか。全然知らんかった。この歳で一人暮らしとは……なかなかの生活スキルを保持してるんだな、こいつは。

 激しく意外だ、と驚きつつ龍鵺を少し見直――

「フフフン、そして学生で一人暮らしオア寮生活はギャルゲないし『登場人物は全員十八歳以上です』なゲームにおいての主人公設定!! 一つ屋根の下で美少女と同棲!! フハハハハ、今に主役交代だな功司よ!!」

 ――せなかった。むしろ株が大暴落?

「攻略対象が不在だけどな」

 とりあえずそう言っておく。

「ぐっ……痛いとこ突いてきやがるな、今日の功司は……。だがッ! ここには今現在三人の攻略対象(予定)がいる!!」

「夢の見すぎね」

「ぬぐ……ならば薫ちゃん!!」

「興味ない」

「ぬぐぐ……でしたらば理亜ちゃん!!」

「えっ、なに? ごめん今聞いてなかった」「ぎゃらばっ!?」

 で、結果は全滅。まぁ予想通りと言えば予想通りなんだが……不憫な奴だ……。断られるならまだしも、東に至っては聞いちゃいないし。

「安心しろ、氷室」そこで今まで黙々と弁当を食べていた桐垣が口をはさむ。「まだ矢城が残っているぞ」

「嫌じゃそんなゲームジャンルは!!」

 俺だって嫌だ。

「ていうか、桐垣」その事にはもう何も言うまい状態を維持しつつ、理由は分からない方が幸せであろう視界の片隅で箸を持ったまま硬直している東を捉えつつ、今までずっと、転校してきて一緒に弁当を食べるようになってから未だに聞くに聞けず先送りにしていた事を話を逸らす意味でも質問する。「お前の弁当箱、なんでいつも重箱なんだ?」

「あらやだ矢城君てば、今さらそんな重箱の隅をつつくような事を聞くなんて」

「いやそんなうまい事言えなんて言ってないから」

 ていうかその女の子喋りやめい。キモいから。

「もう、イケずなんだから」

「だからやめろっつーの!」

「まぁそう憤るな。ほら、クラスに一人くらい弁当箱が重箱なんてキャラがいた方が楽しいだろ?」

 それはどんなキャラなんだ――ていうか。

「…………(じー)」

 東の、俺を見る視線がかなり気になる。……ここは無視した方が賢明か……?

「どんなキャラか、だと? お前の目の前にいるじゃないか。この桐垣秀知三十七世こそがそうだ!!」

「なんだ三十七世って?」

「…………(じー)」

 ……無視だ無視無視。

「それがキャラだ(キラリ)」

「わけわかんねぇよ!」

「む……分からんのか。ならば一から説明しよう。まず――」

「…………(じー)」

「いや求めてないから」

「もうまったく。素直じゃないんだから、このツンデレさんは」

「誰がツンデレじゃ!!」

「…………(じー)」

 心なしか、視線に熱がこもった気がする。ヤバい挫けそう……。

「お前だお前。もう少し素直に生きてみろ。オープンユアマインド」

「だが断る!!」

「…………(じー)」

 まだだ。こんなところで負けるわけにはいかない。無視するんだ俺。あーそういえば重箱からどんどん話が逸れてってるなぁとか考えるんだ。

「まったく……もう半年近く付き合ってるのに、まだお前はツンなのか」

「………………………(じ―――)」

 無視だ頑張れ俺。

「つ、付き合いは長さじゃなくて密度だと思うぞ!?」

「……………………………(じ―――――)」

「そんな、俺とお前の仲はそんなに軽薄なものだったのか?」

「……………………………………(じ―――――――――)

 あ、ヤバいもう耐えらんない。ごめんなさい、神様。俺には無理です。桐垣と熱い視線を送ってくる東を同時に相手するなんて。

「……もう俺の敗けでいいや……」

「フハハハ。これで三十八勝目だ」

 俺のその言葉に、桐垣は高らかな笑い声を上げそう言う。転校してきて一ヶ月くらいから桐垣が勝手に始めたこの勝負、いまだにルールとか諸々が分からん。

 ていうか、それよりもだ。

「…………(G―――)」

 今はこっちを熱い目で見ている東をどうするかが問題だ。

 どうしよう。もうガン無視決め込んでみようかな。いやでもなんかそれはマズイ気がする。多分倫理的に。

「…………」

 とりあえず東の目と正面に向き合ってみる。

「…………」

「…………あ〜、」

 無理だ。これ無理。なに、こいつのこの瞳。ヤバいくらいにうっとりしてるから、なんかスゴく変な気持ちになってくるし。

「…………」

「…………」

 でも頑張れ俺。ここで敗けたら正真正銘のゲームオーバーな気がするから。東の中でなにか良くない革新が起こって物語のジャンル変わるから。

「…………」

「…………」

 …………ごめんやっぱ無理――

「功司……!! 貴様、なに理亜ちゃんと見つめ合うと素直にお喋り出来ない状態になってんだぁ――!!」

「うわっ」

「きゃっ」

 と、そんな二人のすぐ横から、龍鵺の怒鳴り声。その声で正気に戻る俺と東。

「そんな事、お父さんは許可してません! ええ許可しませんとも! この俺に春が訪れるその日までぇぇ!!」

「うっさいいきなり人の耳元で怒鳴んじゃねぇ」と、本来の俺なら言っていただろうが、現在はコイツのおかげ東が正気に戻ってくれたようなので何も言わない。

 当の東はパチクリと瞬きを二、三回、そして今まで考えていただろう俺と桐垣の禁断のコミュニケーションを思い直したのか、真っ赤になってうつ向いている。理由を考えなければ、その仕草はかなり可愛らしく見えるだろう。

「功司貴様ぁ! 理亜ちゃんにあんな恥じらひアクションをとらせるって事は俺に滅されても笑顔で逝けるんだろうなぁ!!」

 で、理由を考えないオア元より思いつかない奴にはそう見えている訳で。

「よぉし覚悟が出来たようだな!! 喰らえ、俺の右手が真っ赤に萌えるぅぅ!!」

「いい加減うざったいんじゃ黙ってろボケェ!」と、いい加減我慢出来ないから言う俺。

 ――キーンコーンカーンコーン……

 そして四時間目の体育が少し長引いた為、異様に短い昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 ……俺、まだ飯食い終わってないんですけど……。


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