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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
誘われて~遊園地~
10/31

第二章:4 省略。

「はぁ――」

 なんとか無事にお化け屋敷を脱出できた俺は、疲労を全身に感じながら溜息をついた。まさかお化け屋敷程度にここまで体力を奪われるとは……下に恐ろしき、お化け屋敷(With天笠さん)よ。

「矢城君、息がすごい荒いけど、そんなに怖かったの?」

 そんな俺に労わりの言葉を投げかけてくれる天笠さん。ええ、あなたとの会話の行方がとても怖かったですよ。

「いや別にそういう訳じゃないんだけど……」

 そんな事を言うとまた先ほどの無限ループがやってきそうだったので適当にお茶を濁すことにする。もうあんな大声出すの嫌だし、なにより心臓に悪い。

「まぁ……違った意味でかなりドキドキしたけどね……」

「違った意味ってどういう意味かな、功司君?」

「のわっ!?」

 ガシィッと俺の肩が万力のような力で掴まれる感触と地獄の鬼さんたちも裸足(彼らはもともと裸足だった気がする)で逃げ出すほどの極上ヴォイスをいきなり背後10センチメートルくらいの距離からかけられてマジビビりする俺を責める事が果たしてできるのだろうか?

 まぁそんな問いには答えてくれなくて結構なんだがとりあえず振り返った先におわしたのは東 浬亜さん。彼女は鑑定団に鑑定を依頼したらゼロが五つくらいつきそうな微笑みをたたえながらものすごくドス黒いオーラをまとっています。お化け屋敷なんか軽く凌駕するほど恐ろしく感ぜられます。

「ち、違った意味の説明でございますか!? そそ、そいつはちょっと刺激が強すぎて――」

「どういう意味で刺激が強いのかな?」

 教えてくれない? とこのお方は私にジリジリと詰め寄って来ます。先に記した状態のままで。

「いいいいや別にそういうやましい意味での刺激などではなくって――」

「どうして――」ちょっと大きめの声で私の弁を遮り発言をしなさる東さん。

「――いきなりやましいなんて言葉が出てくるのかな? 私は意味を尋ねただけなんだけど。……どうしてかな?」

 かな? ともう一つ語尾を繰り返す東さん。お言葉を返すようですが、そのネタ。既に龍鵺が使っておりますよ? ていうかネタ自体少し――

「質問に質問で返すのは感心しないなぁ……。――質問してるのは私、だよ?」

「あ、東さん、その、顔がとてつもなく近いですよ……?」

 こ、恐いです、東さん。そんな近くで今にも私を殺しそうな笑顔をされては……。と言いますか、これ質問じゃあなくて尋問なのでは――

「もう一度だけ、言ってあげる。今、質問をしているのは私。……分かった?」

「は、はい!!」

 ヤバいですよ矢城功司君!! このままでは何故だかお怒りの東様が

「It's a lie(嘘だ)!!」とか言い出されるのが目に見えてますよ!?

 このままではパロネタの応酬になってしまいますが、それはなんだかイケない気がします! この状況から話を元のルートに戻すにはどうすればいいでしょう!? そうだ、こういう時こそ冷静に、冷静になるんだ矢城功司―――!!!

 よし、こんな時には――

「素数を数えたら一生後悔すると思うよ? 功司君」

 ギャ―――!! よ、読まれていらっしゃる!? バカな、これはイエスオアノーの考えじゃないはずなのに!!

(まずい、このままでは色々と危ない気がする……! この現状を打破する方法は……!?)

 とりあえず、冷静に。……ここは素直に事実を吐いてしまいましょう。

「いえ、その、ですね……お化け屋敷内を天笠さんと無言で歩きながら回想シーンの中で更に回想シーンに入るという行為を試みた後唐突に天笠さんが変な事を言い出しまして――」

「変な事って、どんな事?」

「いや、それは……その……」

 嫌なところで切り返され、思わず言い淀んでしまいます。そのまま二秒くらいの躊躇いを経て、思い切って言い切る事を決意。

「ゴホン。えー、放置プレイがどうとかいう話の方向になりまして――」

「私を苛めて楽しんでたのよね」

「へぇ……」

 なっ、違っ――!!

「その後は私を雌扱いして束縛した後に肉体的に苛めたのよね」

「ふぅーん……」

 ああああああああああああああ!!! この人はなんて事言っちゃてるんだ――――!!!

「なるほど。よぉぉ――――っっく分かった。貴重な証言をありがとう、楓」

「いいの。私は事実を述べただけ」

「いやいやいやいやいや事実なんて――」

「私、何か嘘をついているかしら?」

 いや、確かにほとんどが事実ですが、言い方というものもあるでしょう……? ていうか苛めることを楽しんでなんかいない!!

「こ・う・じ・君♪」

 必死に、マジで命をかけて言い訳の言葉を紡ぎだす俺の肩に、断罪者の手。

「ははははい!!!??」

「念仏、唱え終わった?」

 笑顔。満面の笑顔。断罪者は見る者すべてを癒す笑顔。残酷なまでに無邪気な。

 紡ぎだされる、断罪者の呪文。すべてを破壊し、地獄にたたき落とし、生かし続けられる――運命の洗礼。

 絶望の奈落へと叩き落とされた、矢城功司が理解したことは一つ。

 ――ああ、俺はどうあっても助からない――

 

 

「どぅああぁぁ――――!!!?」

「きゃあっ!?」

 飛び起きた俺の目の前に、驚く東の顔。

「はぁ、はぁ……あ、あず、ま?」

「び、びっくりした〜……」

「あれ、俺は……。それに、ここは?」

 きょろきょろと辺りを見回すと、業務用の机と灰色のロッカー、白い壁に掛けられている何だかよく分からない着ぐるみのような物。俺は部屋の中央にある背もたれのないベンチに寝かされていた模様。で、俺の顔を心底驚いた表情で見つめている東。

 そこで行き着いた結論は一つ。

「もしかして、夢オチ……?」

 パロネタで収集が着かなくなったからって……まさかの夢オチですか?

「そ、そんな事の為に俺はあんな目に遭わされたのか―――!?」

 叫ぶ。叫ばずにはいられないこの憤り。どうしてくれようか。

「だ、大丈夫? 功司君……」

 頭でも打ったの? とそんな俺をマジで心配してくれる東。

「いや大丈夫。これは異次元的なツッコミだから」

 このセリフは十分危ない人が発するようなものだと気付いたので、また何かを言われる前にこちらから発言。

「ところで、何で俺はこんな所に?」

「あれ、憶えてない? 功司君、お化け屋敷の中で幽霊の人とぶつかって、そのまま気を失っちゃったんだよ? それで係り員の人にこの事務所に運んでもらって――」

「気絶……」

 ああそういえば、幽霊までもを震え上がらせるかの限界トーク中、頑張って俺達の前に出てきてくれた幽霊さんがいたっけ。そうだ、それでその人――あ、いや幽霊さんと俺はぶつかって――

「あの夢に突入、か……」

 あれはマジでシャレにならなかったなぁ……。

「でも、なんともなさそうで良かった。心配したんだよ?」

 なんてあはれなる気持ちに浸ってる俺の横に、安心したような東の――夢の中とは同じようでまったく違う笑顔。なんか和んだ。

「心配、かけたな……」

 だけれどそんな事を表面に出すのにはちょっぴり恥ずかしいお年頃。ついついぶっきらぼうな言葉が出てしまう事には目をつぶってほしいところだ。

「そうだ、みんなは?」

「外。とりあえず私だけここで看病……って程でもないか。ここで功司君の様子を見ていたの」

「そう、か……。みんなにも迷惑かけちゃったな……」

 なんだか少し殊勝な考えになってしまうのは病み上がり(?)だからという事で。

「大丈夫。みんな心配はしてたけど迷惑だなんて思ってはいないよ」

「……そうかな?」

「そうだよ」

「そっか……」

 そう言ってくれると嬉しい。まだ転校してきて三、四ヶ月しか経っていない俺はやっぱりどこか遠慮している事とかある訳なのだが、そういう風に掛け値なしに心配してくれているという事は俺のことを、その……仲間として認めてくれているようで。

 だからこそ。

 今度こそはこの学園で、秋葉学園の生徒として、あいつらと卒業できることを切に願う。また、同じ過ちを繰り返さぬよう。

「さて、俺はもう大丈夫だし、これ以上みんなを待たせる訳にはいかない。そろそろ行こうか」

 俺は寝かされていたベンチから起き上がる。そして頭を軽く振ってみる。……うん、特にこれといった異常はないみたいだ。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 それでも尚心配してくれる東に笑いながら答え、その場で軽くストレッチなんかしてみせる。

「だから早くみんなの所に行こう」

「……クス」

 そう東を急かすと、何故か笑われた。

「なんで笑う?」

「ん〜とね、功司君、こういう時って言葉遣いが殊勝になるの。それが可愛くって」

「なっ!?」

 なんてこそばゆい事を言ってくるんだこの幼馴染は!?

「べ、別に殊勝になんかなってないぞ。俺はいつも通りだ」

「クス……そういう事を指摘されると否定する意地っ張りなところも変わってないね。可愛い」

 ああもう俺はどうすればいいんだっていうかこの赤面必須のトークの抜け道は何処に!?

「さ、みんなの所に行こ?」

 東は微笑みながら俺を手招く。

「…………」

 抜け道は時間の経過だと悟った俺は、憮然とした気持ちのまま黙って先導する東についていった。

 

 

 お化け屋敷・幽霊の控え室から外に出た俺と東は、外で待ってくれていたみんなと合流した。色々と労わりの言葉をかけてくれる面々の中、唯一の憎まれ口を叩いていた龍鵺は東にシメられていた。

 そんな龍鵺をほったらかしにしつつ俺達は次なる目的のジェットコースターに向かう事にした。

 

 で、ジェットコースターに乗った俺達だったのだが、それは特に語るべくこともなく――ていうか描写してもあのスリルは伝わらないであろうから感想以外を割愛します。

 感想。意外だったが天笠さんはこういうの苦手らしい。


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