第二章:6 シャイですから
シューティングコースターを後にした俺達は、時間も時間だったので、オープンテラスで食事をする事にした。
という訳で、園内にあるオープンテラスに到着したのだが……
「――やっぱり混んでるな……」
予想通り、オープンテラスは結構な客の数でにぎわっていた。
「まぁでも座れないほどでもないか」
桐垣の言葉通り、混んではいるがちらほらと空席が見える。けど流石に六人席は空いてないだろうなぁ。そんな訳で、
「じゃあ席確保する組とメシ買いに行く組とで別れて行動しようか。席は六人がけが空いていればいいけど、最悪、三人ずつで別れるような感じにして」
という坂上さんの言葉通りにする事にした。
そんでもって、公平なるグッパーの末、メシ購入隊は俺と東と桐垣、席確保隊は残りの三人となった。
「え〜と、龍鵺は……ラーメンだったかな」
席確保隊と別れた俺たちメシ購入隊は全員分の要望を注文すべく、レジから続く列の最後尾に並んだ。そして俺はオーダー確認中。
「……で、だ。え〜、その……天笠さ――」
「功司君」
その途中、東が俺の言葉を遮る。
「呼び方、違うよね?」
そしてそう諭すように言う。
「い、いや……別にここにいないんだし――」
「だめ。罰ゲームなんだよ?」
「ぐっ……」
……東が先ほど決めた罰ゲーム。それは
「全員が全員を下の名前もしくはあだ名で呼ぶ」というものだったのだ。それ罰ゲームか? というツッコミを入れると、
「だって名字にさん付けとか変によそよそしいから、いい機会だし、ね?」との事で。
でだ。俺はこう見えて一般的な高校生よりも相当シャイな部類の筈だから、そんな罰ゲームを簡単には受け入れられないのだ。
「そうだぞ、罰ゲームなんだから素直に受けろ」
「ねー」とか言い合って意気投合している東と桐垣。ちなみに桐垣は全員のことを変なあだ名で呼んでいる。
「そういう訳だから、覚悟を決めろ功ちゃん」「功ちゃん言うなっ。普通に「功司」でいいだろ? なんでそう呼ぶんだお前は?」
「決まってる。そっちの方が面白いからだ」
「……そいですか……」
もう好きに呼んでくれ……。
「ねぇ功司君。なんでそんなに下の名前でみんなを呼ぶのを嫌がるの?」
「なんでって、そりゃお前……」
さっき言った通り、俺はシャイで、男はともかく女の子を下の名前呼び捨てなんて照れるからだ――なんて言える訳ないだろ?
「くくく……理っちゃんよ、それは男の純情というやつだよ」
「なっ!?」
「男の純情?」
心底おかしそうに笑いつつ、桐垣は俺の心を見透かしたような発言をする。それを聞いた東はきょとんと首を傾げた。
「そう、男の純情。この男はだな、同年代の異性を下の名前で呼び捨てるのに――」
「ちょっ、タイム!! 桐垣タイム!!」
「インプレー中のタイムは認められん」
くっ……やばいぞ、このままでは非常に恥ずかしい事になること間違いなし! ここは力づくでもやつの暴挙を――
――ガシ!!
「……えっ?」
――止めようとしたら、東に羽交い絞めにされる俺。
「あ、あず――」
「浬亜、でしょう?」
続けて、と桐垣に言い、さらに力を入れて俺を拘束する。ていうか胸! 胸が背中に……!!
「そう、で、功ちゃんはだな、そういう事に照れを感じるのだよ」
ああ言われた! うわ、穴があったら入りたい心境だ〜だけど今はそれよりこの俺の背中にひっついている俗にいうMASYUMAROのような感触をもった圧倒的存在感をどうすればいいんだよこのまま身を任せちゃってもオケーなのかいべいべー!?
「まったく……中学生じゃないんだから、それくらいで照れるな」
そうだよなもう俺も中学生じゃないんだしこの素晴らしき感触に身を委ねるくらいで動揺しちゃいけないつかむしろこのコレを堪能するくらいの気を持たなきゃねそれにしてもこいつ本当に胸、
「やだ、功司君ってばそんな可愛い悩みを抱えてたの?」
そう言ってよりぎゅ〜っと力を――ってだめダメ駄目!!! やっぱり駄目だってこんな二つのゼリーのような柔らかいモノが「むにゅ〜」ってなるのはほら俺も一応健康な高校男子だし!?
「り、り、り、浬亜!!」
俺は目をつぶって、とりあえず叫ぶ。
「ん?」
「とと、とりあえず、俺からステイ・アウェイしてください」
そして微妙な英語が混じった敬語。なぜだか知らないが敬いたくなったんだ。
「あ、うん」
俺の言葉に、以外にも素直に離れてくれる東。――正直少し(いやかなり)残念だと思ったのは絶対に秘密だ。
「ふー、すー、はー……」
そして深呼吸。頭に新鮮な酸素を送り込んでクリアーな思考を取り戻そう。
……………よし。多分クールダウン成功。
さて、クールになったところでどうしようか。さっきのなりふり構っていられない状態の時、思わず東のこと下の名前で呼んじゃったしなぁ……。もう開き直っちゃおうか、それとも意地を張り通そうか……。
こういう時はクイックセーブ……じゃなくて脳内でシミュレートしてみよう。この先の未来を。
パターンA:開き直る。
『ああもう罰ゲームなんだからなんとでも呼んでやるさ! 浬亜、秀智、楓、薫、龍鵺ってなぁ!!』
『じゃあ私のこと「りっちゃん」って呼んでみて?』
『うっ……』
『じゃあ俺のことは「ヒデ」か「ひぃちゃん」か「トモヤス」と呼んでみてくれ』
『ぬっ……(トモヤスって誰だ?)』
『さぁ』『さぁ』
『『早く呼んでみて(ろ)』』
『ぐっ……』
――だめだ。トモヤスが誰なのか分からない……。
パターンB:意地を張る。
『わかった。下の名前で呼んでやる。だけど罰ゲームで言ってやってるんだからな! 勘違いするなよ、俺は罰ゲームだから言ってるんだからな!!』
『くすくす……素直じゃない功司君て、なんか可愛い』
『んぐぁ!?』
――だめだ。俺はツンデレじゃない。
つかなんかイマイチなシミュレートのような気がする……。そもそもトモヤスって誰だ?
俺は熟考の結果、成行きに身を任せることにして、いつの間にか桐垣が注文していたラーメンとカレーをお盆に乗せた。