幼なじみの悩み事
夏野若菜は困惑していた。
彼女の幼なじみの真田結人が校内一の美少女、春宮桜乃にお昼のお誘いを受けたのだ。
あまりの突然の出来事に若菜は彼女に連れ出される結人を見つめるだけだった。
彼女と何かあったのか、と若菜は結人に問いたかったが、なかなかタイミングもあらずしてとうとう放課後になってしまった。
若菜はカバンを背負い帰ろうとする結人に声をかけた。
結人は教室を出る直前に呼び止められた。
声の主は結人の幼なじみである。
夏野若菜は幼稚園からの知り合いであり、家も近所ということで家族ぐるみの付き合いがある。
明るい茶髪にアイロンをかけたような髪。
この『アイロンをかけたような』という表現は間違っていない。
なぜなら何も手を施さずとも、彼女の髪はああなる。
明るい茶の髪も地毛であり、結人が小さい頃からずっと変わらない。
彼女を知らない人が見ると、イケてる大学生といった印象を受けるだろう。
確かに制服を着なければ高校生とはわからない。(老けている訳ではない)
その大人びた容姿と少し天然な性格をしているので、男子からはそれなりに人気がある。
「なに?」
結人が尋ねると彼女はいかにも聞き辛いといった表情をしていた。
今更気を使う必要はないのに、と思いながら疑問を含んだ顔で彼女を見つめると、彼女は口を開いた。
「春宮さんとなにかあったの?」
とうとう聞かれた。
結人はなるべくその質問を避けたいがために、午後の休み時間はずっと友人から逃げていたのだ。
放課後になり、やっとこの場から逃げられると、急ぎ足で帰ろうとしていたところだった。
いつかは答えなければならないと思っていたので、幼なじみである若菜には素直に話すことにした。
「昨日告白された」
「告白!?」
彼女は顔を赤らめている。
こんなことで赤くなるなんてどれほどピュアなのだろう。
そういえばこの間も少しだけ過激なマンガを読んで赤面していた気がする。
しかし告白で赤面する高校生はきっと彼女だけだろう。
「なんて言われたの?」
「パンツくれって」
彼女の動きが止まった。
目が点になっている。
思考が一切行われていないと人間こんな顔になるのか。
口も半開きだし。
幼なじみのこんなブサイクな顔なんぞ見たくないわ。
「パンツ・・・・・・?」
「そう、お前も履いてるだろ」
そう言い彼女のスカートを指差す。
「指さすなバカ!!!」
握りこぶしが右頬にクリティカルに入った。
しかし慣れているためあまり痛みは感じない。
これが幼なじみの力である(?)
「断ったけどな」
「そりゃそうでしょ」
どうやら会話が成立するレベルにまで、思考を取り戻したようだ。
それでも動揺は隠せていないのだが。
「なんだ、付き合ってないのか。よかった・・・・・・」
「え、なに?」
「なんでもない!! じゃあね!!」
彼女は結人の脇を抜けて帰っていった。
最後の方は声が小さくてあまり聞こえなかったが、なにか吹っ切れたというのは視覚から見て取れた。
幼なじみが落ち込んでいるのも見てて辛いので、変な会話だったけれどもOKとすることにした。