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だから頑張らないと!

「魔物の変化ですか………?」





城へと帰り、兵士へと話を聞きに来たリーリウムとステラだがその反応は外で聞いた兵士達と大して変わらない様子


駄目か、とリーリウムが肩を落としかけた時、1人の隊員が弾かれたように顔を上げた





「そうだ………魔王様!」

「何かありましたか?!」

「はっ!凶暴化、とは違うのかもしれませんが……3日程前だったと思いますが、数匹いた魔物の内1匹が少し丈夫だったような気……その時は自分の力不足かと思っておりましたが……」

「なるほど……まだその程度…?いや、でも……凶暴性よりもそちら方面から…?ありがとう!それが凶暴化の兆候で間違い無いでしょう!」




1人の兵士からの報告、それはリーリウムが決して見落とす訳にはいかなかった情報


気弱で最弱と言われても彼は魔王

こんな自分の治める国へ身を置く人々を危険に晒す訳にはいかない

気は進まなかったが、魔王として祀られた以上は出来る限り応えたい


だからこそ、今回のような危険度の高い事象は確実に潰していかなければならない

魔王としても、個人としても今回は見逃せない現象


いや、今回の件に関して言うならばリーリウム個人としてとても大きな意味を持つ




「申し訳ありません魔王様!小さなことでも報告せよとの命を!」

「いえ、これに関しては仕方ない事です。余りにも小さいことですし、疑うのも難しい話ですからね」

「ご容赦頂きありがとうございます!」

「しかし、今後は更に事態が発展します。これまで以上の警戒を」



少し手間取ったくらいの違和感に疑問を持つ事は難しいだろう

いくら小さな事でも報告するように、といっても個体差によっては十分あり得ることに一々疑問や疑惑を抱いていたのでは精神的な消耗も大きい

その疑惑が、疑問が仲間にまで及び疑心暗鬼になっても意味がないのだ


だが、持たされた情報により兆候が確認できたのならば話は変わる

これからはその小さな変化が大きな情報となり得る





「皆さんっ!今後魔物との戦闘時には何か異変が無いか十分に注意や確認を!そして町村等との微細な情報共有、派遣人数の増員、見回りの強化等を会議後通達します。全隊員、確認後徹底した任務遂行を!」

「はっ!」

「ステラさん!すぐに用意を!」

「お任せ下さい、魔王様」






兵士達に集まってもらった訓練所から早歩きで1度執務室へと戻っていくリーリウム

その拳は強く握り締められている

そして、瞳も珍しく鋭く射抜くように


魔王として、国や民を守る為に動くのは勿論だが

リーリウム・シュヴァルツ個人としても今回は全力を尽くさなければならない




「魔王様」

「ああ…………すみません、ありがとうございます」





途中までは同じ方向である為、ステラが変わらずリーリウムの後ろを歩いていたが

強く握り過ぎて流血し始めた拳をステラがふわりと包み込む


周りの見えなくなっていたリーリウムもはっ、と思考の海から戻り、ステラの顔へ困ったような笑みを浮かべて視線を移す


焦り過ぎた、と内心で反省するが流行り逸る気持ちを抑えられず再び困ったような笑みを浮かべる





「………落ち着けました。すみませんが、準備をよろしくお願いします」




完全に落ち着けた訳ではないが、頭を埋め尽くす思いや感情は一時的に落ち着いた

意識を切り替えて、再び歩き始める

今するべきことを、今考えるべきことを


自分に言い聞かせて、頭の中で絶えず浮かんでくる物を、記憶を何とか押し込めて



15分もあれば準備が整うだろう

その前に意識を取られず、思考を脱さず、これから行われる会議へと意識も思考も向けなければいけない





「ふぅ………難しいなやっぱり。だけど、今は集中しないと…………」





執務室へと戻り、椅子へと座り気持ちを落ち着ける

ぐるぐると巡る思考の旅から抜け出すには思い出が多すぎる、そこに込められた想いや意味も簡単に切り替えられる物ではない






「それでも………やっと手掛かりを見つけられたよ―――百合さん」






呟きはこの世界に溶けるように消えてしまったが、リーリウムは決意を込めた表情を浮かべて自分の呼び出しに応じて待っているであろう会議用に誂えた部屋まで歩いていく


部屋に入ると全員が軽く頭を下げ、リーリウムへと視線を向ける

それに応えた後に、自分が座る椅子へと向かい、久しぶりに座った椅子の感触に多少戸惑う


立派な柱に、高そうな長テーブル、椅子のひとつひとつも細部まで拘っている様子が伺える

自分の勝手なイメージで置いた壷や花瓶なども安そうで実はかなりお高いが、見栄で置いたもの

こんなのあったほうが様になるよなぁ、というだけで置いたので意味も価値もわからない


そもそもこの会議の部屋も、彼が魔王になってからの500年で使用回数は10も満たない

因みに前回の使用から実に280年ぶりになる今回、正直に言えば前回との部屋の違いがあったところで自分にはわからない




「魔王様………?」

「ん?ああ………すみません」





ステラに心配そうな顔を向けられ、思わず困ったような笑みを返す

久しぶりのこの部屋についてこんなだったかなぁ、と考えていたとは言えず咳払いをひとつ本題に入ることにした





「みなさん、急にすみません。大体の用件はステラさんから聞いているとは思いますが改めて」





改めて、彼は考える

この人たちは良くここまで自分に付いてきてくれたなぁ、と


会議を進める傍ら、彼は考える

そもそもステラからして、ここにいるのは異常なのだ

しかもメイドコスで自分に仕えている


ほかのメンバーだって、ここではなくほかの魔王の所で仕えれば必ず世に名を轟かせるであろう

そうでなくても、準魔王種として覚醒することだってあっただろうに

全員が全員そうだとは言わないが、それだけ個人としても種としても優秀な人ばかりなのは間違いがない






「確実に今回の件は、世界的に苦しめられると思います。前回よりも悲惨な形でこの世界に災いを齎すでしょう。ですが、前回と違い今回は経験という強い武器があります。みんなで頑張って乗り越えましょう!」





途中までは格好良く話せた気がするが、最後に上手く言葉が思いつかず何とも締まらないなぁ、と思わず困ったように笑いそうになる


そもそもリーリウムは上に立つ様な人間ではないと自分で思っている

それと無く集団に混じりそれと無く話を合わせ、困ったような笑みを浮かべてふわっ、と生きてきたのだ

この様な上に立ち纏めあげると言うのは500年経った今でもコツすら掴めない



気が付けばこうして優秀な人材に囲まれているものの、どうしてここまでやってこれたのか本当に謎だと彼は考える

周りに恵まれた、そうとしか言えない

感謝と共になんと心強いのか、頭が上がらない




「お疲れですか?魔王様」

「いえいえ、ちょっと考え事を」

「お気持ちは痛いほど私も感じておりますが、どうか今は御辛抱下さい」




確かにその意識は今も消えること無く脳内に絶えず浮かんでは居るが、今の考え事とは違うんだよなぁ

等と、訂正するのステラに申し訳ない為取り敢えず困ったような笑みを浮かべる



会議も無事に終われば、後は優秀な彼らが各人員へと通達してくれる

魔王として今やるべきは、リーリウム個人としてするべきは今後集まってくるであろう情報と動き出すであろう人々を待つばかり


何とも手持ち無沙汰な感じはするが、ステラに言われた通り今はまだ辛抱する時であろう





「ステラさんお茶をお願いします」

「既にこちらに」

「流石ステラさん」





執務室へと戻り、一息ついて再び思考の海へと航海に出る



前回、それは500年と少し前に起きた事件

その時も今回同様、魔物の凶暴化から始まった

原因究明の為、人族、魔族、獣人族、精霊族等の様々な種族が世界を駆け巡った

その結果、種族間の争いも勃発し、魔物による被害も甚大なものとなった


結果的に言えば、それは世界崩壊の手前で回避することは出来た

結果的に言えば、それを乗り越える事は出来た



結果的に言えば

その言葉は事務的な役割しか意味を持たない


誰も喜んだ者は居ないのだ

乗り越えた先、回避した後、誰もが悲痛な面持ちであった、悲愴に沈み、やり場のない怒りと悲しみに満ちていた

ただ1人の憎悪と怨嗟の咆哮、 怒号と慟哭、それら全てが混ざり合い、世界へ放たれた

世界へと放たれたそれは、隅々にまで響き渡り、引き金となって人々の心を揺さぶり、感情の箍を外した



その1人が撒き散らしたのは悲しみや憎しみ、怒りだけではない

彼が居た場所から周囲10キロの尽くに死を齎した

その場所は500年経った今でも封鎖され立ち入り、侵入の一切が禁止されている





「ステラさん、先に謝ります。すみません」

「魔王様………」

「約束……守れないと思います。僕が魔王になってからこの500年、漸く訪れたこの時、なりふり構っていられないと思います」

「どうかお気になさらず。全ては御心のままに」





ステラの慈愛に満ちた表情にリーリウムは硬い表情で笑みを浮かべる


気にするな、とは言われたものの、やはり何とか出来るならしてみようと思うリーリウム

500年、様々な事で支えてくれたステラへの恩返し

出来るかどうかは分からないがこの件に関しても全力を尽くそうと彼は密かに決めた







「さて、来週は忙しくなりそうですね。英気を養って養生して下さい」

「魔法様も、どうか思い詰めずお過ごし下さい。私は3日ほどお暇を頂きますので」

「はい、僕も色々備えておきたいので少し自由期間にしましょう」







話が終わると早々にステラは執務室から退出し、リーリウムもお茶の残りを飲み干して席から経つ


必要な物を最低限身につけて、これからの行動をシュミレートして困ったような笑みを浮かべる

無事に用事が終わりますように、と心の中で願ってから彼も執務室から出て、そのまま城から出ていった

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