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好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
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 「うーん、今日は無理そうね」


 桜乃の母、結月は『38度』と表示された体温計を見て呟いた。

 ベッドには優れない様子の桜乃が、掛け布団を口元まで覆って寝ていた。

 

 「お母さんは仕事に行くけど、なにかあったら連絡してね」


 結月は桜乃の頭を撫でて、部屋を出て行った。

 桜乃はちらりと時計を見た。

 8時20分、もう少しでホームルームが始まる。

 こんな時間にベッドで寝ている自分に対する違和感を覚えながら、桜乃はぼんやりと天井を見つめていた。

 色々な思考が浮かんでは消える。

 そんな中でひとつ、引っかかるものがあった。

 桜乃は急いで携帯を開いて、メッセージアプリを起動した。

 相手は結人、ホームルームまでになんとか気づいてくれ、と高速で文字を打つ。

 今日は木曜日。

 桜乃が結人に弁当を作っていくと指定した曜日だった。

 『すいません、熱が出てしまったので学校をお休みします』とメッセージを送り、お昼の件を今から打とうとしたのだが、その前に結人から返信がきた。

 『了解。お昼は購買で済ますよ。お大事に』と、紳士的な文章。

 『ご心配ありがとうございます』と桜乃は返し、再び枕に頭を収めた。

 瞼が重たくなり、桜乃は抵抗することもなく、眠りに落ちた。

 そして夢を見た。

 



 朝自分の部屋で鏡の前に立っている自分。

 制服の細かいところを整えている。

 学校へ行く支度をしているようだ。

 すると立っていられないほどの大きな地震が起こった。

 その場にへたり込み、地震が収まるのを待つ。

 しかしその揺れは定期的にやってくる。

 どうやら地震ではないようだ。

 どうすれば良いかわからず、戸惑っていると、窓から人々が逃げ惑う姿が見えた。

 周りの物にもたれかかりながら、なんとか立ち上がって窓を覗く。

 そこにある光景は、この世のものとは思えなかった。

 大巨人と怪獣が闘っているのだ。

 巨人が歩く度に地面は大きく揺れる。

 地震の原因はヤツのようだ。

 桜乃はその大巨人に見覚えがあった。


 「・・・・・・先輩?」

 

 その顔は結人だったのだ。

 体はウルト〇マンそのものなので、全身タイツを着ているように見える。

 その姿はなかなかにダサかった。

 しかし夢の思い込みとは恐ろしいもので、桜乃はその姿に陶然となっていた。

 一方、怪獣の顔は一条柊耶だ。

 結人の親友であり、桜乃の大事な情報源(結人に関してのみだが)。

 その二人が街で死闘を繰り広げている。

 朝から大変なことになった、これは学校に行っている場合ではない、と桜乃は思いその闘いを見ていた。

 ウルトラ〇ン結人は果敢に怪獣へ立ち向かっていく。

 そして怪獣と掴み合いになり、その場に倒れた。

 ウルトラ〇ン結人は怪獣に馬乗りになり、パンチやチョップなど色々な技を繰り出す。

 怪獣は為す術もなく、ボッコボコになっている。

 普通なら悪が成敗されて喜ぶ場面だが、怪獣が知り合いなのでなんとも言えない気分になる。

 桜乃は怪獣を不憫に思いながらも、「ウルトラ〇ンとどめよー!」というヒロインの定型文を叫ぶ。

 その声を聞いたウルトラ〇ン結人はこちらを見て頷き、大きく後ろへ飛び退いた。

 豪快なフォームからお馴染みのポーズでビームを出した!!

 しかし桜乃は眉を顰めた。

 ・・・・・・ビーム?

 どちらかと言うと何かの汁のように見える。

 ジョボジョボという不快な音が響いている。

 そんな情けないビーム(汁)を浴びている怪獣は、皮膚がなくなり筋肉をむき出しにしている。

 そしてとうとう原型を止めなくなった。

 ・・・・・・あの汁は酸なのだろうか。

 もしそうならば本家より怖いかもしれない。

 そこで桜乃の夢は覚めた。

 



 桜乃は薄らと目を開ける。

 窓からは茜色の眩い光が差し込んでいる。

 もうすっかり夕方のようだ。

 汗で着心地が悪くなったパジャマを着替えようと、体を起こそうとすると、ベッドの脇に人影が見えた。

 そこには結人と若菜が並んで座っていた。


 「あれ、先輩達どうしたんですか・・・・・・?」

 「結人から桜乃ちゃんが風邪をひいたって聞いてお見舞いに来たのよ。はい、これ」


 若菜はスポーツドリンクとプリンが入った袋を桜乃に差し出す。

 桜乃はそれを受け取って、早速プリンを食べ始めた。

 お礼を言おうと若菜の方に目を向けると、その隣に居る結人をきっかけに夢のことを思い出した。

 意識はぼんやりとしたままそのことを話し出す。


 「あれ、先輩。今日朝大きくなってませんでした?」

 「なあっ!?」


 結人は悲鳴にも似た声を漏らす。

 心当たりでもあるのだろう。


 「な、何を言ってるんだ・・・・・・?」

 「いや、(タイツが)ピッチピチだったじゃないですか」


 桜乃の言葉に結人は顔を真っ赤に染める。

 一方若菜は何のことかよくわかっていない。


 「桜乃ちゃん、朝結人と一緒に居たの?」

 「(地震に)揺り起こされて見たら先輩が居たんですよ」

 「俺そんなことしてないぞ!!!」

 

 寝ぼけている桜乃が三人の間に齟齬をきたす。

 僅かな亀裂はやがて三人を隔てる大きな地割れとなった。


 「先輩急に飛びついてたじゃないですか」

 「何を言っている!?」

 「あんた桜乃ちゃんに何したの!!」


 ここでとうとう若菜も気づいた。

 その顔は結人同様真っ赤になっている。

 眉に皺を寄せ、結人に睨みを利かせる。


 「桜乃ちゃん大丈夫だったの!?」

 「はい? 私は大丈夫ですよ。相手は一条先輩ですし」


 若菜は目を見開き、顎が落ちるほど口を開けている。

 毎度のブサイク顔だ。


 「それで、二人は何を・・・・・・?」

 「結人先輩が上に乗って、(パンチなどの)色んな技を一条先輩に・・・・・・」

 「結人が攻めなのね!!!」


 そう叫んで若菜は目を輝かせている。

 (なんでこいつ興味津々なんだ・・・・・・)と怪訝に思う結人をよそに、二人の会話はヒートアップしていく。


 「それでそれで!?」

 「えーと、結人先輩が豪快に汁を出してましたね」

 「汁を!? どんな感じで?」

 「なんか嫌な音がしてました」

 「いやらしい音!!??」

 「言ってない言ってない」


 若菜は桜乃の言葉を都合良く着色していく。

 結人のツッコミも虚しく、若菜の耳には入らない。


 「最後一条先輩は(あの世へ)逝ってしまいましたね」

 「イッてしまった!!??」

 「文字がおかしいって・・・・・・」


 結人は気だるげに呟く。

 若菜の勘違いにうんざりしてしまったのだろう。

 

 「ご馳走様です・・・・・・」


 そう言って若菜は倒れた。

 この場から早く逃れたい結人は、倒れた若菜の腕を肩にかけて立ち上がる。


 「何を勘違いしてるのか知らないけど、後でちゃんと弁解しといてくれよ」


 結人はそう言って若菜を引きずるように部屋を出て行った。

 桜乃は疲れていたので、また眠りについた。


 そして起きた時に全てを察したが、若菜が嬉しそうだったしまあいいか、と誤解は解かないでおいた。


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