表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
6/24

放課後デート

 放課後になり、結人は春宮桜乃(はるみやさくの)に呼び出しを受けていた。

 校門の前で待つこと10分、桜乃が結人の元に駆けてきた。

 

 「すいません、遅くなりました!」


 彼女は一言結人にお詫びをする。

 結人は手を軽く上げ、構わないという意味のジェスチャーをした。


 「放課後にわざわざ呼び出してどうしたんだ?」

 「なにって、放課後デートですよ」

 「は?」


 思わず反射的に返してしまった。

 結人は一緒に帰るつもりではいたが、まさかデートのお誘いがくるとは思っていなかったのだ。

 しかしここまで来てしまった手前今更帰ることも出来ないので、肯定の意はあえて見せず返答した。


 「どこにいくんだよ」

 「特に考えてないですけど・・・・・・ ゲームセンターなんてどうでしょう」


 ゲームセンターか。

 思えば久しく行っていない。

 結人は部活動をしていないからといって普段暇をしている訳ではない。

 父と母は仕事が忙しくほとんど家にいることがないので、そのぶんの家事全般は結人が担当している。

 家事が部活動だといっても過言ではないので、普段あまり遊ぶ暇がないのである。

 なので息抜きのいい機会なのだが、せめて相手くらい選ばせて欲しかった。

 しかし今更悔やんでも遅いので、仕方なく頷いた。


 

 少し歩いたところで結人はふとあることを思い出した。

 今日の体育で桜乃に校舎からちょっかいをかけられた時のことである。

 今日大人しく桜乃と帰宅することを選んだのは、このことを聞きたいがためというのも半分はある。

 結人はあまり考えずに勢いで聞いてみた。


 「今日の体育の時間のスタンディングオベーションは何があったんだ?」


 質問された桜乃は、特に意識していなかったのだろう、少し間を置いて思い出したようだ。

 ああ、という声の後に続けた。


 「死んだ祖父母がこっちを見てたので、笑顔で手を振ってましたって誤魔化しました」

 「怖いし誤魔化せてねーよ!!!」


 言い訳にもならないことを言うこいつもこいつだが、それを聞いて感動するクラスメイト・・・・・・。

 結人は、そりゃこんなモンスターが生まれるのも無理はない、と本題とは別のところで納得していた。




 「先輩なにで遊びたいですか?」


 着いたのは至って普通のゲームセンター。

 平日の夕方ということもあり、ちらほら学生が見える。

 遊びたいものと言われても、何があるかわからない。

 どうすればいいのかわからなかった結人は、主導権を桜乃に委ねた。


 「お前の好きなのでいいよ」

 「お前の好きにしていいなんて先輩恥ずかしいですっ」


 桜乃は照れた仕草を見せる。

 そろそろ慣れてきた結人はスルーを決め込むことにした。


 「ゲームセンターなんて来ないからわかんないんだよ」

 「・・・・・・じゃあこれで」


 不満気に頬を膨らます桜乃が指さしたのはメジャーなシューティングゲーム。

 次々と出てくるゾンビを一人称視点で撃ち倒していき、スコアを競うあのゲーム。(『あの』という表現は固有のものを指しているわけではないが、きっとわかるはず)

 女の子の選択としては少し意外だった。

 まあ結人は彼女を女の子としてはとっくに見ていないのだが。

 他に特にやりたいものがある訳でもないので、とりあえずそのゲームをプレイすることにした。


 硬貨を入れ銃をスタンバイする。

 スタートの合図とともに、複数のゾンビがプレイヤーである2人目掛けて近づいてくる。

 結人はそのうち1匹を狙い引き金を引いた。


 「きゃっすごい!」


 1匹を撃ち倒しただけで、なぜか左側の桜乃から歓声が湧いた。

 かく言う桜乃を見ると彼女は3匹、4匹となかなかの銃さばきでゾンビを倒している。

 どうやら結人の実力に湧いたわけではなさそうだ。

 そんな2人の筋違いはすぐに矯正されることとなった。


 結人が2匹目を撃つとまた歓声があがる。


 「先輩のピストルすごいっ! 激しいですっ!!」


 これでわからないほど結人はバカではなかった。

 ピストルを『なにか』に比喩表現しているらしい。

 とりあえずゲームが終わるまで黙っていることにした。


 そしてその後、結人は生まれて初めて女の子の頭を叩くこととなった。



 それからリズムゲームやUFOキャッチャーなどを遊び終え、結人が時計を見た時には、それなりの時間になっていた。

 

 「もういい時間だからそろそろ帰るぞ」

 「待ってください。最後に一つだけお願いします」

 

 そう言い彼女は俺の手を引いて歩いていく。

 引かれるままついていくと、彼女はプリクラの前に止まった。


 「私と一緒に撮ってくれませんか?」


 プリクラは以前幼なじみの夏野若菜(なつのわかな)と一緒に買い物へ行った時に、撮った記憶がある。

 若菜は出来上がった写真を見て、すごく嬉しそうにしていたことを思い出した。

 写真を撮るだけで喜んでくれるなら安いものだ。

 そう考え、結人はOKを出した。


 やはり女子は手馴れたもので、スラスラと背景や様々なモードを決定していく。

 結人は少し感心しながら桜乃を見ていた。


 「プリクラはよく撮るのか?」

 「頻繁には撮りませんけど、まあ人並みには」


 人並みとは女子校生を基準にしてのことだろう。


 1通り設定を終えた桜乃は、少し肩が当たるほどに俺に近づいた。


 「ほら先輩、ピースです」


 彼女を見ると、顔の横にピースサインを作っていた。

 やはり慣れているらしい。

 もしかすると彼女は至って普通の女子校生なのでは、と邪念を抱きながら(失礼な話だが)彼女と同じポーズをした。

 女の子とプリクラを撮るのは結構神経を使う。

 これは若菜との経験を基にしての判断だ。

 出来上がった写真を見て、表情がぎこちないとかポーズが全部同じだとか文句を言われたのだ。 

 嬉しそうにしてたくせに。

 しかし桜乃は撮れた写真に満足しているようなので結人は安堵の表情を見せる。

 その後の何枚かも、結人は桜乃に合わせて適当なポーズをとっていた。



 そして最後の1枚。

 ラストも先ほどと同じように、桜乃と同じポーズをしようと彼女のほうを見た。

 そんな彼女は少し迷っているのか、指を顎に付けていた。

 するとなにか思いついた様子で結人の方を見た。



 桜乃は顔を赤らめながら、結人の左腕に抱きついた。

 突然のことに不意をつかれて結人が驚いた拍子にシャッター音が聞こえた。

 桜乃はすぐに結人から離れ、1人外の落書きコーナーへ駆けていった。



 「先輩もなにか書いてくださいよ」


 慣れた手つきで文字やマークなどを付けている桜乃を見ているだけの結人に、桜乃はペンを差し出した。

 仕方なしにペンをとり、ふざけた記号やマークをつける結人に、桜乃は笑いながらもツッコミを入れていた。

 2人のボケとツッコミの立場が変わったのは、きっと2人の照れ隠しの所為だろう。

 

 そんな少しぎこちない雰囲気の中で、最後のカメラから目線を外している写真には、お互いに何も手を付けないでいた。

 この写真を見たという事実が相手に知れるのが、なぜか恥ずかしかった。

 落書きを終え、出てきた写真を取り、2人はゲームセンターを後にした。



 「楽しかったか?」


 結人は紳士の手前、ついこんなことを聞いてしまった。

 後で自分がちょっとだけ能動的になっていることに気づき、失言だと後悔したが、幸い彼女は気づいていないようだった。


 「もちろんです! 先輩とプリクラも撮れましたし」


 そう言い彼女はプリクラを見せる。

 しかし最後の1枚を思い出したようで、照れ笑いを浮かべる。

 彼女は本当はピュアなのかもしれない。

 結人は桜乃に手を出されることだけはないな、とこの時確信した。


 綺麗にオレンジに染まった夕焼けが、住宅街の空に浮かんでいる。

 桜乃はそこで立ち止まり、結人の方を向いた。


 「じゃあ私はここなので」


 結人は省略された文を察し、結人に背を向けて歩く桜乃に手を振る。

 彼女は振り返って、残りの言葉を紡いだ。


 「今日はありがとうございました! また遊びましょうね!」


 そう残しまた前へ向き直って帰っていった。

 結人は彼女の後ろ姿を見て、デートの前より少し鼓動が早くなっていることに、気付かないふりをした。


 

 





 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ