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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
初めまして
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第一章:初めまして

パロネタが跋扈ばっこしながら闊歩しています(意味被ってるとか気にしない)。気をつけてください。あとたまに異次元的な事を口走ったりもしますが、仕様です。

 

「初めまして。矢城 功司やぎこうじです」

 自己紹介の基本として、まず当たり障りないことを言った。それからどこから来たとか、趣味とか、これからの抱負(いや、これはなんか違うか)を続ける。

(さて、他に何か話すことはあるかな……)

 およそ三秒の思考時間を経て、まぁこんなもんだろうと結論。予め考えておいた台詞も言えたし、この緊張の極致で俺はよくやったよ。自分を褒めたいね。いやもうこの際だから褒めておこう、心の中で。

 

 ――さて、俺は今教卓の隣に立っている。そう、あの教壇の上に必ず存在する木でできているかどうかは場所によって違うだろうが生徒の机より多少大きいあの机だ。そんな説明いらないって? まぁそう言うな。俺も緊張してるんだから。

 そしてクラス中の大半の人から好奇の目を向けられている。俺の顔に何かついているかね。それとも、あまりの美しさに見惚れてるとか。

 ……それはないか。

 まぁ、無理もないだろう。俺もあいつらの立場だったら(興味深い奴限定で)好奇の目を向けているだろうからな。

 ここまで言えば俺がなんでこんな状況なのか、どういった立場なのかは分かるだろうが、一応言っておく。

 

 俺は転校生だ。

 

 決して何かをやらかして見せ物にされてる訳じゃないからな。

 ちなみに今日は一月十日。外の空気も身を切るという比喩がピッタリと当てはまる程鋭くて冷たく、教室内も暖房器具がフル活動していて、その音や匂いがこの空間を闊歩している。

「さて……お前の席だが……」

 年齢およそ三十後半位のやけにチョビヒゲが似合う、身体中から飄々とした雰囲気醸し出す担任の……確か室見 成二むろみせいじ先生は、顎に手を当てて考える仕草をした。しばらくの沈黙を経て、教卓の真ん前の席を指し、

「特等席だ」

 ――そう言って笑いやがった。

「いや、普通転校生って後ろの方の席なんじゃ……」

 というもっともな抗議をしたところ、

「いいだろ? 早く先生方に覚えてもらえるぞ」

 と返してきた。

「いやいや、そんなに気を使ってくれなくて結構ですよ」

 というか是非とも遠慮したい。ありがた迷惑だ、実際。

「フム……そうか……」

 室見先生はやけに残念そうに溜息をつくと、窓際の後ろから二番目の席を指した。

「じゃあそこ」

 ……なんかいい加減じゃないか? それにさっきの考える仕草は一体……。しかもなんか微妙な席位置だし……。ていうかなんで空席が二つあるんだ? 新学期早々休む奴はそうはいないが……。いやきっと誰か休んだんだよな。うん、きっとそうだ。

 その後、教卓の真ん前の席の後ろの席の奴がその室見先生お気に入り(だと思われる)の机を片付けるのを見た。何となく悪い気がしたので、俺はそれを見てない事にした。

 それはさておき、俺は新しい学園での暮らしに不安と期待の混ざった何とも言い難い気持ちで、これから3月後半までお世話になる机へと歩きだして――

「のわっ!?」

 何もないとこでつまずいた。しかもまるでそこでヘッドスライディングでもかまそうとするかの如く勢いよく。

 その割にはやけにスローモーションでタイル張りの床が迫ってくる。ヤバイ、何とか受け身を――!!

 

 

 

「ぬおぁぁっ!?」

 俺はよくあるあの現象によって飛び起きた。そして俺の目に映ったのは白い壁。そこにはクラスメイトの顔や暖房器具の音、匂いなんかもなく。

「はぁ、はぁ……夢、か?」

 うわぁ、夢とはいえなんて恥ずかしい事をしちゃったんだ俺は。転校初日にみんなの前でヘッドスライディングかます夢見るなんて……。

 一つ溜め息をつき、周り……というか自分の見慣れてきた部屋を見回す。東に面した、カーテンが開いている窓からは気持ちのいい朝陽が差し込んできて、俺の左の横顔を眩しく照らす。それは睡魔を呼び寄せて、眠くなるような日射しだ。

「とりあえず、今何時だ?」

 いくらあんな恥ずかしい夢によって起こされようが、眠い事に変わりはない。俺は枕元に置いてある、お気に入りの曲を奏で続けている携帯を手に取る。

 とりあえずうっさいので携帯のサイドボタンで曲――アラームで流れていたようだ――を止めて、時間を確認してみる。

「現在時刻、七時三十分……」

 誰だ春休み中に大した用事もないのにこんな時間にアラームをかけたやつは。

 なんて自分に愚痴りつつ、俺はアラームのスヌーズ機能を切って、再び布団にくるまった。そしてそのまま麗かな春眠に――

 

 ……落ちていった俺がバカだったようだ。

 

 〜〜♪ 〜 〜♪

 耳元で妙に休符のアクセントがいい曲が流れている(ついでにやかましい振動音も右耳に)。ああ確かこの曲は一月くらいから目覚ましに使ってる曲だったけなぁ。

「ん〜……」

 何事かと目を開けてみると、目の前にまたもや曲を流し続けている携帯が。

 ……二回目のアラーム? という事は今日は何か用事がある日だったっけ……?

 そう思い、アラームを止めずに寝惚けた眼で携帯のディスプレイを見た俺は一発で目が覚めた。同時に昨日俺が何でアラームなんかを設定したのも分かった。いや、思い出した。

 ディスプレイに表示されている時間は四月二日(水)八時二十二分。

 同じくディスプレイに表示されているアラームのメモには『今日から新学期』。

 このディスプレイに写されているものが意味するのは……

 ――ここで冷静かつ客観的な状況分析をしてみよう――

 このディスプレイが写し出しているものを誰もが正しいと言うのなら、今日は新学期。俺も晴れて一月に転校してきた秋葉学園しゅうようがくえんの二年生になる。転校当時は変によそよそしかった俺もクラスに馴染み、あっという間に春休みになり、何をするでもなくぼんやりと過ごしてきた。

 で、そのぼんやりと過ごした春休みも、どうやら昨日を以て終わってしまっていたらしい。

 ということは……つまり――

 段々と嫌な予感がしてきた。冷や汗もダラダラと、それはまるでナイアガラの滝の如く。

「いや、まさか……それはないだろう」

 意味もなく笑ってみた。ただ、全てを否定するように。

 しかし、

「功ちゃ〜ん。学校、遅れちゃうよ〜」

 下の階から現実をつきつける母さんのおっとりのんびりな声が聞こえてきた。その、まったりのんびりした声を聞くかぎり遅刻などしなさそうだが、そういう事なんだろう。カーテンが開いていたのもきっと母さんが起こしに来て開けたんだろうな。

 

 ――と、いうわけで、

 

「行ってきます!!」

 俺は無言のまま猛スピードで上履きくらいしか入っていない鞄をもって着替えて家をでた。当然、飯など食べている余裕はない。

 

 

 俺の家から学園までは歩いて約二十分。走ったって十五分くらいはまずかかるだろう。そして現時刻は八時二十五分。俺の脳内メモリの情報を引き起こすと、確か今日は八時四十五分からホームルームだったと思う。まさにギリギリだ。始業式じゃなかったら遅刻は確定。

「ったく……こんな間に合うかどうかの微妙な時間が一番嫌だよなぁ」

 なんて愚痴っていても時間は戻らない。俺は運動不足の体を叱咤して走り続けた。

 流石に新学期早々遅刻はなぁ……。

 あの時起きていれば……と後悔し、後悔先に立たずという言葉と春の麗かな陽射し、それと暖かくなってきた風を全身に感じながら見慣れてきた通学路を駆け抜ける。いつも寄り道する駅前の商店街――布由木ふゆき通り、次いでゆるゆる長々と続く階段と坂も疾風の如く駆け抜ける。そして学校の近くにある住宅街へ突入した。

 ――ここでパンをくわえた俺と限りなく似た状況の美少女(転校生で実は同じ学校、加えて同じクラス)と曲がり角で正面衝突でもしたら面白いよなぁ。食パンでもくわえて。そいで性格は少し強気で、「イッタ〜イ! もう、ちゃんと前見て走ってよね!(美少女)」「あ〜ごめんちょっと急いでて……(俺)」「私も急いでるの!(美少女)」「だからごめんって。それより君、怪我はない?(俺)」「ないけど……(美少女)」「そっか、ならよかった(俺)」「って、あんた怪我してるじゃない!?(美少女)」「ん? あ〜本当だ(俺)」「自分の怪我に気付かないなんて、あんたバカ? ほら、診せてみなさい(美少女)」「いやこんくらいなんともないさ。それよりも、急いでるんだろ?(俺)」「あ、そうだった!(美少女)」「そういう訳で急ごう(俺)」「そうね(美少女)」で、走り出す二人。「…………(俺)」「…………(美少女)」「なんで着いてくるんだ? 俺に惚れた?(俺)」「んなわけないでしょ!! 学校がこっちだから。そういうあんたも、なんで私に着いてくるの? 惚れた?(美少女)」「ああ惚れた。君可愛いから(俺)」「(顔真っ赤にして)なっ!?(美少女)」「冗談だ。俺も学校こっちだから(俺)」「冗談、か……(美少女)」「ていうか、その制服、よく見たら秋葉?(俺)」「そうよ。私は今日から秋葉学園に転校してきたの。学年は二年生(美少女)」「へぇ……俺も秋葉の二年生だけど(俺)」「あらそうなの? 世界は意外と狭いものなのね(美少女)」「俺、矢城功司。もしかしたらクラス一緒かもな(俺)」「そうかもしれないわね。私は――(以下略)なんて事に――いや、今時そんなベタなイベントはないな。

「なんて考えてる場合じゃないか……」

 俺はそんな長ったるい妄想を振り払って走り続けた。

 依然としたマラソン状態で住宅街を駆け抜けて、学園までほとんど一直線に続いた並木道に差し掛かる。この並木道は、しっかりと道がレンガで舗装されていて、さらに並木道は歩行者専用で、公園と直結している。加えて今は中々幅が広い道の両脇に植えられた桜が見事に咲き誇っていて、散歩するのには適切な道だ。しかし、現在の俺には桜を楽しむ暇など全くない。

 そんな並木道を走り続けて、ようやく学園が見えてきた。

 ある程度な都会に建っているくせに敷地面積がやたらと広い我が学びの園、秋葉学園。ちなみにどれくらい大きいかと言うと、とりあえず校庭がやたら広い。某ドーム球場が一.三個くらいは入る程だ。学園の外になるが、この学園の理事長の所有地に、こちらも大きめの公園を建てている。それは普通に一般人も使えるようになっていて、先程の並木道とも直結している。その他にも、部活の合宿などに使う寮とかがその他色々ある。まったく……どんだけ金持ちなんだ、この学園の理事長は。

 そんな説明をしているうちに校門に到着。そして現時刻は八時四十一分。

(よし、この分ならまだ間に合うかもしれない!)

 微かな希望を見い出した俺は、潰れそうな肺と壊れそうな足に喝を入れて走り続けた。

 そして某ドーム球場一.三個分くらいの校庭を左に見ながら、一体いくら掛けたのかわからないしっかりとレンガで舗装された、校門から校舎に繋がっている道(こちらもなかなか広く、両側に所々ベンチがある)を駆け抜け、校舎の真ん前に作られている噴水がある広場(本当にいくらかけてんだ?)を通り過ぎて昇校口を目指し――って、そういや新学期だからクラス変わったのか。

 俺は噴水がある広場に慌てて戻って、そこに立ててある掲示板を見た。そして二年生のクラス割をA組から見ていく。

 え〜と……俺のクラスは、と……あ、あったあった。よし2−Cか。

 目指すべき場所が分かった俺は、今度こそ昇校口を目指した。

 ――それにしてもこの学園は広すぎないか? まぁ狭いよりはましなんだが……。

 

 

 さて、2−Cの教室だが、果たしてこれは四階にあった。どうやら神様は俺を徹底的に鍛えたいか苛めたいらしい。

 

 

 息も絶え絶えに、自分の教室前についた時には、すでにHRは始まっていた。

 間に合わなかったか……。う〜む無念だ。

 しかしここで過ぎ去りし事柄を悔やんでいる場合ではない。次に俺に課せられた事はどうやって教室に入るかだ。

 ……さて、どうしようか。ここはやっぱり後ろからこっそりと……。いや、もう開き直って堂々と前から……いやいやここはウケ狙いでむしろ窓から侵入……はやめよう。流石にそんな勇気は俺にない。

 ……よし。後ろからこっそり行こう。

 と、いうわけで俺は遅刻した時の常套手段で行くことにした。

 音をたてないようにそ〜っとドアを開けて……

「今頃ご登校か? 矢城」

「のわっ!?」

 ……教室に入ってすぐに桐垣に声をかけられて俺は思わず情けない声をあげてしまった。

 それよりなんでこいつはこんな所(二枚ある引き戸のドアの開かない方の前)にいるんだ?

 その疑問はどうでも良い(冷静に考えると良くない)が、そのせいでクラスの大半以上の奴らがこちらを向いて、笑いを堪えている。当然、担任の先生――また室見先生かよ――もこちらを見て何かを言いたげだ。

 クッ……何故に俺がこんな状況に陥らねばならないのだ。神様は意地悪だ。そもそも桐垣があそこでいきなり声をかけてこなければ……。ハァ……いつもコイツのせいで色々厄介事に巻き込まれるよなぁ……。

 ちなみに声をかけた奴――桐垣 秀知きりがきひでともは俺の……一応は、親(というよりも悪?)友。第一印象はやけに古めかしい名前だという点。本人はこの名前を気に入ってるらしい。成績は文武両方にたけていて、天才と言っても差し支えない。ここだけを見ればな。

 天才と言いきれないのは、こいつのやることなすこと考えることが全てに置いてくだらないかつ厄介かつ迷惑で、生粋のトラブルメーカーだからである。俺も何度か奴がおこす騒動に巻き込まれ、散々な目にあったが思い起こすと非常に長くなるので割愛させていただく。

 さて、今はこいつの事より、この現状をどう切り抜けるか、だ。こっちを見ている室見先生になんて言い訳しようか。

 曲がり角でいきなり女の子と正面衝突……いや、パターンの王道化は避けよう。

 とすると……。

 あ〜でもないこ〜でもないと考えてくちごもっていると、ふと教卓の隣に人が一人立っているのに今更ながら気付いた。しかも、何故か見憶えがある。あの顔……まさか……いや、でも……それも王道パターンだしなぁ……。

 どうやら、あちらも俺の事をどこかで見た顔だと思っているらしく、俺をジィッと見つめている。

 そして見つめ合うこと三秒程、室見先生のわざとらしいせきばらいが聞こえた。

「オホン。あ〜、っと矢城。何で遅刻したのかは想像つくから、敢えて、聞かない。で、そろそろHRを進行させたいんだが……いいかな?」

「うっ――ハイ……」

 自分の置かれた状況を見直して、死ぬほど恥ずかしくなった俺は大人しく従った。周りの奴らは遂に堪えきれなくなったのか、クスクスと笑い始めている。

 ……きっと今の俺の顔は真っ赤なんだろうなぁ。

 そう思いつつ、自分のであると思われる窓際の一番後ろの空席に向かった。

 


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